43_守り手
…さて、俺も役目を果たすかな。
胸元に垂れ下がる大きな宝玉に蓄積した自然力を取り出し、俺を中心にそれを発散する。巨大な、身に余るほどの自然力の流動から心身が瞬く間に疲弊する。
それを遠吠えを発し、足を地面に縫い付けて気合いで耐える。そして、自身の範疇を逸脱した魔術を発動させた。
「水」最上級魔術〈
魔術が収束し、ヨスガと獣人を閉じ込める隔絶空間。その隔絶空間を守護する無数の檻が縦に重なった「監獄」とも取れる結界を構築する。
空間が閉じられる時に見えたのは縁を切り裂こうと猛進する獣人と黒い瘴気の中にある彼の姿だった。
…気張れよ
俺は念を飛ばして、その場から去った。
『今の避難状況は』
俺は手近にいた憲兵にそう聞いた。
「狼がしゃべった…」
『率直に聞くぞ、避難にあと何分かかる』
「あ、ああ。いいところ、四十五分くらいだな」
『十分以内にやってくれ』
「んな、無茶な」
『敵をヨスガが抑え込める時間がそれだけしかない。頼む』
俺だって、無理を強いていることは分かっている。それでもやるしかないのだ。何せ、時間は今この瞬間にも流れ続けているのだから。
「どうした、揉めているように見えたが」
そのヒョロイ騎士と問答を続けていると、長身で堅いがよく鋭い眼光を放つ、いかにも「指揮官」といったような風貌の男が現れた。
「この『物憑き』がですね。さっき、見たじゃないですか。騎士と獣人が檻に囚われていくの。アレがあと十分も持たないっていうんですよ」
「それは本当か、君」
『マジだ。十分。それだけだ。仮に獣人が倒せても、その後別の化け物を見ることになるぞ』
その男は少しも考える素振りを見せず、決断してみせた。
「なるほど。…多くを助けるのが我らの仕事だ。連絡係に繋げ、『あらゆる手続きを省略し祠の中に国民を非難させることを最優先にせよ』と」
「正気ですか⁉︎後で立場なくなりますよ」
「杞憂だったらそれでいい。いつも言ってるよな、最悪を想定して動け、と」
「……了解です、団長。各人に繋ぎます」
「よろしく頼む」
「総員で取り掛かる。天幕で休んでいる奴らも起こしてくれ」
その後はその『団長』と呼ばれる人の指示の元、祠への非難誘導が行われた。その団長はかなり腕のたつ人であるらしく、七分が過ぎようという頃には坂の下まで続いていた行列は祠目前まで縮小していた。
クロエは先ほどからあの大きな弓で最上級魔術〈千里〉を用いてこちらに近づく巨人や大型魔獣を次々と葬っていた。それ以外はもう一つの小さな弓に換装して対応している。バジリスクの時、一矢しかできなかったのは「大きく、強度の高い弓」を作るのに魔術の大半を割いていたらしかった。
「ねぇ、ヨスガって何者なの」
彼女は意識を戦場に向けたまま、話しかけてきた。同じく魔術で魔獣を応戦していたユウとチヅルも耳を
それにここ最近の戦闘能力の上達度は以前にも増していた。師匠曰く、元々戦闘センスはあるらしいがそれにしても飛躍しすぎているような気がする。
『普通のやつだよ、昔から魔術を使えないこと。なんか呪いみたいなのに掛かっている以外のことはな』
「それもう普通じゃなくない?」
『
昔のことを懐古すると、村での記憶が蘇る。丁度、俺が森を彷徨ってヨスガの家に辿り着いたその頃のものだ。
『俺が知っているのはあいつが十歳の頃からだ』
そう言って、俺は村にいた時の縁のことを話して聞かせた。
それからどれだけが経っただろう。少なくとも約束の十分は経っていた。流石にもう決着はついているだろう。果たしてあの中にいるのは獣人か、それとも——。
刹那、眩い光が辺り一帯を包み、過剰な閃光に目を覆う。
次の瞬間、目に入ったのはあの水の檻を空へと伸びる一筋の極光が貫いている現実離れした光景だった。
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