26 ダミアンの選択
ダミアンは、婚約者候補を白紙にした後、謹慎を受けたこともあり、リリアーヌとのいちゃいちゃも控えめに大人しくしていた。
リリアーヌは褒め上手で、喜怒哀楽が顔に出やすいところなどが新鮮な令嬢だった。
深めのスキンシップがOKだったこともあり、当時は妃にしてもいいかもと思うところまで盛り上がっていたのだが、親に怒られ反対されてしまったことをきっかけに、トーンダウンしていたのだ。
そんな中、弟のエドワードの婚約者が決まり、それがエリザベスだったことで複雑な気分になっていた。
そして程なく王太子を決める時期が2年延期になった話を宰相から聞くと憤慨した。
「どういうことだ。俺が卒業したら、すぐに立太子の儀式をすることになっていたじゃないか」
「ですが、現在、ダミアン殿下には婚約者がいない状況でございます。殿下の婚約者が定まらない中、王太子を決めるのは時期尚早だというのが国王陛下のお考えです」
宰相は、だから婚約者を早く決めたほうがいいとダミアンに伝える。
「俺は反省したんだ。王太子になるのにリリアーヌが障害となるなら縁を切っても構わない。エリザベスはエドワードと婚約を結んでしまったが、そうだ、マリアベルに再打診できないか?」
「いったん白紙になったものは難しいと存じます。それに、正式発表はまだですが、マリアベル嬢は、外国に嫁ぐことが決まっています」
「そうか。ほかに釣り合う令嬢はいないのか?」
「打診はできますが、学園内で交際があった方々からはお断りされる可能性が高いのでは?」
「むむ……確かに一度遊んで別れた相手では難しいのか」
ダミアンは、入学以来、学園内で美人の部類に入る生徒には片っ端から声をかけていた。
王子の立場からか、面白いくらい女子生徒が釣れる状態だったのだ。
そのため、付き合ってデートをしていい関係になったとしても飽きたら捨てるを繰り返していたのだ。
そういう行動を見られていたため、今になって慌てて婚約者を探そうとしても、堅実な高位貴族や、一度は捨てられた令嬢達の家が婚約に応じてくれる可能性はまずないだろう。
王太子になるためにそれなりの資質を持った婚約者が必要ということなら、最悪、貰い手のなさそうなソフィア嬢で妥協するしかない。ダミアンは真剣にそう思っていた。
リリアーヌが帝国の皇太子相手に問題を起こしたこと、そしてリリアーヌが学園をやめて修道院に行ったという噂もあったが、ダミアンはもう興味もなかった。
ある日の放課後のこと、ダミアンが自分のサロンから出たところで、レオナルドに出くわした。
ダミアンはレオナルドにはそこまで興味がなかったが、レオナルドの後ろに誰か女子生徒がいるのに気づいた。
もしやお見初めの、噂のプラチナブロンドの美少女とやらか?
であるならそれが誰なのか確かめたくなった。
学園にいる美しい令嬢は全員把握はしている。もしかしてダミアンが飽きて一回捨てた女、つまりダミアンのお下がりの可能性もあるのだ。
帝国の皇太子ともあろうレオナルドが、自分が捨てたかもしれない女を連れているかと思うと優越感を感じるのだった。
「レオナルド殿下、こんにちは。サロンデートですか?」
「まあ、そういう言い方もあるのかな。だが、ダミアン殿下が思うようなものではないよ。ルイスも同席していて健全なお茶会といったところだ」
「そちらが噂のご令嬢ですか? 紹介いただいても?」
「いや、今はプライベートの時間なのでね。今度、公の場で紹介しよう。今日はこれで失礼するよ」
断られたがどうしても誰なのか確かめたいダミアンは強引に後ろに回り込んでその生徒の顔を覗き込んだ。
えっ? かわいい……
誰?
「……君は誰? 名前は? 学年は? どこのクラス? 家の爵位は?」
「ダミアン殿下、いきなり質問攻めでは彼女が困っているだろう。間違いなくこの学園の生徒だよ。では、彼女を寮まで送っていくのでこれで失礼?」
レオナルドは女子生徒の肩に手をまわして引き寄せ、自分のものだとアピールする。
その美少女はダミアンに会釈をするとレオナルドについて行ってしまった。
ダミアンは、その女子生徒が遠ざかる後ろ姿をじっと見ていたが、姿勢や歩き方を見ただけでも高位貴族の令嬢なのが明らかだった。
あんな清楚な美少女がこの学園にいたなんて。
ダミアンは悔しい気分になっていた。
なにもかもレオナルドに負けているのだ。
もしあの皇太子が留学して来る前に、彼女の存在に気づいて自分が先にものにしていたら、と思ったら居ても立っても居られなくなった。
でもまだ、レオナルドの婚約者としては発表されてはいない。
あの子は今フリーに等しい状態ということだ。
ダメもとでいいから、父上に相談してみよう。あの子を正式な婚約者にしたいと。
その足で急ぎ王宮に向かい国王の執務室に直行した。
しばらく待って入室を許可されるとすぐに本題に入る。
「父上、リリアー……あの男爵令嬢は、結婚相手としてふさわしくないということが理解できました。その代わり、帝国の皇太子がサロンで定期的にお茶会をしている美しい令嬢を婚約者に指名したいのです。父上の力で、何とかなりませんか?」
「……その令嬢は帝国皇太子が見初めた女性だ。それを横取りするなどできるわけがないだろう」
「父上は、あの令嬢が誰かご存じなのですか? 教えてください」
「今更知ったところでもう遅いんだ。くれぐれも帝国の皇太子がらみで問題を起すんじゃないぞ」
父上は意地悪だ。
名前くらい教えてくれてもいいのに。
ダミアンは、あの令嬢と二人きりで会う方法はないか考えることにした。
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