34話。カイ、ひとりですべての関所を突破してパワーアップ
『【イヴィル・ポイント】2000を消費して、【自動詠唱(オートマジック)】を修得しました!
設定した魔法が、自動発動し続けるスキルです』
「よし、これと【MPドレインLv5】のスキルコンボは凶悪なハズだ。試してみるか……!」
俺は馬を駆って、魔王軍の先頭をひた走っていた。
目指すは、聖王都。コレットの囚われている王城だ。
「知らせが来ましたのじゃ。聖王国軍の4割が、帝国軍の迎撃のために国境に向かったそうじゃ! 何もかも、カイ様の計略通りなのじゃ!」
馬で疾駆するグリゼルダが、尊敬の声を上げた。
【従魔の契約】によって寝返らせた者たちからの情報提供で、聖王国軍の動きは筒抜けだった。
俺にクラスを与えられた契約者同士は、念じれば心の声を他の契約者に伝えることができる。
俺は全軍の指揮があるので、グリゼルダに情報収集を担当させていた。
「残りの聖王国軍は、聖王都で籠城の構えなのじゃ! ヤツらは帝国軍を倒してから、魔王軍を包囲殲滅する作戦なのじゃ!」
「おそらくコレットの大結界は絶対に破れないと、奴らは過信しているんだろう」
「その油断を突いたのですね。お見事です!」
俺が率いる魔王軍に対する迎撃は行われていなかった。
せいぜいが、交通の要所に設置された関所で、足止めをするくらいだ。
「正直、野戦を挑まれた方が、数が少ない俺たちには不利だったからな。籠城戦なら、俺とグリゼルダの個人的武勇を活かせる」
「任せて欲しいのじゃ! 何があろうともわらわがカイ様をお守りするのじゃ」
グリゼルダが胸を叩いて請け負った。
俺とグリゼルダは、ふたりで王城に侵入する計画だ。
「そろそろ関所だな。ふたりは軍を下がらせて見ていてくれ。俺ひとりで片付ける」
「はっ、ご武運を!」
堅固な城門で道を閉鎖する関所が見えてきた。
城壁の上には、弓を構えた兵士が勢揃いしている。
「貴様が魔王か? たったひとりで突っ込んでくるとは、バカめ! 撃てぇえええ!」
俺が馬で突っ込むと、空を埋め尽くすような矢の雨が降り注いだ。
「スキル【自動詠唱(オートマジック)】、発動。【黒雷(くろいかずち)】の連続起動。目標は、敵兵と矢だ」
その瞬間、黒い雷光が俺から連続で放たれた。飛来した矢は、ことごとく撃ち落とされて俺まで届かない。
「なにぃいいいッ!? 詠唱もせず、魔法を連続発動しているだと!?」
「た、隊長! ぐぎゃあああッ!?」
【黒雷(くろいかずち)】は、敵兵に容赦なく襲かかり、黒焦げにしていく。
「す、すぐに魔力が尽きるハズだ。途切れなく、矢と魔法の雨を降らせろ!」
「ハッ!」
矢だけでなく、火球や雷撃も次々に撃ち込まれるが、俺は魔法障壁を展開して弾く。
「上級魔法をふたつ同時に!? 何かのスキルの補助を受けているのか……!?」
「と、とんでもないレベルの魔法使いだぞ!」
「魔王、止まりません! ヤツの魔力は無尽蔵かぁああ!?」
敵兵が慌てふためく。
確かにこんなペースで魔法を連発すれば、ふつうは魔力が保たない。
だが俺は、敵兵が【MPドレインLv5】の有効射程に入ったとたん、魔力を奪い取っていた。
【自動詠唱(オートマジック)】と【MPドレインLv5】のコンボで、敵を殲滅するまで魔法を放ち続ける永久機関の完成だ。
「はぁ……!? ま、魔法が撃てない!? 俺の魔力が0になっているだとぉ!?」
「まさか、ドレイン系スキルか!?」
城壁からの魔法攻撃が鈍った。
その隙に、俺は馬に鞭を入れて加速する。
「だ、だが、この城門は並の魔法では破れんぞ……ッ!」
「来い、魔剣ティルフィング!」
ぶ厚い鉄の門扉に、俺は召喚した魔剣を叩きつけた。
ズッドォオオオオン!
その一撃で、跡形もなく門扉が爆散する。
「バカなぁああああ!? 一撃、たった一撃だとぉおおお!?」
「脱出! 早く脱出を!?」
悲鳴と怒号が交錯した。
逃げ出そうとした者もいたが、【黒雷(くろいかずち)】を浴びせて、残らず沈黙させた。
『関所を突破し、守備兵を全滅させました。おめでとうございます。【イヴィル・ポイント】500を獲得しました!』
「よし、【イヴィル・ポイント】も獲得できたな」
ここから王都までは残りで5つの関所がある。
これらを俺ひとりで突破することで兵の消耗を抑え、【イヴィル・ポイント】をできる限り獲得して、俺自身の強化をしていく計画だ。
この調子なら上手く行きそうだ。
『スキル【斬撃強化】を修得しました。
スキルレベルがアップしました!
スキルレベルがアップしました!
【斬撃強化Lv10】になりました。斬撃攻撃の威力が20%強化されます』
俺が選択したのは、魔剣の攻撃力を底上げするための剣術系スキルだ。
狭い城内での戦いでは、おそらくこれが生きてくるだろう。なにより、聖女の大結界を破壊するための決め手のひとつとなる。
これから手に入る【イヴィル・ポイント】は、すべて【斬撃強化】のスキルレベル強化に使うつもりだ。
「一騎当千の武勇! さすがは、カイ様なのじゃ!」
「敵がまるで相手になりません。さながら無人の野を行くがごとしですね!」
グリゼルダが率いる後続部隊が追いかけてきて、大歓声を上げる。
俺の活躍で、士気も最高潮に上がっていた。
「この先の関所も、俺ひとりに任せてもらうぞ」
「おおっ! まさにカイ様こそ、歴代最強の魔王であらせられるぞ! 魔王カイ様、バンザイ!」
「バンザーイ!」
新たに俺の配下に加わった魔族たちも、これで俺に心服したようだ。
魔族にとって、強さは絶対的な価値だからな。
「……はははっ、呆れた。本気で、全部の関所を突破する気かよお。でたらめすぎる」
後からやって来たエルザが、口をあんぐり開けている。
「その魔剣ティルフィング……【魔法剣士】の私だからわかるよ。相当ヤバいね」
「ふん! 当然であろう。恐れ入ったか! これぞ、魔王のみが持つことを許された究極の魔剣であるぞ!」
グリゼルダが誇らしげに胸を反らした。
「聖王国軍、恐れるに足らずだ! 魔族が不当に弾圧される日々は今日で終わる。皆、俺に続けぇえええッ!」
「うぉおおおおお!」
俺の激に地を震わすような魔族の雄叫びが轟いた。
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