番外編 専業主夫のひとり飯。

「とりあえず一旦家事終わり〜」


 とある日曜日。

 千佳は友達と遊びに行き、真乃香さんは休日出勤。

 平和な1日。


「飯でも食うか」


 専業主夫の昼飯。

 普段学校では千佳と真乃香さんの分と一緒に弁当を作るが、休みの日でもそれなりにちゃんと料理を作るのは自分以外に食べる人が居る時だけである。


「1人分作るのってめんどいんだよな」


 冷蔵庫の中を眺めてどうするか考える。

 インスタに上げる用でちゃんと作る気にもなれない。


「とりまTKGでいいか」


 冷凍ご飯を温めて卵を割る。

 日々溜まっていく冷凍ご飯を消費しなければならないという隠れミッションを淡々とこなすのも専業主夫の仕事だったりする。


 ある時は温めたご飯にチーズ乗ってけ食べるだけとか、味付き海苔と米だけとか。


「お椀も洗いたくないので、ラップで包まれたご飯をラップそのままお椀に置く。これ大事」


 お椀の上でラップを開封することによってお椀の器としての機能を使いつつお椀は汚れない。

 すぐ破れるラップは僕は使わない。

 水道代の節約と手間を省く二十にお得で楽な方法である。


「電子レンジだってちゃんと手入れしてるからできる楽なんだよな」


 まあ、人によってこれは不衛生だという人もいるだろう。

 がしかしそれぞれに個人専用のお椀があり、僕自身のお椀を使っている身としては文句を言うべき人間は僕しかいない。

 ので問題なし。


「いただきます」


 今日はエキストラバージンオリーブオイルも切らしているのでアレンジも無しのほんとにただの卵かけご飯。

 申し訳程度にふりかけたネギがささやかな彩りを添える。


「ん、インスタのコメント」


 そもそも熱心にやっている訳ではないインスタ。

 趣味でやってるだけだし、料理へのモチベーションの維持の為だけのSNSと言ってもいい。


 そんな雑な扱いしかしていないインスタは更新した後そのまま放置だったりする。


「『【黒酢監視官】 今日もとっても美味しそうな料理ですね』」


 3日前に上げた投稿へのコメント。

 なぜかこのコメントを見て背筋がぞわりとした。

 今まではなんともなかったのに、である。


「……そうか、【黒酢監視官】って黒須さんだったのか」


 黒酢と黒須。

 監視官とはストーカーを表していたのか。


 一見、深夜ラジオのハガキ職人のような意味のわからないペンネームだと思っていたが、こんな伏線が隠されていたなんて……


「いやまあ黒須さん本人はそんな意図はないだろうけどさ」


 普段はインスタ越しに知らないファンからのコメントが来るだけだが、黒須さんが【黒酢監視官】だと気付いたのもリアルでやり取りをするようになったからだろう。


「最近は黒須さんも大人しくなったしな」


 毎日晩御飯を食べるようになってからは機嫌が良い。

 なんというか、良い子になった。

 やはりちゃんとした飯を食べるのは人として大事な事らしい。


「でも毎回真乃香さんとケンカするのはやめてほしい」


 とくに真乃香さんがマウントを取ってからが酷いのだ。

 そして始まる「将来のお嫁さん候補バトル」

 毎度毎度皿が割れるお皿洗いってなんなんだよ。

 この間なんて雑貨屋ひまわりで買ったお気に入りのお皿割りやがった……

 許せんぐぬぬ。


「ん? 天使さんからメッセ」


 送られてきたのは料理の画像。

 そして天使さんのドヤ顔。


 ☆miu amatuka☆

『みてみて本部くん!』


 本部健

『美味しそうですね』


 時折こうして送られてくる料理の画像のドヤ顔。

 たぶんだが、褒めてほしいのだろうと思う。

 真乃香さんもよくこんな顔をする。


 どうやら天使さんの今日のお昼ご飯らしく、今からひとりで食べるようだ。

 弟子が頑張って料理をしているのは微笑ましい。


 僕なんて手抜きの卵かけご飯だからな。


 本部健

『天使さんはちゃんと作ってて偉いですね。僕なんて手抜きで卵かけご飯ですよ』


 ☆miu amatuka☆

『本部くんもひとり? 同じぼっち飯仲間だね』


 本部健

『そうですね』


 ☆miu amatuka☆

『本部くんもひとりなら一緒にご飯とか誘えば良かったなぁ(´・ω・`)』


 なんで天使さんはこういう事を平気で言うんだろうか?

 たまに勘違いしそうになるからやめてくれないだろうか。

 うっかり好きになってしまいそうだ。


 こういう時の返信って困るんだよな。


 本部健

『僕はいつも1人で食べてるので問題ないですよ』


 ☆miu amatuka☆

『あたしが寂しいの!!』


 天使さんの返信を見て笑ってしまった。

 でもまあ、そんなお昼ご飯も悪くないんだろうな。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る