第74話 スーパーでのお買い物。

「本当にみんなと遊びに行かなくてよかったですか? ふたりとも」

「遊ぶより本部さんの隣が良いです」

「あ、あたしはべつに沖縄料理とか興味あるし、お師匠のお買い物とか手伝いたいし」


 歩いて10分のスーパーへ買い物に付いてきた天使さんと黒須さん。

 黒須さんはなんとなく手持ち無沙汰だったので付いてくるのもわかる。ストーカーだし。


 天使さんも一応僕が料理を教えていたりする関係上、沖縄料理に興味を持つのもわかる。

 だが別に荷物持ちが必要かと言われるとそうでもない。

 いやまあ人数は多いから買い物の量は増えるけどさ。


「さてと、お買い物を始めますか」


 やってきたのはタウンプラザかねひで。

 懐かしいな……

 今回はお盆も近い為、お盆用の食材も仕入れておかなければならない。


「お、今日はレタスが安い。よし、タコライスにしよう」

「本部くん、レタス好きだよね」

「レタスは地味に高かったりしますからね。日持ちもしにくいですし、買える時に買って調理したいのですよ」

「本部さんって、そういうところ家庭的ですよね」

「専業主夫ですから」


 黒須さんの言う「家庭的」は適切な表現なのかはわからない。

 それでも親がいない黒須さんが僕にそう言ったのは実際にそう思ったからなのだろうか。


 親がいない者同士、一般家庭を知らない者同士。

 ふと考えるには複雑な話である。


「グルクンかぁ……」

「ぐるくん? お魚?」

「はい。白身の魚なんですけど、唐揚げにすると美味しいんですよね。久々に食べたい気もする……」

「グルクンというこのお魚は東京では食べられないのですか?」

「東京湾でも採れるらしいですけど、普段はあんまり買ったりしないんです。けど久々に沖縄に来たので、食べたくなったんですよね」


 沖縄にいた頃はスーパーの惣菜で当たり前のように売っていたグルクンの唐揚げだが、東京ではなかなか見かけない。

 ちなみにグルクンとはタカサゴの仲間である。


「唐揚げかぁ。そいえば揚げ物系はあんまり料理した事ないかも」

「せっかくならやってみますか、グルクンの唐揚げ」

「う、うん……や、やってみる」


 沖縄に来て魚の唐揚げを最初に教える事になるとは思っていなかったが、グルクンの唐揚げは本当に美味しいので是非とも教えたい。


「お魚って捌くのとか大変だと聞きますが、大丈夫なんですか? 天使さん」


 黒須さんがお魚たちを眺めながら天使さんにそう聞いてきた。

 魚の調理に慣れている人ならともかく、ついこの間まで卵を暗黒物質ダークマターに錬成していた天使さんである。

 おそらく経験はないだろう。


「だ、だいじょぶ。本部くんいるし」

「そうですね。本部さんの料理は美味しいですし、問題ないかもしれませんね」

「うんうん」

「じゃあグルクンも買いますかね」


 食べ盛りの若者たちも今日はたくさんいるので、気合いを入れて料理しなくてはならない。

 僕はそれなりにやりがいを感じるが、天使さんは大人数の料理などを作った経験も恐らくないだろう。


 ここはお師匠として頑張らなくては。


「なにこれ美味しそう」


 天使さんはスーパーではしゃぐ子供みたいに色々と店内を見て回っている。


「天使さん、楽しそうですね」

「そうですね」


 天使さんを微笑ましそうに見つめる黒須さん。

 今日はずいぶんと大人しいので大変助かっている。


「お、いたいた健君」

「健くーん!」

「直人さん?! 陽向さん?!」

「なっ?! ……」


 なぜここに直人さんと陽向さんが……


 てか陽向さん可愛いなぁ。

 白のワンピースに麦わら帽子がこんなに似合う人って現実世界に居るんだな。

 パッと見は中学生だけども。


「遊びに来た!!」


 小さな胸を張ってドヤ顔をする陽向さんを見て、疑問とかもうどうでもよくなった。

 可愛いは正義。これはこの世の真理なのである。

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