サヨナラを知りまた会える日を待つエルフの話

秦 結希

第1話 大好きなあなたへサヨナラを

「ご飯出来たよ。そっちまで持っていくからあなたはじっとしててよ。」元気な声が台所から聞こえてくる。「ああ、じっとしてるよ。もとよりそんな体力は残ってなさそうだけどな。」そう言って俺は苦笑する。「分かってるよ。ほら、アーンして食べさせたげるから。熱いから気をつけてね。」そう言って俺にご飯を食べさせてくれるこの子は俺の彼女でエルフのファナだ。彼女といっても俺はただの人間だし結婚はしてない。だが、もう何十年も人里に帰らず、ずっとここで同棲してるため実質結婚と言っても差し支えないんじゃないだろうか。「ご飯、美味しいよ。」そうは言ったものの実はここ数日で味覚が無くなりつつある。…そろそろか。「なぁ、ファナ。俺さ…。」逃れられない事実から目を背けずに俺はある事をファナに伝えようとする。が、「ごめん!今家事で忙しいからまた後で言って!」といつもこうして逃げられてしまうのだ。俺が伝えようとしてること、それは俺の寿命がそろそろだということ。でもそれを認めたくないのかファナは絶対に聞こうとしない。俺の話を全部聞かないのかというとそういう訳じゃない。例えば「なぁファナ、愛してるよ。」そう告げると彼女はいつも、家事を放り出して俺のところにすっ飛んでくる。「私も大好き。ねぇ、頭撫でて?」こうして言われるがままに頭を撫でたりしているのだが、もうすぐ死んでそれも出来なくなる。怖い。死ぬのがじゃなくて彼女を1人にするのが怖い。そんなことを考えているといつしか夜になっていた。

 俺たちが寝る時はいつも一緒でずっと暖かいのだが、何故か今日はすごく冷たかった。ああ、俺は死ぬんだな。そんな実感がすぐに湧いてきた。ファナ、どうか君だけは幸せになってくれ。あの世でずっと見守っているよ。「…ファナ。こんな俺と一緒にいてくれて、愛してくれて、本当にありが…と…う。」その言葉を最後に俺は全ての意識を手放した。サヨナラ、俺の最愛の人。また、いつか。

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