第4話 ネオデウス学園への入学 静かな戦い
ティリオは、嫁であるジュリアとナリルのアリルの三人と共に、特別な組織カレイドから来た千華と紫苑の話をシュルメルム宇宙工業学園の自分達のホームで聞いていた。
千華が微妙な笑みで
「スラッシャーのヤツの活動は、今の所…見られないわね」
紫苑が
「正確には、兆候を見つけられないと言った方が正しいです」
ティリオが渋い顔で腕組みして
「そうか…アイツらは、姿を隠すのが上手いからなぁ…」
千華が
「尻尾も掴ませないから厄介ね」
紫苑が腕にあるリストバンド型端末を起動させて立体画面を開き
「おそらく…ヴァラスアルヴァが関わっているのは…間違いないとは思うのですが…。全ては憶測程度でしかありません」
ジュリアが
「連中も…ヴァラスアルヴァもヘオスポロスと同じ、無限に物量を生産する能力を保有している。偽装なんてお手の物よ」
千華が忌々しい顔で
「だから、ヘオスポロスにもカレイドが情報を横流しにして、揺さぶって動かそうとしているけど…」
アリルが
「思い通りには行かないか…」
紫苑が複雑な顔で
「ヘオスポロスも、そういう情報戦は得意分野ですから」
ナリルが
「こっちが、その情報戦に惑わされないようにしないと…」
千華が
「でも、まだ…ヘオスポロスの方が協力者にはなるかも。ティリオ、アンタに渡したデータを開示して」
「ああ…」とティリオは千華から受け取った情報を立体画面端末に差し込み、情報を開示すると
「これは…」
千華が笑み
「アンタ達を誘ったデュエロタクトの連中の一人、レリス・ヴィル・ボードリンは、ヘオスポロスと繋がる時空から来ているのよ。つまり…」
ティリオが嫌そうな顔で
「繋がる為の間者として…」
千華が
「お互いに利用し合えば良いじゃん。ギブ アンド テイクよ」
ティリオは黙ってしまう。
その反応に千華は、分かりやすい…良い子なんだなぁ…と思う。
こうして、ティリオと繋がっている組織カレイドとの話し合いを終えて、千華が帰る寸前に
「ああ…そうだ。もし目立つのがダメだったら、とことん目立ちなよ」
ティリオが眉間を寄せて
「それっていいのか? オレ達は秘密裏に動いているんだぞ」
千華はイタズラな笑みでティリオに
「だって、アンタは…そういう血統の下に産まれたんだから。それに悪い事ばかりじゃあないと思うわよ」
ティリオは「はいはい」と話半分で聞き終えた。
◇◇◇◇◇
翌朝、ティリオはジュリアにアリルとナリルの三人と共に校舎へ向かう。
その移動を担うリニア列車で一人の少女が近づく
「おはよう」
声を掛けたのは、最初に校舎案内をしてくれたシトリーだ。
ティリオは「ああ…おはよう」と挨拶をすると、それにジュリア、アリル、ナリルが続いて「おはよう」と返事をする。
シトリーが微妙な笑みで
「入学早々、大変だったね」
ティリオは溜息交じりで
「ええ…あんな事になるなんて…」
シトリーが
「皆さんは、デュエロタクトの
ティリオが首を傾げて
「そんなつもりもないですし、入れませんから…」
シトリーが疑問に首を傾げて
「どうして?」
ナリルが
「私達四人は、ここの時空、インダスタル時空のシュルメルム銀河艦隊の軍属に属していますから…」
シトリーが困惑気味に
「ええ…軍属…ああ…なるほど」
シトリーは、ティリオのデュエロタクトの戦いを中継で見ていた。
デュエロタクトの戦いは、このシュルメルム宇宙工業学園の生徒にとって娯楽でもあり、マキナ同士の戦闘を勉強する手段でもある。
実際は、娯楽の要素が強いスポーツの戦いなので死者は出た事が無いから、本当の実戦というのを知る事はない。
だが、ティリオ達は違う。
軍属であるという事は、実戦を知っているという事だ。
勝利や任務遂行が絶対の戦闘を知るプロが、娯楽のスポーツに関わるのは…問題である。
競技に人殺しの技術は必要ない。
シトリーな納得して
「そうか。それなら仕方ないよね」
ティリオが微笑み
「ええ…なので、貴女と同じ普通の学生として過ごしますよ」
シトリーが少し考え気味に
「じゃあ…なんで、この学園に来たの? 貴方なら…必要ないのでは?」
ティリオが作り笑みをして
「察していただけるとありがたい。この学園には父の編み出した超越存在の…」
シトリーがハッとして
「ああ…その関係なんだ…」
