162

 幼い頃、隣家に住む祖母に夕刊を届けるのが私の日課だった。祖母はよく私に飴をくれた。私はそれが楽しみだった。


「夕刊だよ」

「いつもありがとう、職員さん」


 認知症で介護施設に入った祖母に、私はいまでも夕刊を届けている。もう名前を呼ばれることはないけれど。


「お菓子、どうぞ」


 飴を差し出す皺だらけの手は、昔と同じ温かさだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る