〝蝶〟という言葉の皮肉さ

 運命の相手を捜すために旅立つこと。

 口で言うのは簡単だが、実際にはとてつもなく大変なことだ。



 大きな町にもなればある程度の安全は確保されているだろうが、小さな町や町を繋ぐ道中まではそうもいかない。



 野生動物や盗賊に襲われる可能性もあるし、思ってもみなかった事故に遭うこともありえる。



 自分の身を守るために、霊神召喚の会得はどうしても必須なのだ。



 そのために暗黙のルールとして、学校を卒業して召喚学の修得資格を得ないと、町を旅立つことは許されないことになっている。



 学校への入学は自由なのに、その入学率や卒業率がほぼ百パーセントである理由がこれだ。



 そして、エルトが自分に〝どうせ町から出られない〟と言ったのも、こういうわけなのだ。



 体質上霊神召喚ができない自分は、この町から出ることを許されない。

 この先一生、この町に守られることに甘んじなければならない。

 運命の相手だって、ただ待ち続けることしかできないのだ。



 何が蝶のよう、だ。

 蝶のように自由に風に舞えたらどんなにいいだろう。



 ―――でも、自分は違う。



 どうせ自分が自分の道を示さなくても、気をかせた周りが勝手に自分が収まる立場を探して持ってくる。



 仮にグレーの集会所を辞めたとしても、別の働き口が向こうから転がってくるだろう。



 自分は定められた道を歩むしかない。

 そして、周囲からいいように持ち上げられたりけなされたりするのだ。





 虫かごの中に閉じ込められ、様々な目線で鑑賞される蝶のように―――




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