本郷-16
赤志は乾いた笑い声を上げる。
「やっぱあんたすげぇわ。前線復帰確定させるなんて」
「これで人員の問題は解決だ」
「託してよかったよ」
「安心するのは早い。進藤がどの会場に潜伏しているのか、本当に潜伏しているのかはわからないんだ」
感嘆の声を漏らす赤志に釘を刺した。
「もし発見したとしても獣人と暴徒が暴れるかもしれん。だから今回は機動隊も出動する運びになった。暴徒はそれで対処できるだろう」
「なら、ジャギィは俺が仕留めるしかないな」
「武中が悔しい思いをするな」
赤志が肩を竦める。
「車を片手で投げて竜巻起こすようなライオン人間相手だぜ。ショットガンとかじゃ対処できないでしょ」
「その通りだ」
「ていうかさ、なんで国は獣人と対抗できる手段を使わないの?」
日本では、暴走した獣人と戦う術は、”ある”。
それを熟知している本郷は頭を振った。
「使えないんだ。行使すれば獣人が恐怖の対象だと世間に知れ渡ってしまう。異世界に対する不審の目が増えるのは、上としては避けたいんだ。獣人が迫害されることと、異世界との関係が解かれることを恐れているからな」
特に。本郷は言葉をつづけた。
「魔法技術を失うことを危惧している。この世界に革新をもたらすだろう力だと頭のいい連中は信じている」
「魔法を消し去ろうとしているくせに?」
「危険がなくなれば使いたいんだろうな。酷い矛盾だらけだ。この世界は」
本郷は口に自嘲を浮かべた。
「話を戻そう。進藤の担当は俺。ジャギィは赤志として」
「次の問題は、潜伏先の会場をピンポイントで当てないといけないって奴か」
本郷は頷いた。
最悪赤志だけでも当たればいい。赤志が張り込んでいた場所とは別の場所にジャギィが出現したらどうなるかわからない。
魔法を使用され民間人が犠牲になるのを避けること。そして被疑者は生かして捕まえること。これが柴田の命令だった。
思案していると玄関が開いた。尾上とジニアだった。
「ただいま。勇! ダウンジャケット直ったぞ!」
「おお! サンキュー! ゴンちゃんは大丈夫か?」
2人は今朝から下痢を繰り返していた権三郎を連れて動物病院へ向かっていた。
ジニアが頷く。
「大丈夫。ストレスが原因だから、お薬飲めば平気みたい」
「ここでも薬かよ」
赤志はジニアに抱きかかえられている権三郎を撫でた。その後尾上からジャケットを受け取る。
振るとガサガサと音がした。ポケットからだ。
「ゴミが入ってたから捨ててやろうと思ったが、戒めのために持って来といたぞ。今度からちゃんと捨てるんだな」
尾上が呆れたような顔をした。赤志は中の物を取り出し、目を丸くした。
「尾上さん」
「うん?」
「あんた最高。ようやく気付いた」
赤志はくしゃくしゃに丸められた紙を広げ、本郷に見せつけた。
「それは?」
「横浜駅で「グリモワール」が配っていたチラシだ。接種会場の場所が書かれてる。これに違和感を覚えて捨てなかったんだ」
チラシに書かれた文字、地図、画像から赤志の違和感とやらを本郷は掴んだ。
「”逆効果”じゃないか? と思ったんだな?」
「そうそう! さっすが!」
赤志が指を鳴らし本郷を指した。
「あんなテロ行為のあと、ご丁寧に接種会場の場所まで書いたチラシ配ってんだぜ? これじゃあ「私たちみたいな危険人物になりたくなければワクチンを打て」って言ってるようなもんじゃん。そんで接種会場教えてるし」
「電車事件以降、「グリモワール」に対する批判と、見限る声は多かったからな」
「でだ。どこに打ちに行くかってなったらさ、嫌でもこのチラシに書いてある文字が目に入る。だから場所は、この中のどれかだと思う」
本郷はチラシを注視する。
「不法投棄被害に遭った病院で、大量にワクチンが補充され、市民への接種を再開する場所は」
進藤は兵を失っている。補充するには、大勢の人間を洗脳する必要がある。
そう考えると、本郷はチラシを指差した。
「横浜市総合医療センターか」
被害に遭ったこともある10階建ての大型医療病院だった。
「ここ、2日くらい前にニュースでワクチン補充したとか言ってたな」
飯島が言った。
「ここにするとして潜入捜査員は? 俺らほぼ面割れてるけど」
「それに関しては適任を見つけ手筈も済んでる」
「え、誰?」
「俺と同じ所属の人間さ」
「信用できる?」
「いい加減な捜査員じゃないことだけは確かだ」
本郷は拳を突き出した。
「やるぞ。赤志」
「お? あんたこういうことやる人間なの?」
「嫌いか?」
「いや、めっちゃ好き」
赤志は笑い拳を軽く当てた。
「あとは俺がジャギィフェザーを迅速に仕留められるか、か」
獣人が”ブリューナク”を発動したら周辺の魔力が活性化し、
それは何としても避けなければならない。
「赤志。それに関してはあまり気にするな」
「……なにそれ? 最悪”ブリューナク”発動させても大丈夫ってこと?」
「ああ。備えあれば患いなし。”最高の助っ人”が来る予定だ」
「助っ人?」
懐疑的な視線を向ける赤志に対し、本郷は自信ありの笑みを浮かべた。
その時、赤志のスマホが震えた。画面を見た赤志は。
「……なるほど」
得心したように頷いた。
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