後編

 婚約破棄から半年が経った。


 相変わらずシャーリーはギルドの治安維持部隊として働いていた。


 変わった事は祖父と絶縁したこと。


 ルドルフから婚約破棄を告げられて数週間後、祖父から罵倒だらけの手紙が届いた。

 罵倒だらけで読みにくかったが要約すると遺産はルドルフにやる、お前とは絶縁だ、だがルドルフと復縁するなら考えてもよいという内容。

 元々、閉鎖的で男尊女卑思考の故郷に余り良い思い出がない、帰る度に近隣の住民から女の癖に家を出て働いてる事に嫌味を言われ、母が故郷を飛び出し冒険者になった理由を知った。

 シャーリーは祖父からの手紙に悲観することなく、これは故郷に帰らなくて済むと喜び、祖父に解りました、絶縁します、故郷には二度と帰りませんとだけ書いて手紙を送った。

 それ以降、手紙は一通も来ていない。


 治安維持部隊として忙しくも平穏な日々を送っていたある日。


「シャーリー、あの人、シャーリーの元婚約者が来てるんだけど・・・・・・」


 嫌そうな顔で同僚はルドルフが来た事を告げる。

 前回の事はギルド内で知れ渡っており、皆、ルドルフに対して悪印象しかもっておらず、冷たく今はシャーリーは忙しいと言っても会わせてくれとせがんでいるそうだ。

 あの時、婚約破棄を申し込んできたとき、二度と会わないと言っていたのに。


「解った、会うわ」


 同僚から話を聞いたシャーリーは前回同様、応接室に向かった。


「ああ、シャーリー! 会いたかったよ!」


 嬉しそうに笑うルドルフは半年前に比べ、酷くやつれていた。

 その時点で何か遭ったと推測出来るが冷淡に久しぶりねと返して、ルドルフと向き合うような形で座った。


「で、用件って? アタシ、忙しいんだけど」

「実は、お前とやり直そうと思ってさ」

「はあ?」


 ニヘラと笑いながらルドルフは復縁を求めた。

 そんなルドルフに寒気を感じながらもシャーリーは冷静にどうして? と理由を聞く。


「彼女は、あの聖女はとんでもない女だった。見目は綺麗だったけど中身は違った」


 その言葉だけでシャーリーは同僚から聞いた聖女の噂を思い出す。

 その噂とは。


――今年の聖夜祭の聖女、聖夜祭責任者の愛人だって話らしいよ。


 というものだ。

 詳しく聞けば、今年は歌姫と称される舞台女優を聖女に抜擢する予定だったが急遽、責任者が何処からか連れてきた女性を聖女として抜擢したらしい。

 周りは反対したが責任者がごり押ししたらしく、それでそういう噂がたったようだ。

 その話を聞いたとき復縁を求められそうと呟いたことをシャーリーは思い出し、本当の事になったと落ち込む。


「彼女はとんでもない阿婆擦れだった。俺がアプローチしても無視したくせに他の男には、うう~」


 泣き出すルドルフにシャーリーは溜息しか出てこない。

 早く終わらせたいという気持ちが大きく占め。


「あらそう、それは残念でしたね。アタシは貴方とは復縁しませんので帰って下さい」


 バッサリと切り捨てることにした。


「え?」

「貴方、女らしくないお前と結婚なんて嫌だとか言ってたじゃない。それにアタシは貴方と復縁する気は一切ないわ」

「復縁してやるって言ってるのになんだその態度は!!!!!!」


 ガンッ!! と二人を挟むように置いてあるテーブルをルドルフは思いっきり叩くが荒くれ者の冒険者を相手しているシャーリーは怯えることなくルドルフを見据え、ハッキリと強い口調で。


「もう一度言うわ、復縁しない。帰って」


 言い放つ。

 それにルドルフは顔を真っ赤にさせフルフルと怒りで体を震わせ。


「ふざけるな~!!!!!! お前は俺が好きで婚約したんだろ!?」


 そう叫んだ。

 シャーリーはルドルフから出た有り得ない話に口をポカンと開けた。


「はい?」

「俺の両親からお前が俺のことを好きだから婚約して欲しいって頼まれたから俺は婚約したんだぞ!!」


 それで、シャーリーは合点がいった。

 婚約破棄の帰り際、怒ったのはシャーリーが自分に惚れているから破棄は嫌だとすがりつくと思い込んでいたからだと。

 だけど、今はそれはどうでもいい。今は帰ってもらう方が先だ。


「なにそれ、あの婚約はアタシの祖父が勝手に決めた事よ。アンタなんか好きじゃない」

「嘘だ!! お前は俺に惚れてる!!」

「嘘じゃないわよ。会う度に一々嫌味を言う男なんか好きになるわけないじゃない。自惚れんな」

「あれは俺に相応しい女になってもらおうと・・・・・・」

「あっそ。もうアタシはアンタに言う事ないから帰れ」


 強く冷たく言い放つとルドルフはフラフラとした足取りでようやく応接室を出て行った。


「あ~、疲れた~・・・・・・」


 それを見送ったシャーリーは応接室のソファーに寝転んだ。


 数日後、聖夜祭の聖女について何があったのか自称情報通の冒険者から話を聞いた。


 聖夜祭では新しい年を司る神を迎える為の儀式を行うのだが、その練習中に聖女は儀式に護衛として参加する騎士団の顔と言うべき剣聖に手を出そうとしたそうだ。

 会う度に口説いたり、必要以上に接触してきて、非常に迷惑そうにしていたという。

 挙句の果てに未遂に終わったが夜這いまでしたようで、これには剣聖と騎士団長は怒り、聖夜祭主催側に直々に抗議。

 話し合いの際に責任者がこの阿婆擦れと聖女に平手打ちをかましたことにより、責任者の愛人であった事が露見。

 噂は本当だったようだ。

 おまけとしてルドルフは聖女にアプローチとして色々と貢いでいたようで、結構な借金をしていたという話を教えてくれた。

 シャーリーは思った、自業自得じゃね? と。


――二年後。


「ん? 手紙? げっ!」


 ルドルフの件から二年が過ぎたころ、あのルドルフから手紙が送られてきた。

 破り捨てても良かったが内容が気になり、見てみることにした。


 手紙には借金返済の為に働いていたが、それが原因で体調を崩し故郷へ帰ったこと。シャーリーの祖父が亡くなり、ルドルフに渡されるはずだった遺産は両親に全て奪われ何処かへ消えたこと、最後に君のオムライスが食べたいと書かれ、シャーリーは頭を抱える。


「お前にオムライス作った事ないんだけど・・・・・・」


 手紙を見て最後の行に書かれたオムライス、捏造された記憶に呆れてるとシャーリーの自宅から一人の男性がシャーリーが家に中々入らない事を心配して出てきた。


「家に入らないでどうしたんだい?」

「ん? いや、なんでも、そうだ! 今日の夕飯、オムライスでいい?」

「別にいいけど、君が持ってる手紙と関係が?」

「ある! 食べてる所、魔導写真で撮って送ってもいい?」

「勿論いいよ」


 男性から了承を貰うとシャーリーはオムライスを作り、彼がオムライスを美味しそうに食べてる写真をルドルフに送ったがルドルフから手紙は来なかった。

 多分、ルドルフは打ちのめされたからに違いない。


 だって、写真に写る男性はシャーリーの恋人となった騎士団の剣聖なのだから。

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