ココロにビタミンスカッとハート
MOTO
第1話海外赴任中の私に「僕たちの子だよ、二人で育てよう」と夫は言った
久しぶりの日本だ。
アメリカでの新事業の進展状況を
本社に報告するため帰国した。
私は富田ユリ32才。
都心に本社がある商社の稲田株式会社に勤めている。
国内で3つの大型プロジェクトを成功させた事で
海外での新事業の責任者の辞令を受けた。
もうあれから2年が経つ。
この2年で仕事以外に、もう一つ大きな出来事があった。
それは私自身一生独身だと思っていたけれど、
今、妻と言う肩書き持っている。
相手は稲田悟、つまり稲田社長のご子息だ。
これは社長から直々に息子の嫁にと言われた事が発端で、
1度悟さんと会っただけで結婚することになった。
夫である悟さんは社長の息子であっても、
仕事の跡継ぎではない。
本人はイラストレーターと名乗り
ネットでの仕事を受けて収入を得ている生活をしている。
収入と言っても生活をできるほどのものではなく、
結局は父親頼みの生活なのだ。
そんな息子に跡を継がせることは諦めている社長は
仕事の出来る嫁を貰い、その嫁に社長を譲り
ゆくゆくは孫に継がせようと考えている。
私の仕事を以前より高く評価をしていたことで
悟さんとの結婚話が来たのだ。
私はすでに海外事業のために忙しく動いていたので
結婚しても式を上げる時間がないし、
アメリカへの単身赴任になるので
結婚生活はもう少し先になると
社長には伝え了承された。
私はこれからも仕事を続けて行きたいし、
もっと海外を飛び回りたいと思っている。
それが悟さんと結婚することでやりやすくなるなら
それも良いと思っていた。
もちろん仕事のためだけではない。
まだ、悟さんとはそんなに長く接してはいないけれど、
基本的に優しくて男だから女だからと言う縛りを持っていない。
それはアメリカで仕事をすることを快諾してくれた事でも
感じられる。
だからこそ、仕事が落ち着いたら
少しは妻らしく悟さんと過ごしたいとも考えていた。
今回帰国にあたり
仕事の目処がようやく立つ事の報告と、
少し休暇を取り悟さんとの時間を持とうと考えていたのだ。
私は空港に到着早々、会社への報告に向かった。
仕事優先と言うより、業務も先に終わらせ
後は悟さんとゆっくり過ごすためだ。
空港からの出社には社長も驚いた。
これから帰宅すると告げると
早く帰って体を休めろと言われ
早々の退社となった。
社長は私が仕事に一生懸命過ぎることで
子作りを怠っている事に内心不満を感じている。
私の本音は子供を欲しいと思った事がない。
ただ、今は結構早々に海外赴任となり、
妻らしい事を何一つしてこなかった私を
ずっと優しく見守ってきてくれた事に感謝している。
そしてその感謝は次第に愛情へと変化してきている。
私は帰宅途中の電車内で
体が熱くなるのを自覚している。
こんな事は初めてだった。
自宅マンションのロビーを抜け
最上階の自宅ドアの前に立ち
インターホンを鳴らした。
少しして悟さんの気配がして
ドアが開こうとする時
私の胸の高鳴りが躍動する。
彼の顔を見て笑顔で
「ただいま...」
そう言いかけて言葉を飲んだ。
彼が見知らぬ赤ちゃんを抱っこしていたからだ。
困惑で声も出ない状態の中
彼は赤ちゃんをあやしながら
ニコニコしている
動揺する私を彼はリビングで
話しをしようとソファに座った
そこで話しを聞いてさらに私は絶句した
何故ならその赤ちゃんは
間違いなく彼の子供で
相手は彼がネットでイラスト作品を
紹介するブログのファン。
LINEで会話をするうちに会うようになり
彼が既婚者とわかっても関係を求めた。
やがて相手が妊娠
彼は認知は認めるが子供は私と二人で
育てることを認めさせ念書を書かせたと言う。
私は呆れて体の力が抜けうなだれた
そんな私に彼は弾んだ声で言った。
「父さんには以前から子供はまだかと
うるさく言われていたんだ。
それでようやく子供が授かった。
相手の女性も僕達の子供にしていいって
言っている。」
私は彼に返事する言葉が見つからない。
彼は構わず続ける。
「残念ながら君との子供じゃないけど
間違いなく僕と血が繋がった子だから
問題ないだろ?
