夢…?

「―――っ」



 がばりと、ベッドから飛び起きる。



「………あ、れ…?」



 現状についていけず、シュルクは茫然とまばたきを繰り返した。



 ここは自分の部屋だ。

 辺りを見回してみるも、特に変わったところはない。

 窓もカーテンも、きっちりと閉まっていた。



「夢…?」



 そんな馬鹿な。

 理性がすぐに否定する。



 少女の綺麗な声も、悲しげな瞳もよく覚えている。



 夜中に感じていた不快感も、少女に会った時に襲った全身に電流が走るような感覚も本物だったはずだ。



 夜中の出来事は現実だったと思う。

 でも、だとしたらこの状況はなんなのだ。



 光に意識を奪われた後に何が起こったのか、どうやって自分は家に戻ってきたのか、何も思い出すことができない。



「なんだったんだよ、あれ……」



 必死に記憶を探りながら、手は無意識のうちに胸元の運命石を握り締めていた。



 少女に伸ばしかけた手を阻んだ強い光。

 あれはもしかして、運命石から発せられたものなのではないだろうか。



 もしそうだとしたら、彼女は……



「シュルク―――っ!!」



 こちらの思考を邪魔するように、突然部屋のドアが開かれた。



 こっちは、考えなければいけないことが山積みだというのに……



 シュルクは不快げな表情でドアの方を見やった。



「ルルン、お前なぁ…。いくら幼馴染みだからって、問答無用で部屋に押しかけてくるなよ。」



 さすがに、そろそろプライベートというものを覚えてほしい。



「ごめん。でも、それどころじゃないのよー!!」



 こちらの心の声など聞こえているはずもなく、ルルンは駆け足で近寄ってくると、遠慮なしに腕を掴んで体を揺さぶってきた。



「わっ……なんだよ!?」



「いいから! とにかく、今すぐ店に来て!! このままじゃ、あたしもパパも死んじゃうーっ!!」



「わわわっ…。分かった。分かったから!」



 ルルンに引きずられるようにして、シュルクはベッドを下りる。



 この時の自分は、知るよしもなかったのだ。





 夢か現実かも分からない、真夜中の出会い。

 それが、これまでの生活を一変させることになろうとは―――




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