ティリオが指で口を押さえて
「なので、普通の学生として接してくれるなら、問題ありません」
シトリーは何となく理解して
「分かった。じゃあ、ティリオくんは、私と同じマキナの整備や生産技術を学ぶんだよね」
ティリオが頷き
「はい。そうです」
シトリーが
「これから駆動関係の授業があるから、一緒にどう?」
ティリオは
「ええ…それに自分達が行く予定でした」
「おい!」と割り込む声が入る。
声の主はグランナと、その後ろにはグランナに通じる生徒達が並んでいる。
ティリオが面倒な顔で「何?」と尋ねる。
グランナが首を振って
「少しつき合え」
◇◇◇◇◇
グランナにティリオ達が連れられて来た場所は、グランナのホームだ。
グランナに連れられて来た場所は、ホームの施設の大きな会議室で、グランナはティリオ達を正面のソファーに座らせて自分は、対面のソファーに座る。
その会議室には、グランナの他に数名のグランナのホームの学生達がいた。
その全員が人型だが、様々な形状をしている。
獣人型から、樹木人型、ドラゴンヒューマン、人型と様々な種族がいる。
その姿は、ティリオが産まれたアースガイヤでも様々な種族がいたので、格段に珍しい事ではない。
正面ソファーにいるグランナが
「さっそくだが、面倒を省く。オレの傘下に入れ」
それを聞いたティリオとジュリアにナリルとアリルの四人は、唖然とした顔をする。
グランナが堂々した態度で
「オレの下に入れば、今後…学園での面倒事には、巻き込まれない。それに…オレは、セレソウム時空を背負って立つ男だ。オレとのコネクションを持っていても損はない。むしろ、得だぞ」
ティリオが微妙な顔をして
「ああ…そう…ですか。なるほど…」
と、呟きジュリアとナリルとアリルの三人にアイコンタクトする。
それは、これは断った方が無難だよね…というティリオの無言に、静かに三人は頷く。
「申し訳ないですが…お断りをする選択肢は…」
グランナの後ろにいる生徒の一人、獣人の女学生シェルテが
「グランナ様の誘いを断るなんて、無礼だぞ!」
グランナの後ろにいる学生達の視線が鋭くなる。
どうやら、グランナと同じセレソウム時空の出身で、グランナの一族と強く繋がっているのだろう。
まあ、時空レベルの貴族という立場なら珍しい事じゃあない。
実際に、ティリオの幼い頃の周りにも良家の子と繋がっている家の子供達の集団は幾つも見て来た。
それと同じだ。
ティリオが手を組み
「残念ですが。貴方達と手を組む理由がない。それに…理事長ヴィルガメス様から」
グランナの後ろにいる取り巻きで大きな体のドラゴンヒューマンのラドが
「そんなのお前が頷けば、どうにでもなる」
ティリオは困ってしまう。
始めから断る事ができない前提で進んでいる。
「それでも、断るとしたら…」
グランナの後ろにいる体格が大きい学生達がティリオ達を囲み
「実力行使だ」
ジュリアとナリルとアリルの三人は呆れ気味で、ティリオは頭を抱える。
ティリオが鋭い顔で
「じゃあ、正当防衛って事で…問題ないよね。残念だけどお断りします」
「コイツ!!!」とグランナの取り巻きがティリオの襟を掴んだ瞬間、ティリオがその手を握り、自分より大きな体格の樹木人型を投げ飛ばした。
「コノ!」と他の体格が大きな獣人やドラゴンヒューマンが、ジュリアとナリルとアリルへ襲いかかるも、ジュリアとアリルの姿が消え、気付いた時には獣人とドラゴンヒューマンの顎に正手をして気絶させた。
ナリルへ襲いかかろうとする樹木人型は、ナリルがその手を流して腹部に正拳突きを放つと軽々と巨体が飛んで転がる。
獣人の女学生がティリオへ素早く殴り掛かるが、ティリオは素早くその拳をいなしてカウンターを入れる。
ティリオ達へ襲いかかった者達は、全員が倒されて、グランナとシェルテにラドが残った。
グランナはティリオ達の実力を見て厳しい顔をする。
ティリオ達の動きはスポーツのような競技ではない。戦う為に、相手を制圧する為に磨かれた技術であって、武術ではない。
軍人が相手を倒すだけに磨かれた術のソレだ。
ティリオが
「じゃあ、そういう事なんで、怨みは無し…という事で」
グランナが腕時計にある端末を触り
「今の様子を映像に記録した」
ティリオが厳しい顔で
「脅迫かい? それで?」