父さんのためにも必要な事だ。」
「はい?」
私は彼の勝手な言い分に露骨に
不快感を露わにした。
それを見て彼の顔から笑顔が消え
今まで見た事のない険しい表情になった。
「何がはい?だ。
偉そうな言い草だな。」
彼の口調がトゲトゲしい
私はその態度に臆する事なく言い返す。
「悟さん、
帰国して家に着いたら
いきなり他の女に産ませた子を
二人の子供として育てようなんて言われて
承諾できるわけないでしょ。」
それを聞いて彼は深いため息を吐いて
私を睨んだ。
「君さぁ。
理由はともかく
結婚早々単身赴任してさ
子供の事なんて考えていなかったろ」
「それは、
社長命令として大きなプロジェクトを任されて。
第一あなたも快く単身赴任を認めてくれたじゃない。」
私は念押しするように言った。
けれど彼は首を横に振りながら
「君は仕事はできるのかも知れないけれど
人の気持が何もわかっていない。
そりゃ認めたような事は言うさ
仕事なんだしね。
それでも僕との状況を考えて断るなり
時間の猶予をもらうなり色々とやりようがあったろ。
それを僕が言ったことを全くそのままを受け取って
1人でホイホイ海外に行く方がおかしいだろう。」
彼は呆れた口調で私を見下すように見た。
私は失望した。
確かに彼との関わりは他の男女間と比べれば少ない。
だけど、初めて会った時から海外へと向かうまでの時間で
彼はとても優しくて誠実に思えた。
不満な面を少しも感じさせなかった。
それがここに来て
「言わなくても、わかるだろう」と言う態度で責めてくる。
私は二人の時間が少ないからこそ
言葉で一つ一つ確認をして言った。
何か問題があるなら今言って欲しいとも念押しをした。
今の状況ではそれが私にできる
最善のことだからとも言った。
その上で問題ないから行っておいでと
送り出したのは彼なのだ。
「君は人一倍仕事がしたい
僕は父のために子供がほしい。
君の年齢や、それにこれから更に
君は忙しくなりそうな気配だ。
子供なんてと思っているのが本音だと思ったんだ。」
少し冷静になったのか彼はいつも様子に戻っていた。
だから、私も
できるだけ穏やかな口調になるように心がけた。
「悟さんは少し思い違いをしているわ。
私は子供がほしくないわけじゃない。
今のプロジェクトが落ち着けば
社長にお願いして、その、子作りのために
国内勤務にしてもろうと思っていたのよ。」
それを聞いた彼は急に口元をいがませ笑みを浮かべた。
「それはどうかな。
君なら今のが終わっても
次でまた自分がやりたいものがあれば
簡単にそれを請け負うだろ。
君はそういう人だ。」
彼はそう言って私の言葉を信用しない様子で
さらに続けて言った。
「君が勝手にやりたい仕事のために
海外へホイホイと行っている間
売れないイラストレーターの僕は暇だから
君の事を調べたんだ。」
彼の顔はお前のことなんてみんなわかっている
と言う表情だ。
「色々調べたんだ。
興信所とか使ってね。
それでわかったんだ。
君の親は毒親でかなり虐げられた扱いを受け
祖母の家に非難して育ったんだね。
それから奨学金や祖母の援助で寮制の高校、
大学を出て今に至るんだ。
つまり君は家族愛を知らない、むしろ家族を憎んでいる。
だから仕事だけの人生を生き、子供なんて大嫌いなんだ。」
そう言った彼の目は冷たく感情さえない視線を送ってくる。
私は彼が自慢気に調べた事を披露する事には触れず
自分の言いたいことを言うことにした。
「過去の私の事はともかく、
今の話をします。
私はあなたがどこかで勝手に産ませた子供を
私たちの子として一緒には暮らせないです。
どうしてもと言うのなら離婚しましょう。」
彼に向けてそう言うと
彼の顔が見る見る赤くなり激昂していくのがわかる。
「おまえ!
何様のつもりだ!
誰のお陰で今の立場にいて大きな仕事ができているんだ。
わかっているのか?
僕と離婚すれば、おまえの会社での立場はなくなる。
今の事業だって頓挫することになる。
それでもいいんだな!」
怒るとこんな態度になるんだと、
改めて知ることができた。
私は彼を真っすぐに見て言った。
「別れましょう。
勘違いしないでください。
私は仕事のために理不尽な事を受け入れるような
そんな考えは持ち合わせていません。
ですから、退職しても構いません。」
それを聞いた彼は赤ちゃんをソファに寝かせると
ドタドタと自室に行くと一枚の用紙をテーブルに叩くように置いた。
離婚届だった。すでに彼の箇所は記入済だ。
「そんな生意気な口を吐くかも知れないと思って
先に書いて用意してある。
明日1日だけ待ってやる。
その間に考えろ。
いいか明日1日だけだからな。」
彼は得意気にそういうと赤ちゃんを抱いて自室に籠った。
翌朝、私は会社近くのビジネスホテルで目が醒めた。
彼が自室のに籠った後、荷ほどきしていないキャリーバックと、
部屋にある貴重品などをバックに詰め、
「後は好きなように処分してください。」
と書いたノートの切れはしをテーブルに置いて
家を出た。
ホテルをチェックアウトすると
朝一で区役所に離婚届を出し、そのまま本社には
退職届だけを出すと、さっさと外へ出た。
彼はきっと一晩寝て冷静になったら何が得かを
考えるだろうと思っていたに違いない。
笑顔で覆い隠した傲慢さを早目に知ることができて良かった。
彼は私にとってもっとも嫌いなタイプの人間なのだ。
これからどうするのか。
すぐに手配したチケットでアメリカの借り住まいに戻る。
戻るだけでなく現地で仕事を探す。
あちらでの生活が成り立つまでの費用なら
これまで仕事ばかりの生活で充分の蓄えがあるのだ。
まぁ、それがあるから彼の態度にも強気の態度が私も取れたのだけど。
アメリカ生活では
私の人生のリスタートと決めている。
恋や結婚、それに子供のことも改めて考えてみようと思う。
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