第31話おれのケツが王都に潜入中



 王都。大陸中の人や物が集まる巨大な町だ。区と呼ばれる区画が全部で24区程あり、王の住む1区から、行政区、学園区、商業区、農耕区など、観光地となっている24区まで用途ごとに区切られている。上空から見ると蜂の巣のように六角形の区画が並んでおり最後に24区のみがぐるりと都市を一周している。

 24区の区長はあの女区長である。

「おい、区長どのぉ!」

 逞しい腕をした男が区長を呼び止める。

「ん、なんや?」

「今朝入荷したばかりのトマトだ。異世界の食べもんらしい。」

 トマトをほおって投げる。それをキャッチして手を振る。

「っとと!おーきに!ありがとうな!」

「区長さん!うちの新製品食べてくださいな!芋を潰して、練ってあげたもんだよ!」

 小太りのオバチャンが小走りにやってきた。包み紙に入ったものを区長に差し出した。

「おぉ!さくさくして、うんまいな!あ、なんか味を選べたら商品の幅がひろがるんちゃう?」

「ありがとうございます!さっそく考えるわね!」

 彼女は区長の後ろにいたマントを着た少女たちにも声をかける。

「お付きの人たちもいかがですか?」

「…」「…」「…」「…」

 全員がしどろもどろしており、ため息をついた区長が彼女らの代わりにオバチャンの好意を受けとった。

「もろとき!もろとき!すまへんな!こいつら、人見知りで!あっはっは!」

「じゃあ、あとでみなさんでお食べなさいな」

「ありがとうな!おかみさん!ほら、おまえらも礼をいうんやで」


 女区長に魔法少女が声をかける。王国お抱えの魔法少女たち。「鎌斬り マンティス」「氷脚」「召喚士(テイマー)」「翠馬」それぞれがぺこりと頭を下げた。

「あらあら!」

「ちょっと休憩しよか!おかみさんほな!ぎょーさんコロッケをおおきに!」

「コロッケ?」

「ん、ああ!すまへんな、その新製品の名前勝手に考えてもうた!あっはっは!気にせんでくれ」

「いいわね!コロッケ!言いやすくて、新鮮!使わせてもらうわ!」

「あっはっは!恥ずかしいな!」


 通りから少しはずれた公園につき、ベンチに腰をおろす。魔法少女たちはフードをとった。

「あんたら、挨拶とお礼はきちんとせな!人間関係の基本やで」

「…随分好かれているんだな」

 ぶっきらぼうに『鎌斬り』が言った。緑の髪で、腰には鎌を2本ぶら下げていた。

「当たり前や!区長やぞ。住民に好かれんでどないすんねん」

「わたしはもうすこし威張り散らしているのかと」

 おどおどと『召喚士』が言った。彼女は自信なさげな顔で区長をちらちらと見る。

「それな!あんたは一味違うからあたしはついてきたんさ!な!これまじおいしー!」

『翠馬』がカラカラと笑いながらコロッケをほおばる。

「それくらい自然体で話してくれてええんやで?」

「うちらは人間扱いされて無かったからな。こんな世界が壁の向こうにあったなんて。ほんの少しの区の違いで、こうも違うもんなのか」

『氷脚』が静かに言った。

「せや、あたしは、この区を皮切りに、こういった場所を増やしていきたいんや。金も儲かるしな」

「結局金もうけか」

「あぁ!そうや!金!金!!金!!!魔力や武力がなくても、金があれば自分が好きな美味い飯が食える。自分が欲しいもんが手に入る!自分の自由が得られる!素晴らしいやないか!」

「なるほど、ほかの連中が大きく邪魔してこないのはそれか」

「せや、今や24区は王都でも、上位にはいる納税額や。簡単にはつぶせん。昔、この区を乗っ取ろうとしたアホもおったけど、全員で仕事ボイコットしてやったわ!あっはっは!」


「…なんであたしらを連れてきた。あたしらを区の外に連れ出すのにも相当面倒な手続きをしたはずだ。」

『鎌斬り』は鎌を抜き、一瞬で女区長の喉元の先にあてる。

「ちょっ、かまちゃん!」

「…正直に答えろ!」

「お前らにうちの町を見てほしかったんや」

「んだと?」

「お前らがこれから守るもんの価値を、だよ」

「はぁ?平和ボケしてるやつらをあたしらが命削って守れっていうのか?!」

 命をとられようとしている場面なのに、全く動じている様子はない。

「あたしはな、あたしのねーちゃんみたいな魔法少女や異世界人が生物兵器みたいな扱いうけるん時代をしまいにしたいんや。あんたら、気づいたか?あの八百屋のおっちゃんは陸軍の将軍やし、あのおばちゃんは元魔法少女や。いまの方がハツラツとしてて、ええ顔しとる。」

 女区長は昔の彼らの姿が脳裏をよぎる。常にイライラしてた作戦失敗の罪を上官になすりつけられた軍将校。戦いにつぐ戦いで瞳の色を失った姉たち。

 小さな集落から、荒んだ風景を変えたくて、必死になっていた。泥水をすすりながら。懸命に考え、知恵を絞り、ここまできた。

「あんたらも地獄を見てきた。…当然あたしもや。まだ、監視つきという立場でしか、あんたらを出してやれへんが。いつかあたしが、この町を自由に歩かせれるくらい偉いやつになったる。だから、力を貸したってくれや」

「……」

『鎌斬り』は鎌を、ホルスターに戻した。

「…おい、区長。お前の名前を教えろ」

「言うてなかったか。ハナや。ハナ・クレッシェンド」

「…ハナ。あんたの目的は、わかった。この町の人間があんたを慕っている理由もな。非礼を詫びよう」

「ハナ……さん。あたしたちは何をしたら……いいの」

「あぁ!せやった。この街に重要犯罪人が潜んでるらしいんや。だから、そのケツが光るガキを捕まえて欲しい」

「「「「は?」」」」

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