世界の十字路~Side Story~
時雨青葉
出会いは突然!親族遭遇事件!?
悲鳴に誘われて
「くっそ…っ。逃げやがった…っ」
何人目かも分からない敵を倒したところで、とんでもないことに気付いた。
実は
レティルからゲームを仕組まれるようになって、まだ数日。
自分は、苦戦を
無視しようとした結果、地球に敵を送られたので、仕方なくこちらに出向いてゲームに付き合うしかなくなったわけだが、無茶振りもいい加減にしろというのが本音。
父に習って戦闘技術を鍛えていたのが、何年前のことだと思っているのだ。
たまたま運動神経を抜群で保っていたとはいえ、勘を取り戻すにはまだまだ時間がかかる。
父の訓練がえげつなかったからなんとかなっているものの、こんな風に戦えるほどの実戦は積んでいないというのに。
文句は腐るほどあるが、とりあえず今度怒鳴り込みに行って、せめてゲームの場所は固定しろとだけ言ってやる。
深い森の中を駆け抜け、追いついた奴らから片っ端に倒す。
甘かった。
次からは、逃走防止のために結界を張っておくべきか。
実戦経験が
というか、あのくそ野郎!
面白がるように、毎回こっちの穴を突いてくるなっての!
高みの見物状態で遊ばれていると思うと、腹の底から沸き上がるものがある。
脳内をふつふつと沸騰させながら、実は敵との追いかけっこを続けていた。
「―――ふう。これで全部、かな…?」
最後の一人を倒し、実は滴る汗を拭った。
「まったく…。随分と街に近付いちゃったな……」
遠くから、微かに人の声が聞こえてくる。
そちらに目を向けると、木々の奥に立ち並ぶ建物と、そこから漏れた光がぼんやりと見えた。
「………」
きつく眉根を寄せる実。
……正直、人がいる場所には行きたくない。
この世界に住んでいた頃の自分は、禁忌の森から人里に降りたことはなかった。
それ故に、〝鍵〟である自分が他人からどう見えるのかが分からないのだ。
ちょっとした魔法でごまかせるならいいが、魔力を感じ取られただけで〝鍵〟と見抜かれてしまうのだとしたら……
そう思うと、怖くて実験してみるという手にも出られない。
とにかく一番の安全策は、下手にこの世界には関わらず、野暮用を最低限の手間で済ませて、さっさと地球に帰ることのみだ。
森の奥で少し休憩して、魔力が回復したら帰ろう。
そう思って
「きゃああああっ!!」
今まさに背を向けた街の方から、甲高い叫び声が聞こえた。
「はっ!?」
瞠目して背後を振り返る実。
「まさか、取り逃がした…?」
思い至ると同時に、魔力探知の術を広域展開。
反射的にした最悪の予想は大当たりで、騒がしくなった街の方角からレティルの魔力が。
「ああもう! やらかした!」
実は大慌てで走り出した。
人前に出てしまうことへの懸念はあるが、今はレティルが放った敵が誰かに被害を与えてしまうことの方がまずい。
いざとなったら、居合わせた人から自分の記憶を消して逃げればいいのだ。
そう言い聞かせ、建物の隙間を駆け抜けて大通りへと躍り出る。
そこでは、蛮族のような格好をした男が、血走った目で大振りの
よかった。
特定の誰かを狙ったわけではなく、街のど真ん中で刃物を振り回しているだけのようだ。
大通りにいた人々は男から距離を取り、怯えた表情で彼の動向を警戒している。
なるほど。
自分にシカトされそうになったから、パフォーマンスで暴れて自分の気を引くように命令を受けたか。
ゲームに付き合ってやる代わりに、自分以外の人間には絶対に危害を加えるな。
地球に敵を送られたその日に抗議したことを、レティルは律儀に守っているようだ。
―――って、肉体に危害を加えなきゃいいってわけじゃないっての!
どうせ、取り逃がした俺が悪いって言うんだろうけど!!
脳内ツッコミもそこそこに、実はその場から勢いよく駆け出す。
人混みを掻き分けるのも手間なので、魔力を込めながら思い切り跳躍。
建物の二階くらいまで高く飛び上がり、落下の勢いを借りて男の頭に強烈な蹴りをくれてやる。
「こんの腐れ野郎…っ。人様に迷惑かけるなよ…っ」
それは昏倒した男に向けたものなのか、これを創ったレティルに向けたものなのか。
正直、どっちなのか分からなかった。
とりあえず、一発で静められてよかった。
蹴り倒すと同時に魔法を仕込んでおいたので、この男が起き上がることはもうないだろう。
眠らせただけだが、こんな人の往来がある場所で殺すわけにもいかないので、ここは勘弁してもらいたい。
そんなことを思いながら、男の手から
他にも凶器を持っていないかを確かめ、二本ばかりのナイフを押収。
念には念を入れ、取り上げた刃物を魔法で木っ端微塵に壊しておくことにする。
そうして一息ついたところで、周囲のざわめきが耳に入った。
顔を上げれば、男を警戒していた人々の視線がこちらに集中している。
皆こちらを見て、幽霊でも見たかのように目をしばたたかせていた。
「あの……お、お騒がせしてすみません……」
途端に気まずくなり、実はそこから一歩後退。
「
男の格好から無難な言い訳を取り繕うものの、周囲はそれを聞くと不可解そうな顔をした。
これは、記憶を消してトンズラを決行する他に道はないか。
愛想笑いを浮かべる実は、その裏で魔法をスタンバイ。
その時、人混みの最前線にいた男性が口を開いた。
「なんだ、お前……エリオスじゃないのか?」
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