奈落の底に落とされた僕は慕われています。

ユウヒ シンジ

第1話 落とされて 1

「ノルア、選ばれし子よ。人々の繁栄と安寧をもたらす子よ」


声?

・・・・寝てたの・かな?

そう言えば昨晩バイト先から帰ってからレンタルした映画を見てて・・・・

寝落ちしたのか。

まだ眼は開けたくない・・・・・

このままもう一度寝てしまおうかな・・・

あ、でもモニターは消さなきゃ・・点いたままでは・・・


「我、レアダールの力を得し、我が子となったノルア・レアダール。その名誉を心に刻み英雄の子として人類を守る盾となる事をここに許す」


やっぱり消さなきゃ・・・・ん? こんな映画だったか?

でも僕のレンタルしたのって・・たしかアメリカの刑事物で・・・・・ファンタジー要素は殆どというよりまったく皆無のはずじゃ・・・・・


「天界の神々よ! 我が英雄の子となった15代目ノルア・レアダールに祝福の加護を授けたまえ!」


うわ!

な、なんだ?!

今、体が急激に持ち上がった様な浮遊感に襲われたぞ?

誰かに持ち上げられたとか?

まさか、これでも52キログラムほどある大学生だぞ? 

見た目はよく女の子に間違われる程小さいけど、簡単に持ち上げられるものじゃないはずだし・・・

いや! それより独り暮らしの僕の部屋に誰か居るということにならないか?

急に不安と恐怖が僕に襲いかかって来る。


『寝ている場合じゃない! 起きて状況を確認しないと』


僕はゆっくりと目を開け自分の部屋の中を確認しようと周りを見わた・・・・あれ? 空?

白い雲に青い空・・・・・絵に描いた様な綺麗な青空が見える。


『僕の部屋の天井に穴でも開いた?』


そんな訳ないか・・・でもこれってマジモンの空だよね?

夢なのかな?

いや、この顔に当たる温かさや、頬を撫でる風。

そしてこの空気の匂い・・・・本物の屋外だと訴えている。

夢じゃない・・・・

だとすると僕は今、外に居るってことなのか?

誰かに担がれて部屋の外へと運ばれている途中?

こんな白昼堂々と?

おかしくないか?

とにかくこのままじゃ駄目なのは確かだし、外なら騒いだり暴れれば誰かが気付いてくれるはず。

それに大の大人を担いでるのなら暴れればバランスを崩すだろうし・・・

よし!

僕は思いっきり体を動かそうと力を入れた。


『!! !! !!? ? ??? あれ?』


思った以上に動かない。

動かないわけじゃない。

だけどそれはほんの微かにだ。

この感覚は・・・・何て言ったら良いのか・・・・・?!

そう!! 袋の中に押し込められて身動きが出来ない状態!!


『・・・・・・・・・・これってやっぱり誘拐? 拘束されて何処かに移動している?』


ま、まさかね・・・・・こんな身寄りの無い一貧乏学生を誘拐して何の得がある?

それに体は拘束されているのに目隠しはされていない・・・・・・・・・・・ダメだ。

考えれば考えるほど分からなくなってきた。


?!!


急に体が傾かされた。

今まで上を見上げる状態だったのが今度は顔を下に向けさせられた状態へ変えられた。

まるでジェットコースターに乗っているみたいな感覚!

ちょっと気持ち悪う・・・・

くっそ! こんなに簡単に体を振り回すなんて・・・どんだけの怪力の持ち主なんだ・・・・


『え?!』


自分の目を疑った。

ひっくり返されて最初に目に入って来た光景。

僕の知っている近所じゃない・・・

こんなの知らない・・・

大きな、そうとても大きな竪穴が緑の中にぽっかりと口を開けていた。


『何だよ! これ?』


僕は見える範囲で穴の周りを見たけど、一面緑しか無かった。

苔? 草? 違う。

あれは樹々で覆われた森だ。

その樹々が手で掴めるほどの大きさに見える。

という事は僕の居る所はかなり遠い・・・つまり高い位置にいるっていう事になる。


『ここって、何処だよ?!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る