我ら物語保護隊!

白宮 つき

第1話

物語は偉大だ。

私たちを未知の世界へと導いてくれる。

物語には生まれた時から決まっているエンディングがある。


「2人ともー!おっはよー!」

肩まで伸びた檸檬色の癖毛をゆらしながら、元気よく走ってくる美少女は、花宮 美音(はなみや みおん)語部(かたりべ)中学の1年生だ。

「おはよう、今日も元気だね。」

優しい笑顔で声をかける柔らかくウェーブのかかった栗色の髪と水色の瞳を持つ甘いマスクの美少年は、須藤 透(すどう とおる)。

「慌てすぎて転ぶなよ。」

無表情のまま声をかけるさらりとした栗色の髪と水色の瞳を持つ、氷のような美少年は、須藤 東(すどう あずま)。透とは双子で透が兄、東が弟だ。

語部中学に入学してから、これといって変わったことはなく、美音は幼馴染となんとなく日常を過ごしていた。

そんな平凡な日常に、大きな変化が起きたのは昨日のことなのだ。


「はぁぁ〜。なんか楽しいこと起きないかなぁ。」

美音ごこのようなセリフを言うのは、もはや日常茶飯事である。

「おい、いくら人がいないからといっても図書室だぞ。静かにしろ。」

冷静な東の嗜めが入る。

語部中学では情操教育と銘打って、大量の本を取り扱う巨大な図書室があるのだが、ゲームばかりする子供達には響かず、利用者はもっぱらこの3人なのだ。

「まぁまぁ。俺たちしかいないし、声もあまり響かないし大丈夫だよ。」

すかさず透が優しくフォローを入れる。

「透、甘やかすな。こいつが調子に乗る。」

3人の中ではお馴染みのやりとりをしていると、担任で図書室の管理をしている山部(やまべ)先生が慌てて入ってきた。

「誰か居ないかい⁉︎大変なことが起きてしまったんだ!」

「山部先生。どうかしたんですか?」

透の姿を見て安心したのか、息を整えてから先生が話し出す。

「君たちが今日もいてくれて本当によかった。これから僕が話すことは信じられないかもしれないけど、どうか聞いてほしい。語部中学には、たくさんの本があることは知っているよね?それはある使命を果たすためなんだ。それは物語の正しいエンディングを守ること。実際に10年に1度の周期でさまざまな本の結末が変わってしまう事件が起きているんだ。その度にここの生徒が正しいエンディングに導いてきた。そしていま、また物語のエンディングが変わり始めているんだ。だから、今度は君たちに物語を守ってほしい!」

普段なら笑い飛ばしてしまうような話なのだが、先生のあまりに切実な様子に不思議と疑いの気持ちは湧かなかった。

「山部先生。確認したいのですが、物語の結末が変わってしまうと何か影響があるんですか?」

「うん。東くんの疑問も当然だよね。物語の結末が変わっても放置してしまうと、この世界の未来も変わってしまうんだ。物語が変わると物語を生み出した人の人生も変わって、それが連鎖していってしまう。だから、絶対に食い止めなきゃいけないんだ。」

想像よりも大きな影響があるとわかり、透と東が言葉を失うが、美音の呑気な声が響く。

「山ちゃん先生!それあたし達がやるよ!正義の味方みたいでかっこいい〜!物語保護隊の結成だ!」

「おい、勝手に決めるなよ」

「いいんじゃない?」

「「透!」」

東は止まるように、美音は感激したように名前を呼ぶが、思いは反対方向である。

「東、美音は言い出したら聞かないんだしら俺たちが付いてた方が安心でしょ?」

「はあ、わかったよ。こいつ1人じゃ心配だしな。」

「東〜!ありがと!」

こうして3人の物語保護隊は結成されたのだった。

「3人とも、明日早速活動してもらうから、放課後すぐに図書室に来てね。」

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