第3話 四凶

【幽都の門付近・四凶殿しきょうでん


饕餮とうてつ「……キュウ兄」


窮奇きゅうき「あ? どした?」


饕餮「コン兄が……」


窮奇「…………」


《ガルルルルルッ、アオーン……》


窮奇「あいつ、犬に戻ってるな。……はぁ、コツ」


檮杌とうこつ「はいはい」


《ガルルルルル……》


窮奇「……こん


《ガルルルルルッ……》


饕餮「今話しかけたって無駄でしょ。目も耳もあるのに機能してないし、人型も保てないんだからさ」


混沌こんとん。目があるのに見えず、耳があるのに聞こえず、自分の尻尾をかじって、くるくるとその場を走り回る犬の姿をしており、その名の通り、混沌を司る悪神である】


窮奇「コツが来ねえと何もできねぇんだよ」


檮杌「お待たせ」


窮奇「遅え……。《ヂィン》」


《ガルルルルル……ッ……》


ピタッ


窮奇「《我の声を我の目前にいるものの心に直接伝えたまえ》…………混、人間になれるな?」


《………………》


シュンッ……


窮奇「いい子だ。描くから動くな」


ザシュッ、ポタポタポタ……


窮奇「テツ、盃」


【窮奇。悪を善とする牛の姿をしており、人間界で善人を罰する。風と血を司る悪神である】


饕餮「はーい……。しっかし、何度見てもグロテスク……」


窮奇「俺の血で描かねぇと、混は見えねぇし聞こえねぇからな。それに、痛みはねぇよ。血を司ってるからな」


檮杌「……人間界に降りて人間なんか食うからそうなるんだよ」


窮奇「バカな奴らを食って何が悪い」


檮杌「まあ、人間界の平和を滅茶苦茶に破壊するのは楽しいけどさ」


【檮杌。平和を乱すことを考え、人間界に降りると、殺戮を行う。虎の姿を形どる戦争を司る悪神である】


饕餮「人間は不味い。それなら食べ物とか金のがよっぽど美味いじゃん」


混沌「何の話してるんだ?」


窮奇・饕餮「食いもんの話」


混沌「はーあ………………不便な体……見えない、聞こえないのが俺の普通だけども……」


窮奇「そうだな。でも、俺たちはお前と話したいし、生活したいからこうして術を施してんだ」


混沌「まあ、お前らと話すのが楽しいってのは認める。あー、耳、聞こえるようになってきた。心に話しかけてくんのやめていい」


窮奇「《解》……ほら、どうだ? 聞こえの具合は」


混沌「ばっちり。目も見えてる。ごめんな」


饕餮「何で文様が消えてたの?」


混沌「あー、それはな。あれだ」


檮杌「…………ん? あんなとこに噴水、あった?」


窮奇「ねぇはずだが……」


混沌「なんかな、水道管に穴が空いてて、水が出てたからさ、遊んだら楽しそうだと思って、犬になってはしゃいでたら、耳も目も使い物にならなくなって、ぐるぐるしてたんだ」


三人「阿呆か!」


混沌「ごめんな。犬の本能には抗えないもんなんだな。びっくりした」


窮奇「…………同じ犬でも鐸戌のがよっぽど出来た奴なんだな」


混沌「……あんなのと比べるな、力も弱い子犬だ。それに、俺が持ってないものを全部持ってんだ」


檮杌「まあ、俺たちが持ってないものを持ってるのが天界に住んでる奴らさ。気にする分だけ無意味だろ」


饕餮「その割に檮杌はやたら天界に出ていくよね」


檮杌「まあ、興味はあるからね」


もぎゅもぎゅもぎゅ


檮杌「…………何してんの?」


饕餮「あ、食べる? 肉饅にくまん。お腹すいちゃってさ」


【饕餮。人間界に降りる時は財産や食物を貪り食うが、基本的に何でも食べてしまう羊で、貪食を司る悪神である】


檮杌「いや、いらない。てか、いくらなんでも多すぎだろ」


饕餮「は? こんなのおやつだよ、おやつ。あー、もう一袋買えばよかった……足りない……」


窮奇「……テツ、それ、一袋30個入りだろ」


饕餮「うん、それがどうかした?」


混沌「てっちゃんはたくさん食べるなー」


饕餮「キミらが食べなさすぎなの。ボクからしたら超小食だからね?」


窮奇「テツ」


饕餮「何?」


窮奇「今日、夕飯は何がいい?」


饕餮「肉」


窮奇「ん、じゃあ、人間界で見てきた焼豚チャーシューってやつ、作ってやるよ」


饕餮「やったああああああ!! 人間の料理はうまそうなんばっかだからね! ……じゅる、ヤバい、考えただけでよだれ止まんない」


混沌「ほんと、食いしん坊だね、てっちゃんは」


檮杌「いや、食い過ぎだから。食いしん坊超えて、もう食い魔神だから」


饕餮「魔神か、確かにそうかも」


檮杌「否定しねぇんかい」


窮奇「ちょっくら俺は料理をしてくるぜ」


饕餮「できたらすぐ言ってよね! ボクたくさん食べる!! 今からちょっと、おやつ買ってくるねー」


窮奇「へいよ。コツ、ちょっと手伝ってくれ」


檮杌「はいはい」


混沌「きゅう! 俺は!? 俺は!? 何すればいい!?」


窮奇「お前は…………そうだな……」


混沌「わくわく」


窮奇「…………《じっとしてろ》」


混沌「きゃんっ!! おい!! 言霊縛ことだましばりやめろ!!」


檮杌「……こんなんが俺らの中で一番強くて、俺らのリーダーっていうのが信じられないんだけどさ、どう思う?」


窮奇「同感に決まってんだろ。おい、馬鹿犬」


混沌「え、俺のことですかね!?」


窮奇「言霊縛りくらいお前が解除するのは簡単だろうが、解除して動いたら目と耳の術解いて、くるくる走り回らせるからな」


混沌「…………はい、じっとしてます」


饕餮「コン兄、あとで餡饅あんまん持ってくるから一緒に食べよっ」


混沌「てっちゃぁぁぁんんん……」


【悪神である彼らにも、ゆるりと過ごすそんな一時がある。のちにこの生活は崩れることになるのはまだ誰も知る由もない______】

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