第7話 十干

【天界・剽風殿ひょうふうでん。ここには五組の兄弟が住んでいる】


甲木こうぼく「乙くん、あれどこにあるか知らない?」


乙木おつぼく「風呂場。昨日、甲くんあれ置いてってた、見た」


甲木「あ、ほんと? ちょっと取ってくる!」


壬水じんすい「あれしか言ってないのによく分かるな、流石双子」


乙木「以心伝心、最強」


壬水「で、あれって結局何なんだ?」


乙木「仕事中に使う髪止め」


壬水「あーなるほど。よく分かるな、俺には無理だな」


乙木「そうなの? できそうなのに」


壬水「双子じゃねぇからな。それに、引きこもってて会う回数少ねぇし」


(1番奥の部屋の扉が開く)


癸水きすい「…………」


壬水「あ、きぃ、どうし……うおっ!?」(抱きつかれる)


癸水「………………」


壬水「……杏仁豆腐、食べるか?」


癸水「………………」


壬水「はははっ、分かった分かった。お前ほんと可愛いなー。作ってくるけどどうする?」


癸水「………………」(ぎゅー)


壬水「はいはい、じゃあこのまま台所行くぞー。乙木、また後でな」


乙木「……あ、うん……」


乙木(会う回数少ない……のに、以心伝心、じゃなく、心読んでるレベル。すごい、ジンちゃん。あと、めっちゃきぃちゃん睨んでた、けど、黙っとこ)


甲木「お、乙くん!! ちょっと来て!」


乙木「どしたの、甲くん」


甲木「いいから早く!!」


【剽風殿・風呂場前】


丁火ていか「だーかーらー、俺が先に入るっつってんだよ。弟に優しくするのがオニイサマの仕事だろうが、譲れやクソ兄貴」


丙火へいか「あ? 年下が年上を敬うのは当たり前だろうが。てめぇこそ大人しく俺様に譲れやこの愚弟が」


乙木「また喧嘩……」


甲木「僕が来た時にはもうこの状態で……」


丁火「おいこら、誰が愚弟だ。どっかの頭の中お花畑のオニイサマと違って、優秀なんだよ。いつもてめぇの尻拭いしてやってんのに気づいてねぇもんな、鈍感野郎」


丙火「はっ、脳味噌腐ってるらしいな? 頭の中お花畑はてめぇも同じだろうが。それに、俺様よりも優秀って、一度でも俺様に喧嘩で勝ってから言えやボケ」


辛金しんきん「うっさいわね、何事よ? 鍛錬中のお姉様の迷惑じゃない」


甲木「あ、シンお姉! テイくんとヘイくんの喧嘩止めて!!」


辛金「えー……めんどくさー……。何で私なのよー?…………って、急に静かね」


丙火「………………」


丁火「あれあれー? オニイサマ、顔真っ赤だけどー?」


丙火「っ、黙りやがれ! 赤くなってねぇわ!!」


辛金「あ、そうでもなかったわね」


庚金こうきん「なんだ、騒がしい」


辛金「あ、お姉様! 鍛錬は終わりましたの?」


庚金「まあな。で、何があったんだ?」


乙木「テイくんとヘイくん、喧嘩中」


庚金「ふーん……の割に静かになったな」


丁火「………………」


丙火「あれあれー? 丁火くん、顔真っ赤にしてどうしたのかなー?」


丁火「っ、あ゛!? なってねぇわ!」


庚金「そうでもねぇらしい。お前ら、喧嘩ばっかすんな。甲木と乙木が困ってんだろ」


辛金「そうよ。それに、いつもお姉様の手をわずらわせて、ほんと最低よ」


丙火・丁火「………………ちっ」


辛金「はぁ!? お姉様に舌打ちとか何様のつもりよ!?」


庚金「辛、落ち着けよ。ったく、相変わらず態度悪ぃな、お前ら」


ガラガラガラッ


戊土ぼど「ただいまなのだー」

己土きど「ただいまなのー」


乙木「あ、帰ってきた。ぼっくん、きっちゃん、おかえり」


甲木「おかえり! 何して来たの?」


戊土「己土がどうしても買いたいと言っていたぬいぐるみを買ったのだ」


己土「お兄、ありがとうなのー」


戊土「ふふん、兄として当然なのだ」


庚金「どっかの兄弟とは大違いだな?」


丙火「あ? こっち見んな、庚金」


庚金「はいはい。……壬水と癸水は?」


乙木「台所。杏仁豆腐、作り中」


(台所の方から)

壬水「おーい、お前らー。杏仁豆腐作ったけど食うかー?」


全員「…………食べるー!」


【彼らは一年交代の十年周期で、十二支同様に人間界に恩恵を与えている。彼らのことは皆、こう呼ぶ。『十干じっかん』と___】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る