前のエピソード――92

　風が強い夕方の屋上で寒さに震えながら、煙草に火をつけた。手すりにもたれながら煙を吐いていると、背後の扉が開く。後輩の田中君が鼻を赤くして近づいてくる。手には珈琲缶を二つ携えていた。

「はい、先輩の珈琲ですよ」

　最近、この時間に彼と一緒に休憩するのが日課になっていた。頬が熱いのは珈琲のせいだけではないことに、私は気づき始めている。

作者を応援しよう！

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る

次のエピソード 94