29

 小学生の頃、神社に向かう兄を見かけた。雨なのに傘をさしていない兄を不審に思い、内緒で後を追った。不意に兄が鳥居にもたれかかった、そのときだった。


「あああっ!」


 兄とは思えない咆哮だった。見てはいけないものを見たと思った私は、すぐにその場を立ち去った。


 夜遅くに濡れて家に帰ってきた兄は、「傘を無くして」と疲れた顔で笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る