幼なじみの彼女に裏切られ、親友と付き合っていたことを知ってしまったので、親友の婚約者であり幼なじみの天敵の悪役令嬢と組んで、2人の仲を全力で引き裂きたいと思います
竜頭蛇
第1話 始まりのトラック
放課後、幼馴染の彼女と親友と落ち合うためにいつもの待ち合わせ場所に着く直前だった。
曲がり角を曲がって、二人の背中が……と思うとその正面からトラックが近づいているところが見えた。
急なことだったのか、二人ともトラックを見たまま腰を抜かしたのか、硬直していた。
「危ない!」
気づいたらブレーキの音がけたたましくなる中、俺は飛び出していた。
「っ!!」
何かがぶつかる金属音と共に衝撃が肩に伝わると、木が折れる音が耳元で聞こえた。
「あれ……?」
不思議なことに、肩に硬い鉄の感触が残っている程度で全くと言って痛みがなかった。
ガサガサと体を覆う葉っぱの感触から察して、おそらく近くの生垣にめり込んでいるのだろうが、これだけでトラックに直撃して耐えられるわけがない。
他の何かが働きかけたことは明白だった。
答えを確認するために、身を起こすと、
「死んだ」
親友ーー金山冬夜の声が聞こえた。
「びっくりしてないで早くここから逃げましょう」
生きているとツッコミを入れようと思ったが、幼馴染の彼女ーー高松摩耶の意味不明な言葉で動きが止まってしまった。
逃げる?
何を言ってるんだ、摩耶は?
「摩耶、なに言って……」
「冬夜があたしと浮気して付き合ってること、『悪役令嬢』は知ってるのよ! この事故の現場にわたしたちが居たことを知ったらこじつけるてくるに決まってるわ!」
俺の言葉をかき消すような大声で摩耶がそう叫ぶ。
想像もしていなかった『浮気』という言葉が聞こえ、口から言葉が出てこなくなった。
もしかしてこの二人俺のことを…。
「すまない。人の死を見て、気が動転してた。確かにそうだ。死んだやつに時間使ってもしょうがないしな」
心の奥底から湧き上がってきた疑念を冬夜は肯定した。
二人は俺のことを裏切っていたのだ。
「じゃあね秋也、死ぬまでいい夢を見れてよかったわね」
「秋也、次は棺桶越しに会おう。お前は庶民だが俺に彼女、命、大事なものを二つもくれた。最高のペットだったよ」
悔しさが込み上げてくると二人は最低な捨て台詞を残して、革靴をアスファルトに打ち付け始めた。
『悪役令嬢』ーー冬夜の許嫁に難癖をつけられることを回避するために逃げ始めたのだろう。
「命懸けでお前らのことを助けようとしたのにこんなのあんまりだろ」
感謝されることなど望んでいなかったが、あまりにもあの二人の態度は酷かった。
身代わりになって、親しいと思っていた人間から嘲りを浴びせられるとは想像もしなかったことだ。
トラックに轢かれて死ぬより、よほどひどい。
「だけど」
ひとしきり荒波のように悔しさが迫り上がってきたが、すぐに自分にも原因があったんじゃないかという気持ちになってきた。
何もなければ流石に俺に何かをしてきはしないのだから。
今まで気づいてこなかったことにいきなり気付くのは難しく、すぐに答えは出ないことは明白だった。
「一度家に言って混乱している頭を冷やすか」
轢いてきたトラックにはこの事故をなかったことにするように言っておこう。
折れた枝で手を切らないように注意して生垣から抜け出す。すると、想像よりもひどい事故現場様子が露わになった。
ひしゃげたトラックと無傷の高級そうな外車が正面衝突していたのだ。
状況から考えておそらく外車とトラックがぶつかったのは俺が轢かれてからそうたっていないころ……というより破砕音のことを考えれば俺が轢かれたのと同時だろう。
故意か、不注意かはわからないが、俺が無傷であったことに貢献してくれたようだ。
「あっしはこれで」
「ではあとの処理はこちらで。改めてそちらの会社には挨拶させて頂きます」
当事者二人の姿を探すとトラックの運転者らしき男と執事服をきた老人が話を終える姿が見えた。
こちらが事故のことを不問にする間もなく、話は終わっていたようだ。
また終わった話を掘り返すことになってしまうかもしれないが、命の恩人に一言も言わずに立ち去るのは無礼だ。
目の先にいる老執事と近くにいる可能性が高いその主人には礼を言わなければならない。
「怪我はない?」
老執事の方に歩を進めようとすると、俺の高校と同じ制服を着た女子から話かけられた。
「あ、冬夜の許嫁の……」
その子の青色の瞳を見て、冬夜の許嫁で『悪役令嬢』と呼ばれる麻黒陽菜だとわかった。
庶民である麻耶を目の敵にしているお嬢様ということでもっぱらの評判であまりいい印象はないが、もしかしてこの子が俺の命を救ったあの老執事の主人だというのだろうか。
