第108話 転校生。
夏休みが終わっても、高校への通学路は暑い。
「本部くん、おはよ」
「桃原さん、おはようございます」
夏祭りぶりに会ったが、桃原がいよいよガチの女の子に見えてきた。
髪型だろうか、ボブヘアーみたいな感じで全く男って感じがしない。
「まだちょっと暑いね」
「そうですね。もう秋なんですけどね」
ついこの間高校に入学したと思っていたら、もうすでに夏休みは終わっている。
あっという間に過ぎていく。
「学園祭の季節だね」
「……学級委員なんだよなぁ、僕。決めるのが面倒です」
「あはは。まあ、頑張って」
学園祭の決め事があると言っても二学期初日に決めるという事はないだろうからいいけど。
「なんだか久々の教室」
「嬉しそうですね」
「今はそうだね。本部くんもいるから」
「……それは、よかった」
一瞬ときめきました。
可愛かったら男の娘でもいいのかもしれん。
いやいっそその方がきっといいまである。
「なんか教室がちょっとそわそわしてない?」
「してますね」
「なんだろう」
すでに教室に居た生徒たちがなにやら騒がしい。
その騒がしい生徒は主に男子なのだが、聞き耳を立てて情報を整理すると、どうやら転校生が来るらしい。
うちのクラスかはわからないが、見慣れない女生徒が職員室にいたのを見たとか。
僕ら1年からしたら先輩方とかほとんど知らんだろうに、どうしてそれが転校生だとわかるのか。
よほど可愛いかったのか。
であるならば「あんなに可愛いのに見たことない」は成立する。
二学期早々に浮かれているのは元気のいい証拠だ。
青春ですね。
「おはよ!」
「おう」
「おはようございます」
ガヤガヤと騒がしい中、天使さん、見明さん、黒須さんも続いて教室に入ってきた。
「おはようございます」
「おはよ」
転校生と聞くとウキウキするのはわかる。
だが小学生の頃に「転校生」側だった自分からすればあまりいい思い出はない。
ちやほやされるのは最初くらいなもので、人にもよるが場合によっては僕みたいになる。
噂の転校生が何事もなく学校生活を送れることを祈っておこう。
「桃原さんは宿題終わりました?」
「終わったよ。ばっちし」
今ではもうすっかりおどおどすることもない桃原。
会話がスムーズで助かる。
「本部くんは?」
「もちろん終わってます。夏休み1週間で全部終わらせました。ダラダラしたかったので」
「1週間で終わらせたのは凄いね。ボクなんて結構掛かったよ」
ダラダラするのも専業主夫の特権であるが、やはりやるべき事を終わらせているのが必須条件である。
それに、スーパーへの買い出しや料理などの毎日の日課はやってもやっても終わることは無い。
宿題なんてものは早々に終わらせておくのが1番楽だ。
終わらせられるのだから。
「本部くん、この間はありがとねっ」
「いえ、元気になったようで良かったです」
眩しい笑顔でお礼を言う天使さん。
体調の悪化もしなかったようでなによりだ。
「見て見て、これ昨日作ったお菓子。どうかな?」
「可愛いですね。どこで売ってた型なんですか?」
「最近駅前にできた雑貨屋だよ」
「今度行ってみようかな」
桃原が楽しそうに作ったお菓子の写真を見せてくる。
僕も桃原から教えてもらっていたりするので、わりと興味がある。
それに、クッキーなどの型は料理でも使えたりするので汎用性が高く便利だ。
「おーいお前ら、席つけー」
鐘の音とほぼ同時に担任が気だるそうに教室に入ってきた。
常にシャカシャカジャージの色気のない担任の先生は見ていてなぜか安心する。
朝のホームルームが始まり、先生が話し出した。
「今日は転校生がいるので紹介する。入ってきてー」
転校生がまさかうちのクラスに編入するとは思っていなかった。
が、そんなことよりも僕はその転校生を見て目を丸くした。
「ハイタイ! 沖縄から来ました
……なぜ、ここにお前がいる?
聞いてないぞ?
いやまああれから連絡とか取ってないからあれだけども。
「百合夏ちゃん?!」
「みーうー?!」
おいお前、いつの間に天使さんを下の名前で呼ぶ仲になってんだ。
女の子同士で仲良くなるの早すぎじゃない?
クラスのざわつきは百合夏が他にも知り合いを見つける度に増えていった。
「あい、たーけーもいるさ」
「……その呼び方で呼ばないでもらっていいですかね……」
クラスの目が僕にまで向いた。
特に男子からの視線が刺さる。
殺意を込めた視線が……
「お前ら静かにー。とりま喜屋武さんはあっちの席座ってな」
「はい」
まさか、こんな事になるとは思っていなかった。
百合夏の表の顔での空気の読めなさは異常である。
それはつまり僕の高校生活に大きく支障が出るということである。
事なかれ主義で済ますには無理がある。
これ以上引っ掻き回されたらまた前みたいになる可能性すらある。
天使さんたちが楽しそうにしているのを横目に僕は、彼女らとの距離を置くことに決めた。
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