第9話 崩される日常のムコウで②【別視点】
目的の小惑星が見えてきた。
情報通りY軸プラス方向のやや後方よりから物資搬入用シャトルが近づいて来る。
これに取り付くため、最後の軌道修正を行う。軌道を計算し、担いできた岩塊を虚空に投げる。
投石の反作用で流されるままにシャトルに近づき、吸着ワイヤーを射出。
ワイヤーを巻き取りシャトルに取り付き、荷台のオープンスペースへ移動。
事前の指示通り、補充用のレイバロイドの固定スペースに二機分の空きを確認。背負って来たもう一機のレイバロイドと共に自分も固定、そのまま搬入口への到着を待つ。
ゆっくりと開く搬入口。その中央をシャトルが滑り込んでいく。
ここから先は情報がない。
今、ボクのボディは本来の
ここで使用されているレイバロイドと同型のボディを取り寄せた上で自分の中枢機構である
レイバロイドはアンドロイドの廉価版に位置する存在だ。基本的にはマザープログラムの制御により集団または連携した作業を行うことを目的として配備される。稀に核器を持つ上位機体も存在する。この場合はアンドロイドへの移行前のプログラム体の試験運用を目的とすていることが多い。
実際にボクもこのルートでアンドロイドになったクチだ。
さて、ボクが持ち込んだレイバロイドもボクの核器を納めた
色々考えたところで、入港のチェックをすり抜けることが最初の関門であることに間違いはない。覚悟を決めていこう。
……あっけないほどアッサリと内部に侵入できた。
他のレイバロイド達に続いてタラップを降りる。
念の為、ここまで背負ってきた方のレイバロイドをデコイとして先行させてみたが、こちらも見咎められた様子はない。安心して後に続く。
このデコイは、今のボデイと同型のレイバロイドだ。ミッションのサポート用に調整した以外、中身は特にいじっていないため、普通のレイバロイドと同様簡単な作業しかできない。
とはいえ、他のレイバロイド達とは中身が多少異なる事は否めない。怪しい機体をワザと先行させて、施設の防衛機構の有無とレベルを確認するために連れてきたのだ。
シャトルに施設のレイバロイドが加わって、それぞれが荷台に群がる。
流石に外部からの一括制御だけあって、流れるような連携により次々と搬入物資と搬出物資を入れ替えていく。
満載になった搬入用カーゴの移動に紛れて補完区域へ移動。荷物には触らずにサポート機と共にカーゴを離れた。認識阻害プログラムを走らせるためだ。
万が一、他の一般レイバロイドに効果が被ってしまえば不具合が露見するかもしれない。大事をとって、影響がない距離まで離れてから、施設の管理システムへのシステムへの侵入ウィザードを実行し、認識阻害のプログラムも走らせる。
どうやら、協力者が内部に詳しいというのは本当らしい。システム侵入のウィザードプログラムが問題なく引き込みプログラムと結合して、僕に最上位権限をつけてくれた。
いよいよ、管理システムにダイブする。僕はサポート機と倉庫の空きスペースの中央へ移動する。認識阻害が働いている以上、ココが最も不測の事態が起こりにくそうだ。
サポート機の方もシステムダイブさせ二手に分かれて走査を開始する。
サイバースペースの見え方は個人差が大きい。どのように感じるかの設定は各個人の自由だからだ。
ボクの場合は、入り口は宇宙空間のようを意識した設定にしている。
さて、暗く何もない空間にたくさんの星が見える。
星々の一つ一つがデータやプログラムだ。赤っぽいものがアプリ系、青っぽいものがデータ系、大きさはそれぞれのデータ量を表す。
各星々に意識を向ければ、タグや簡単な概要が分かる。
先行した協力者の仕事を信じて指定のタグが付いた星々に手を伸ばす。
星に触れれば触れるほど手元のバッグの中の宇宙に星のレプリカが溜まってゆく。
「こんなものかな」
ボクはバッグの中ポケットに赤と青の星を区分けして放り込み、青い星が入ったポケットに飛び込んだ。
今、ボクの目の前には大きな書庫がある。
書庫の壁には蔵書の状況が一目でわかる俯瞰図が貼られている。
これから、サポート機と手分けして、当たりをつけた棚を訪問し、情報を集めていく。
必要な情報は、施設の地図と物資の移動の記録。生物の存在の有無と出入りの履歴。施設に関する直近の予定。そして最も重要なターゲットの形状と位置。
「さて、始めよう」
ボクは気合を入れて、情報の収集を始める。
サポート機の運用にも慣れてきた。はじめは二つの体を動かす感覚に戸惑ったが、慣れてしまえば効率が断然違う。
しかし、依頼主が言うようなモノが本当にあるのだろうか。
——賢者の石を生成する施設、または物質——
確かに冴澄家は賢者の石のオリジナル品の唯一の生産地だ。この技術が冴澄家に連合内で独立国としての地位をもたらしたといっても過言ではない。この事実からも、その技術の有用性は疑うべくもない。
しかし、現在ではオリジナルの賢者の石を基に、賢者の石を増やす技術が開発されている。
この時期に、今や他国となった冴澄から技術を奪う意味が分からない。リスクとリターンを比べてみても割に合わないだろうに……。
「いけない、いけない、集中しないと」
いつの間にか手が止まっていたよ。速やかに終わらせないと、長引けば本来の管理者に気付かれるリスクが大きくなる。
それは突然だった。
体に走った痛みに、一瞬存在が消えそうになる——気付かれた!
自分の存在の失った部分に、本体に保存してあった雛形の該当箇所を貼り付けて、消滅を防ぐ——今、ボクが消えてしまったら、ここまで集めたデータも消えてしまう……。
すぐにサポート機からデータを抜き取り、これをデコイとする。
次の攻撃が来る前にボクとデコイの存在を入れかえることができれば逃げ切れる——間に合わない。
身構えていた分、初撃ほどの損害はないが、相手のリキャストタイムが短すぎる。これではボクのスピードでは対応が間に合わない。
仕方がない、ダメージの回復は無視して、デコイと存在を入れ替えつつ、ダメージをデコイに貼りつける。同時にデコイのプログラムの無事な部分をコピーして自分の損傷部位に張り付ける。つまり、無事な部分だけを逃がすのだ。
予め設定していたプログラム通りにデコイを逃走させる。
攻撃者がこれを追いかけている隙に自身を記録フォルダに擬態させ、損害の状況を確認する——とにかく、今はやり過ごすしかない。
ボクが手に入れたデータの欠損がなかったことを確認したとき、デコイが消滅した。
どうやら、相手はデコイを二度攻撃しただけで消滅させるだけの攻撃力を持っているようだ。
ボクはサイバースペースでの稼働を想定してデザインされていない。今のボクの能力と装備では逃げに徹したところで太刀打ちできない事は明白だ。
サイバースペースで言うのも変だが、ボクは息をひそめて擬態を続ける。
やがて、攻撃者は書庫の一切を消去すると消えていった。
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