おじいちゃん…?

 単純かつ明快なハエルの説明。

 故に、何も誤解できなかった実は―――



「…………へ?」



 たっぷりの間を置いた後、目を点にした。

 そんな実を見つめていたハエルの目が、ベッド下のイリヤたちに移る。



「そこにいらっしゃるのは、エリオス様のご家族です。一番前にいらっしゃるのが、お父様のイリヤ様。後ろにいらっしゃるのが、兄君のユリアス様と妹君のエーリリテ様になります。」



「………」



 パチパチと目をまたたかせた実は、茫然とした表情でイリヤたちを見つめる。



 父さんの実家。

 父さんの家族。



 父さんの父さんってことは、そこでにこにこと笑っている人は―――



「……おじい、ちゃん?」



 つまり、そういうことだよね?



 事実としてそこまでは思い至ったのだが、実感が湧かない実は、どこか不思議そうな顔でこてんと首を傾けるしかなかった。



 そりゃそうか。

 自分も父もこの世界の生まれなのだから、こちらに親戚がいて当然か。



 なるほど。

 父の実家がある街だったから、皆が自分を見て父の名を口にしていたのか。

 そんな街に訪れるなんて、なんという偶然だろう。



 理性はするすると状況を飲み込んでいくのだが、感情が全くそこについていけない。



 というのも、祖父母については両親からずっと〝ものすごく遠くにいるから、会いたくても会えないんだ〟と言われてきた。



 今思えば、その説明に嘘はない。

 祖父母は次元を超えたその向こうにいるのだから、会えるわけがないのだ。



 ただ、異世界の存在を忘れた無垢な子供は〝ものすごく遠い場所=天国〟だと思うじゃないですか。



 そういうわけで、自分はこれまで、両親の親戚は皆死んだものとして理解していた。



 そこで突然、親戚とのご対面ですなんて言われても、ついていけるわけがありませんって。



 実はそうだったのだが、対するイリヤはそうではなかったらしい。



 彼は実を見たまま、目をまんまるにして硬直。

 しばらくすると、その唇と肩がふるふると震え出す。



 そして―――



「お……おじいちゃん…っ」



 両手で胸を押さえて感動を噛み締めたかと思うと、そのまま後ろにひっくり返ってしまった。



「………っ!?」

「と、父さん!?」



 声もなく動揺する実と、慌ててイリヤの元に駆け寄るエーリリテとユリアス。

 皆の視線を一身に浴びるイリヤというと……



「おじいちゃんなんて、そんなぁ…っ。初めて呼ばれたぁ~…♪」



 意識と魂を半分飛ばし、恍惚とした表情で溶けていた。



「やっぱり……変な人だ……」

「そうなんです。変人扱いされるくらい、愛情が深すぎる方なんです。」



 やれやれ。

 初めて会った孫をここまでドン引きさせてどうする。



 より一層身を寄せてくる実を見つめながら、ハエルは溜め息をつくしかないのであった。


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