聖女という言葉に騙されてませんか?
うにどん
前編
「はいはいはい、受付嬢に手を出さないで下さいね~」
「いでぇ!! いでぇ~!!」
冒険ギルドにて強引に受付嬢に迫った冒険者に関節技を決めている女性、名はシャーリー。
伝説と称えられた冒険者であった亡き両親の力を受け継いだ彼女は冒険ギルドで治安維持部隊の一員として働いている。
「もう彼女には近づかない?」
「近づかない!! 絶対に今後は近づきません!!」
「よし」
冒険者から受付嬢に近づかないという言葉を貰うとシャーリーは解放、冒険者は解放した途端、その場から去って行った。
冒険者が居なくなるのを確認してから、端っこに立つ怯えている受付嬢の元へ。彼女の腕にはくっきりと腕を掴まれた後が、それを見たシャーリーは眉間に皺を寄せると優しく受付嬢の腕を掴んだ。
「うわ~、腕に後が付いちゃってるわね。魔法屋のエマ婆ちゃん、呼んでくるわ」
「いえ、大丈夫です。後で行きます。助けてくれてありがとうございます」
「そう、解った。必ず行くのよ」
「はい、この後、すぐに行きますから。安心してください」
怯えていた受付嬢は笑顔でシャーリーに御礼を言う。
その姿にホッとしたシャーリーは持ち場に戻ろうとしたとき。
「シャーリー! アンタを呼んでる人が居るんだけど!」
「アタシを?」
「ルドルフって言う人なんだけど・・・・・・」
「あ~・・・・・・。解った、呼び出しに応じるわ」
「じゃあ、応接室に案内するね」
同じ治安維持部隊に所属している同僚からルドルフという人物から呼び出されている事を告げられ、応じると答えた。
シャーリーを呼び出した人物、ルドルフ。
現在、王都にて騎士をしているシャーリーの婚約者だ。
婚約者と言ってもお互いの合意無しで決められた婚約だった為、仲が良いとは言えず、会うのは故郷に帰るときぐらい。
冒険者を毛嫌いし滅多にギルドに近づかない男がどうして? という疑問はあるが会えば解るだろうとシャーリーはルドルフが待つ応接室へ向かった。
「婚約を破棄させてくれ」
応接室へ来ると開口一番に言われた。
想像してなかった事に呆気に取られるシャーリー。
ルドルフはそんなシャーリーを気にすることなく真剣な顔つきで。
「もう一度言う、婚約破棄してくれ」
言い放った。
戸惑ったシャーリーだったが冷静さを取り戻し。
「あ、ああ、そう。一応、理由を聞いても?」
取り乱すことなく聞くとルドルフは癪に障ったのは少しムッとした顔をしながら理由を話し始めた。
今年の聖夜祭――一年の終わりを告げ、新しい一年を迎える祝祭の聖女に抜擢された女性に惚れたからだと言う。
「聖女とは身も心の清らかで美しい女性がなるもの。彼女は正に清楚で可憐を絵に描いたような女性なんだ! 冒険ギルドで荒い冒険者達を相手に取っ組み合いしている君とは大違いだ! 彼女の笑顔なんて正に花の・・・・・・」
「ああ、そうですか。それじゃあ、婚約破棄しましょう」
どれだけ清楚で美しいかを語るルドルフの話を遮って婚約破棄了承を告げると。
「婚約破棄されるというのになんだその態度は!!!!!! 引き留めるという事すらしないとは本当に最低な女だな!! もういい!! お前とはもう会わない!! 故郷の両親には俺から伝えておく!! せいぜい、躊躇うことなく破棄したことを後悔しろ!!!!!!」
素っ気ない態度のシャーリーにルドルフは声を荒げ、荒々しく応接室から出て行った。
シャーリーはそんなルドルフに呆れ、はあ~と深い溜息を吐く。
ルドルフとの婚約は両親を早くに亡くしたシャーリーを哀れに思った祖父が勝手にしたものだ。
シャーリーは勝手に決めたことを激しく怒ったがお前のためにと泣き出してしまったのでシャーリーは祖父にこれ以上、婚約の事を言うのは止めた。
後にルドルフの両親はシャーリーの為に残す祖父の遺産狙いで婚約したことを知ったことで嫌悪感が募り、ルドルフに会う事すら嫌になっていたので逆に婚約破棄されたのは嬉しかったのだ。
ルドルフだって、会う度にガサツだと女として価値がないと言っていた為、この婚約は嫌だったはず。
それなのに最後のあの荒ぶりなんだったのか。
まるで引き留めてもらいたかったかのよう。
もしかしたら、シャーリーがルドルフのことを好きだと思っていたのか。そうだったら、只のバカとしか言い様がない。
「シャーリー、大丈夫?」
脱力して動けないシャーリーを心配してか同僚が来た。
ルドルフの大声が聞こえていたのか凄く心配そうな顔をしている同僚にニカッと笑って大丈夫と話す。
「あははは、聞こえちゃった?」
「う、うん、あんな大きい声だされちゃね・・・・・・」
「心配しないで婚約破棄されても全然ダメージないから、最後の彼奴の怒りが意味分からなくて疲れただけ」
「そうなんだ。彼、聖女とか言ってた?」
「言ってたけど、どうしたの?」
「それがさ、聖夜祭の聖女に選ばれた人なんだけどさ~」
声を潜めて同僚は聖女に関する噂を話してくれた。
それを聞いたシャーリーは。
「うわぁ~、それが本当ならまた婚約してくれって言われそうなんだけど・・・・・・」
そう呟くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます