35話。【預言】を破り、聖王都の大結界を破壊する
俺は5つの関所を難なく突破し、軍を進めた。
『こんなところまで、わざわざやってくるとは、ご苦労なことですね。聖女コレット様の大結界は決して破壊できぬというのに!』
聖王都の城壁が見える丘までやってくると、聖者ヨハンの姿が上空に写し出された。
支配者の言葉を民に伝えるための投影魔法だ。
増幅されたヨハンの声が、響いてくる。
『闇属性では光属性に決して勝てない。これが神の定めた絶対なる摂理です! 魔王カイ、貴様がどれほど強大な闇の力を振るおうとも、無意味と知るが良いですね? クハハハハハッ!』
「ぬっ! 言わせておけば……!」
嫌味ったらしいヨハンの笑いに、グリゼルダが眉根を寄せた。
大結界に覆われた城壁は、聖なる輝きを放っている。1週目の世界で、魔王グリゼルダがどうやっても突破できなかった鉄壁の守りだ。
「さて、ソイツはどうかな……?」
『……なに? ふっ、魔王カイ、貴様が用意した内通者は、私の【預言】スキルで、すでに見破って全員拘束していますよ? 神に愛され、その言葉を賜ることのできるこの私に! 【預言】で未来のすべてを見通すことのできるこの私に勝つことなど不可能です!』
聖者ヨハンが勝ち誇る。
その時、王城より煙が噴き上がった。
俺が【従魔の契約】で寝返らせた内通者が、王城に放火したのだ。
『なにぃいい!? ま、まさか、まだ城内に、魔王に寝返った者がいたのですか!? そんなバカな!?』
ヨハンは驚愕に顔を引きつらせた。
よほど、意外だったようだ。
「なにを驚いているんだ? 【預言】のスキルは、未来のすべてを見通すじゃなかったのか?」
『ぐぅ……!?』
「【預言】は、「72時間に1度、お前の知りたい未来の事象が伝えられる』スキルだ。このスキルの弱点は預言内容に人物名が、決して現れないことだ」
『な、なぜソレを……!?』
1週目の世界で、ヨハンは【預言】で神から得たというメッセージを、勇者パーティに共有していた。
そのメッセージにはひとつの特徴があった。
具体的な人物名が決して出てこないことだ。
例えば『○○日に勇者が現れる』と出る。だが、その勇者が誰なのかは、わからない。
今回の場合は、『王城内に魔王への裏切り者が複数潜んてでいる』とでも、出ていたのだろう。
なら、裏をかくことができる。
「俺の策を見破ったつもりでいたのか? 裏切り者を複数用意して、もし捕まった場合、そいつ等に吐いて良い裏切り者の名前を教えるだけで、お前の【預言】スキルは十分に抑えこめる」
【従魔の契約】で配下にした者と、俺は精神的な繋がりができており、念話(テレパシー)で意思疎通することができた。
『なっ!? ま、まさか……私は貴様の手の平の上で、踊らされていたと?』
「お前は【預言】スキルに絶対の信頼を置いているからな。【預言】に沿って行動すれば、失敗は無いと思い込んでいるだろう?」
未来を知ることができるが故の落とし穴だ。
危険な未来を回避できたと安心してしまって、潜んでいるリスクを見落とす。
俺は聖王都攻めの下準備として、5人ほど【従魔の契約】で内通者を作っておいた。魔族領に偵察に来ていたヨハンの手の者を、こちらに寝返らせたのだ。
このうちの3人をワザと捕らえさせることで、ヨハンに俺の策を見破ったと安心させた。
そうすればヨハンは、内通者の有無とは別の情報を得るために【預言】スキルを使うだろう。
(良くやったぞ、マテオ。お前には【魔将軍】の地位を与える。城から脱出しろ)
(はっ! ありがたき幸せにございます、魔王様!)