と、威圧が籠もっている。
グランナが
「どんなにお前等が正しくても、色を付けて宣伝すれば…お前等はこの学園にいる事が出来なくなる」
ティリオが鼻息を荒げて
「は! だから従えって…野蛮人だな」
グランナが鋭い視線で
「オレは、どんな手段を使ってでも、
ティリオとグランナはお互いに鋭い視線を交差させる。
ティリオは、桜花からセレソウム時空の事情は聞いていた。
セレソウム時空の中心、桜花の兄達がいる首都惑星から、セレソウム時空とそれに付随する時空達に、超越存在であり宇宙王でもある桜花の兄達が超越存在のエネルギーを分配している。
グランナは、どうやら…その分配されているエネルギーを貰う時空の者なのだろう。
桜花の兄達は、ヒドい人達ではないが…それでも支配されている。
グランナが
「この学園にはなぁ…その超越存在になるって覚悟をして入ってきた連中がたくさんいるんだよ。オレもその一人だ。だから、その為のチャンスが目の前にあるなら…どんな手を使っても手に入れる」
グランナには覚悟がある。
どんな事情があるにせよ。グランナは、ここで超越存在になる為に仲間と共に必死にあがいている。
グランナを守るように右にいるシェルテが
「ねぇ…どうして、そんなに拒否するのさ。別にアンタだって学園で静かに過ごすなら後ろ盾があった方が楽だろう。だったら」
ティリオの殺気が膨れ上がる。
それにグランナは怯みそうになるも耐え、両脇にいたシェルテとラドが恐怖で無意識に下がってしまう。
ティリオの口調が鋭く重く
「確かに、お遊びに来ているように見えるだろうが…オレは、オレがやるべき戦いがあってここにいる」
強烈で巨大なバケモノのような殺気がティリオから放たれて、背中が僅かに黄金に光を漏らすと、ジュリアが
「ティリオ…」
と、ティリオの背中を摩る。
ティリオは、それに気付き殺気をしまって
「とにかくだ。オレ達は、どこにも属さない。じゃあ」
と、去ろうする。
そこへグランナが
「じゃあ、どうすれば、入ってくれるんだ? 教えてくれ?」
と、問いかける。
ティリオが
「そんな方法はないよ」
と、告げてジュリアとナリルとアリルの三人を連れて去った。
ティリオ達が去った後、倒されたグランナの仲間へグランナが近づき回復の力を注ぎ込む。それで倒された仲間達が素早く回復して
「申し訳ありません。グランナ様」
グランナが首を振り
「いいさ。他の策を考える…という前に、ティリオ・グレンテルに関して色々と調べるぞ」
◇◇◇◇◇
ティリオ達四人は、グランナのホームから去り、校舎へ向かう途中の道でシトリーがいた。
シトリーはティリオ達に駆けつけて
「大丈夫だった?」
ティリオは肩をすくめて
「ああ…まあ、何とかね」
シトリーが安堵して
「良かった。後少し遅かったら学園の警備警察へ連絡するつもりだったのよ」
ティリオが微笑み
「心配をかけて申し訳ない」
シトリーが
「とにかく、アナタ達がみんな無事でよかった」
ジュリアが
「気にしてくれてありがとう」
と、後にナリルとアリルも微笑む。
こうして、ティリオ達はシトリーと仲良くなり、夜にシトリーのホームへ誘われる事となった。
◇◇◇◇◇
ティリオ達がシトリーのホームへ誘われている最中、グランナの仲間の一人であるラドとシェルテがデータベースでティリオ達の事を調べていると
シェルテが
「ラド…全然、出てこないね」
ラドが様々な事件の検索をしつつ
「何か、それらしい事件の検索をしてみよう」
二人の調査が手詰まりになっていた。
そんな二人がいる席、学園のデータベース図書館に一人の男が近づく
「よう、何か困り事かね?」
と、微笑む男。
ラドと同じ百九十センチの長身で屈強な体をしている男が笑みで、検索する席にいる二人に近づく。
シェルテが
「あの…どちら様で?」
男が
「なぁ…に、ちょっとね。あの子と因縁がある者でね。知りたいんだろう。ティリオ・グレンテルが…どうして、この学園にいるのかって?」
ラドが厳しい目で
「おっさん。オレ等を詐欺ろうってしているのか?」
男が笑み
「とにかく、話を聞いてくれよ。その後でね」
一応、シェルテとラドは話だけでも聞く事にした。
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