「痛くもないし、怪我もないよ。君が俺をたすけてくれたの?」
「結果としてはそうなるわね」
「結果として?」
「私が助けようとしたのは許嫁の冬夜の方だからよ」
なるほど、俺は彼女の行動のおかげで助かったので、彼女が俺を助けようとしたと思ってしまったが、確かに許嫁の冬夜を救おうとしたのか。
「それでも今こうして助かってるんだ。ありがとう」
「どういたしまして」
「一つ質問があるんだけどいいかな?」
「いいわよ、状況がまだわからないと思うし」
「どうして、君はこの場所にいたの?」
「……」
俺とあの2人は待ち合わせしていたので必然であるが、何の用もない彼女がどうしてここにいたのか尋ねると、麻黒さんは沈黙した。
瞳は真っ直ぐこちらに向けられているが、どんな感情が胸の内で渦を巻いているのかわからない。
「……言いづらいけど言わせてもらおうかしら。不信感を持たれるのも嫌だし」
「言いたくないなら無理して言わなくても」
「言わないと誤解される可能性が高いのなら言った方がいいでしょう」
誤解される可能性が高いと言っているのはおそらく悪役令嬢のことだろう。
確かに何処か疾しいことがあったのではないかと考えていたのは本当のことだ。
「誤解される可能性のことを言われれば、否定できないし、状況が不明瞭で混乱している俺としてもやはり教えてほしい」
「私もあなたもこのことについて話すのが最良みたいね。じゃあ、言わせてもらうわね。私、ここには浮気調査のためにきたの」
「浮気調査てことはあの二人がいちゃついてる証拠を取るためってこと」
「そう。そうしないと冬夜はそんなことは知らないの一点ばりで相手にもしないからね」
「意外に苦労してたんだな。麻黒さん」
まだ全部知ったわけじゃないが、『悪役令嬢』ーー麻黒陽菜は悪い人間ではなさそうだ。
むしろ裏切った婚約者にも真摯に向き合い、あまつさえ手を伸ばし続ける善人と言ってもいいのかもしれない。
「苦労しぱなしよ。あなたが生きているとしたら本格的に冬夜がジタバタし始めそうだしね」
「あいつが君を攻撃するっていうのか」
「おそらくね。さっきのあなたへの捨てセリフを思い出して、あなたの口から浮気がバレていると思うでしょうし、私からそのことを責められると思うでしょうから。それに弱みを握られていると思っているあなたも標的にするはずよ」
身代わりになった友人を救護しなかったばかりか、その事故の件で婚約者に浮気がバレて詰られるかもしれないとなれば、将来の成功を約束されてなんとしても経歴に傷をつけたくない冬夜の都合を考えれば、そりゃそうか。
「こうして危機が直近にあることを提示してから、こういうのはずるいとは思うのだけど。佐藤君、私とこれから一緒に行動しない」
「一緒に行動する理由を聞いていいかい。正直俺と行動してもあまり君にはメリットがないように思うんだけど」
「私とあなたが組むメリットは、冬夜とあの最低最悪の女ーー高松摩耶に精神的にダメージを与えることよ」
意外だなと思った。
何処か善人のようなイメージがついていた彼女が、相手の心を傷つけるような行動を起こすなんて。
「君は冬夜のために心を砕いていたから、危害を加えるためにてのは意外だね」
「今の理由は満足できなかった? より苦しむようにした方が敵対関係は早く終わるし、それにそれ以上のことをあの二人はしているから。誠実であろうとするならばちゃんと起きてしまったことに報いなければいけないと私は思うのだけど」
行動の真意は彼女の優しさのようだ。
苦しみを少なく、さらに本人たちにしでかしたことの重さを鑑みるように考えて行動できるのは素直にすごいと思う。
自分の世界だけで完結させて切り捨てようと思っていた俺よりも、よほど温情に溢れているだろう。
「君は優しいんだな。確かに本当に今しなきゃいけないことはあいつらのために何かしてやることかもしれない。そうじゃなきゃ、あいつらのことを白状だと否定していたのに、何も変わりはしないんだから」
「組んでくれるってことでいいのね」
「ああ。君とならちゃんとあいつらとも向き合えるような気がするからね」
「じゃあ、明日からよろしく頼むわね、秋也」
「こちらこそよろしく、陽菜」
麻黒さんは親交を深めるためか、下の名前で読んできたので、それに応えて俺も下の名前で呼び返した。
「明日からこのことの決着が着くまで私たち恋人同士だから。そこのところしっかり意識しておいてね」
「了解」
まったく想像もしていない申し出だったが、俺はその場の勢いのままにその関係を了承した。
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