第57話 生徒会長と副会長。
「もうすぐ梅雨か」
料理対決のひと騒動もようやく落ち着いた6月の頭。
まだ2ヶ月しか経っていないというのに色々とあったなぁ、なんて思いながら通学路を歩く。
「桃原さん、おはようございます」
「本部くんおはよ」
最近は気温も上がってきているからか、制服のブレザーを着ることはなくなり、桃原の白い肌も露出するようになった。
女の子と間違えてしまうような線の細い身体や肌、そして最近では言動すら女の子っぽくなっている気がする今日この頃。
「そういえば聞いたよ本部くん。なんか、料理対決? したんだって?」
「ああ〜。まあ、成り行きで」
「先輩相手に勝ったんでしょ? すごいね」
「天使さんが頑張っただけですよ」
天使さんVS冨次先輩という料理対決の話は一気に広まってしまった。
僕は幸いにもモブ扱いなのでとくに周りがうるさくなる事はそんなになかった。
ただ、冨次先輩は調理部の部長という事で交換した連絡先からなぜかひっきりなしに飯テロ画像が送られてくるという嫌がらせはされている。
なぜいちいち美味そうな画像をひたすら送ってくるのか意味不明。
新手のマウントだろうか……
「おう本部、桃原」
「おはようございます。見明さん」
「お、おはようございます……見明さん」
高校が見えてきた頃に出くわした見明さん。
銀色の髪をなびかせての登校にびくつく桃原。
そこそこ話すようにはなっているが、未だにちょっと怖いみたいだ。
「桃原、この間はサンキュな。美心もクッキー喜んでてさ」
「美心ちゃん、喜んでたんだね。……良かった」
中間テスト前の勉強会の後にクッキーの作り方を教えたらしく、見明さんも喜んでいるようだ。
姉御肌の見明さんはなんだかんだ人当たりはいい。
今後とも桃原の「人間さんと仲良くなろう計画」を手伝ってやってほしい。
「げ……本部健」
「おはようございます。冨次先輩」
下駄箱ですれ違ったのは冨次先輩。
僕を見るなり露骨に嫌な顔をされた。
酷くないですかね。せめて挨拶しましょうよ。
「…………ふんっ」
ぷりぷり怒りながら2年の教室へと歩き出す冨次先輩。
根に持つタイプなんですね、よくわかりました。
「本部くん、冨次先輩に嫌われてるの?」
「そうみたいですね。負けたのが悔しいらしいです」
まあ、ただのモブに負けたらそりゃ悔しいのだろう。あんなに息巻いてて負けたんだしな。
まあ、そんなに関わり合いなんてないんだし、どうでもいいけど。
しかしそう思っていたその日の放課後。
僕は冨次先輩に連行されて家庭科室に連れてこられた。
「君が最後の部員ね」
そこに待ち受けていたのは、どう見ても小学生の背丈の子供だった。
状況が飲み込めず僕はそっと冨次先輩に耳打ちをした。
「冨次先輩、この小学生、なんですか? なんでこんなとこ居るんですか?」
「誰が小学生よっ!!」
聞こえないはずの小さな声だったが、本人には聞こえていたらしい。
小柄故に怒っていても全然怖くない。
栗色のセミロングの髪、発育皆無なロリ体型は陽向さんよりもロリータである。
「私は
「ごめんねぇ本部くん。これでもうちの生徒会長なの。あ、私は生徒会副会長の
多口会長の隣に立つスタイルの良い仲道先輩のせいでより会長が小学生にしか見えない。
糸目でゆるふわボブ。豊満な胸はいっそ多口会長はの当てつけかのように見えさえする。
「それで……なぜ僕は呼ばれたんですかね?」
「調理部が規定部員を揃えたというから、本当なのかと思ってね。幽霊部員なら構わず廃部にしようと思ったのよ」
「そうですか」
まあ、正直廃部でもどうでもいい。
その場の流れで入部する事にしたが、別に未練がある訳じゃない。
「本部健、あんたには今からこの調理部の部員である証明をしてもらうわ」
「……証明? 部員名簿見たらすぐじゃないですか?」
「ぱっと入っただけで籍を置いてるだけの幽霊部員、そういう疑惑がある以上、部として活動を許可する事はできないわ」
「ごめんねぇ。生徒会としても、ちゃんと活動してないと部費を出してあげられなくて〜」
「という訳よ本部健。今から料理しなさい」
急に連れてこられて料理しろってさ……
いやまあ「なにかあったら部活に出てくる」とは言ったけどさぁ。
まだ入部して3日。
さっそく活動しなくてはいけなくなるとは思っていなかった。
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