俺は念話で、放火を成功させた内通者【粛清者(パージィス)】のマテオを労った。
念じれば、俺はいつでも直属の配下と会話できる。
生への執着の強いマテオは、俺に切り捨てられなかったことを喜んでいるようだ。
『……や、やはり貴様は、2週目の世界に入っているのですか!? それは1週目の私から得た情報か!?』
ヨハンは狼狽をあらわにした。
『何を、どこまで知っているのです!?』
自分だけが、未来を知っている。他人の知り得ない情報を知っている。そんな優位性を崩されて、ヨハンは声を震わせた。
無論、そんなことを親切に教えてやる義理はない。
さて、ここからが本番だ。
「闇属性で光属性に打ち勝つには、2倍の力を要する。【属性相克】については、もちろん知ってるさ。それが単なる出力の問題に過ぎないこともな!」
俺はマテオに、神器が設置されている近くの部屋に放火するように指示していた。
聖女の大結界は、神器によって増幅されて聖王都全体を包んでいる。神器そのものを破壊することは難しくとも、コレットと神器を繋ぐ魔力回路を損傷させることができれば、大結界は弱まるハズだ。
「おおっ、やったぁ! 大結界の輝きが弱まったのじゃ!」
グリゼルダが輝きの減衰した城壁を指差した。
魔王軍から歓声が上がる。
「よし、エルザ。頼むぞ」
「……わかった。【リミッター解除】!」
男装したエルザが前に出て、切り札となるスキルを発動した。
「はぁあああああーッ!」
そのまま、疾風怒濤の勢いで、エルザは丘を駆け降りて行く。加速、加速、加速──!
「【魔剣召喚】!」
エルザの手には、俺の武器である魔剣ティルフィングが握られた。
【従魔の契約】を通して、エルザには【魔剣召喚】【斬撃強化Lv50】【闇属性強化Lv10】のスキルを貸し与えていた。
【斬撃強化Lv50】は、斬撃の威力を100%強化するスキル。【闇属性強化Lv10】は、闇属性攻撃の威力を10%強化するスキルで、これらのふたつの効果は重複する。
つまり、エルザの魔剣の攻撃力は、110%も上昇していた。
ここにさらに、【リミッター解除】によるステータス値の3倍上昇と、エルザの持つ【魔法剣士】系スキルの攻撃力上昇効果が上乗せされる。
「砕け散れぇええええ【黒炎斬(こくえんざん)】!」
勢いに乗ったエルザは大地を蹴って跳躍すると、魔剣に大量の魔力を流し込む。魔剣がまとう黒炎が爆発的に膨れ上がった。
「斬ッ!」
大結界が城壁ごと、縦に真っ二つに斬り裂かれた。轟音と共に、難攻不落の城壁が崩れ落ちる。
『バ、バカなぁああああ!? 聖女の大結界が!?』
上空のヨハンの映像も、ほとばしる魔力の余波で吹き飛んだ。
現在の俺では、コレットの大結界を破壊できるかは、微妙だった。
だが、俺よりも剣術に優れた【魔法剣士】のエルザに魔剣を与えれば、確実に突破できると考えた。
なによりエルザは、この場で敵を引き付ける陽動役だ。
「エルザのスキル【闇属性強化Lv10】を【MPドレインLv5】に付け替える。エルザ、あとは俺のフリをして、魔剣で死ぬまで戦い続けろ」
噴煙がもうもうと立ち込める中、俺はグリゼルダと共に聖王都内に突入する。
「ぐ……っ! ふぇええええ!? わ、わかったよ!」
エルザは涙声になりながら、承諾した。
「我こそは、魔王カイ! 聖女の大結界は、この魔剣ティルフィングに屈したぞぉおおお!」
魔剣を掲げ、エルザは我こそは魔王だと宣言する。
魔王軍の鬨の声が、それを後押しした。
スキル【リミッター解除】の反動で、エルザのステータス値は5分後には半分に激減する。
魔王カイの影武者として、これから聖王国軍の猛攻撃を一身に受けるエルザが生き残れる確率は、まず無いに等しいだろう。
エルザ、俺のために、せいぜいその生命を捧げてくれよ。
『聖女の大結界を破壊し、魔王軍を聖王都に侵攻させました。おめでとうございます。歴史に残る大悪事です!【イヴィル・ポイント】3000を獲得しました!』
『聖女の大結界を破壊したことにより、隠しスキル【光耐性】が修得可能になりました!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます