第2話 幼馴染
次の日。広季は気分の沈んだ状態で学校に登校した。
昨日の夜からひどく落ち込んでおり、寝て起きて気分が上がることはなかった。
1月しか付き合ってなかったが、なんだかんだで光が好きだったのだろう。
広季は暗い雰囲気を醸し出しながら、大和高校の教室に入る。
「おはよう!」
先に登校していた幼馴染の弥生仁美(やよい ひとみ)に声を掛けられる。
「あぁ。おはよう…」
広季は暗い声で挨拶し、席に座る。
広季と仁美の席は隣である。
「どうしたの?朝から暗いよ」
仁美はぱちぱちと亜麻色の大きな瞳を瞬かせる。
「あぁ。ちょっとへこむことがあってね」
広季は包み隠さずに打ち明けた。
「それってどういうこと。辛いことなの。もし、私でよければ、話を聞くよ」
仁美は心配そうな目を向ける。
「うん。辛い出来事だったよ。でも、ここではなんだから。学校終わった後の下校のときに話してもいいかな」
広季は目を合わせずに、机に顔を伏せたまま答える。
それからいつものように授業が始まる。
広季は気分の沈みが起因して全く授業に集中できなかった。
ボォーと教員の話を聞き続けた。
仁美も広季の胸中を推量したのか。授業中はおろか休み時間も話し掛けなかった。
教室でもぬけの殻のように過ごしていたら、学校はいつのまにか終わっていた。時間の経過は高速だった。
放課後に入り、広季は帰りの支度を済ませて仁美と一緒に帰路に就く。
教室を出て、昇降口で靴に履き替え、校門を抜ける。
「今日ずっと暗かったよ。そろそろ教えてよ。本当に何があったの?」
学校から離れて少しすると、仁美は隣で歩く広季に疑問を投げ掛けた。
「うん。実はな…」
広季は俯きながら、降り掛かった出来事をぼつぽつと打ち明ける。
光が大学生らしきイケメンとイチャイチャしている光景を目の当たりにしたこと。
そして、光を問い詰め、最終的に別れを切り出されたこと。
そのせいでひどく気分が沈んでいること。
すべてを正直に吐き出した。
一方、仁美は黙って話に耳を傾けていた。
「そうなんだね。それは大変だったね。気分が沈むのも無理ないよね」
仁美は憐れむような目で広季を見据えた。
「それにしてもひどいね。笠井さん。浮気をして、バレたら別れを切り出すなんて」
仁美は不機嫌な表情で亜麻色の髪をいじる。彼女のロングヘアが少し揺れる。
そのシーンが不思議と魅力的な絵になる。
お世辞なしで、仁美はそれほどの美貌を所持する。
「まぁ、しょうがないよ。光は俺よりも違う人を好きになったんだから。あの大学生らしきイケメンの男をね」
広季は盛大なため息をつきながら、顔を上げる。目の前には誰もいない平凡な道が映る。
歩を進めていると、2つの分かれ道が現れる。
「俺こっちだから。また明日」
広季は朝から変わっていない暗い口調で軽く手を振る。その後、仁美から視線を外して前進する。
「あのさっ」
仁美は分かれ道の1つを進む広季を制止する。
「どうかしたの?」
広季は気怠げに振り返る。その表情から早く帰りたそうにも見えた。
「もし良かったら家にでも来ない?高校になってから1回も来てないと思うから」
仁美は胸前で両拳を握りながら、勧誘する。ほのかに頬を赤く染めながら。
周囲に誰もいない分かれ道の近所で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます