27 デートの誘い

「フィフィ、実はもうすぐ、帝国のミュージカルの劇団がこちらに来るんだ。一緒に観に行かないか? 帝国でも人気の演目だから楽しめると思うよ」

「帝国のミュージカルですか? もしかして、クラスメイトが話をしていたあの子犬の演目かしら? すごく観たいわ」

「そうだ。その子犬のやつだよ。ではボックス席を用意しよう。その時の衣装も一式俺が用意するよ」

「嬉しいです。でも、衣装まで用意していただいていいのですか?」

「もちろんだ。そして、できればカチューシャを外したフィフィを連れていきたいんだが」

「そ、そうですわね。ソフィアを連れて行ったらレオ様が二股かけている印象を持たれてしまいますものね。お父様に聞いてみますね」


 今日もサロンで色々な話をする。

 フィフィがソフィアだと知られてからは、君は誰〜攻撃がなくなり、純粋に会話を楽しむことができている。


「ああ、次の約束は金曜日だな。フィフィと会えない時間は俺にとっては試練の時間なんだ」

「レオ様、大袈裟ですわ」

「なあ、フィフィ、水・金だけでは足りないんだ。月曜日も追加してくれないか?」

「それは……」

「月曜日には、王国ではなかなか手に入らないスイーツを用意しようと思うのだが」

「えっ? はい。月曜日も大丈夫です」

「そうか、うれしいよ」


 途端に機嫌のよい笑顔を浮かべたレオナルドだった。

 フィフィがとにかくスイーツに目がないという情報をゲットしたエマには、この後、特別手当が支給されることになる。


 スイーツと聞いて、ほぼ即答してしまったソフィアは、自分のチョロさをほんの少しだけ反省した。

 ただ、ソフィア自身も週に2日では物足りなさを感じてはいたのだ。レオナルドには恥ずかしいので言わないが。


 ちなみにフィフィがスイーツを美味しそうに食べる姿を正面から見てしまって、レオナルドがを抑えるのに必死になるのは次の月曜日の話だ。



 ◇◇◇


 王都に劇団がやってきた。

 噂好きの令嬢達の話をクラスの皆が耳にしていたため、クラスの半数以上がこのミュージカルを観に行きたい気持ちになってしまっていたらしい。

 クラス内の約束事として、教室ではネタばれ禁止令が出ているほどだ。


 エリザベスやマリアベルも婚約者の彼らと一緒に観に行くようだ。気を遣わないように同じ日にならないようにしたとか聞いている。



 そして今日はソフィアとレオナルドの約束の日。朝から身支度で落ち着かないソフィアがいた。

 着替えを担当している侯爵家の古参の侍女に話しかける。


「レオ様が選んでくださったこのドレスと宝石は素敵すぎて、私には似合わないのではないかしら?」

「お嬢様は、何を着てもお似合いでございますよ」

「初めて素顔で出かけるのでとても緊張しているのよ」

「そうでしょうとも。せっかくですから軽めにお化粧をいたしましょうか?」

「お化粧して、少しは見られるようになるかしら」

「そのままでも、間違いなくお美しいですが、気分転換もよろしいのでは?」

「わかったわ。お願い」


 今日は、侯爵令嬢ソフィアではなく、帝国皇太子が見初めた謎の生徒フィフィとして出掛けるのだ。

 カチューシャを外してもいいか父に確認したところ、レオナルドと一緒であること、かつその女子生徒がソフィア・エトワール侯爵令嬢だと結びつかない状態ならばいいよと許しを得ている。人目を避ければなお可、だそうだ。

 だが、ずっとカチューシャを手放せなかったソフィアの緊張感は想像を絶するものだった。


 レオナルドが侯爵家に迎えに来ると目立ってしまい、素性も知れてしまうため、ソフィアは前日に劇場近くのハイクラスホテルに宿泊していた。

 レオナルドはそのホテルに迎えに行くことになっている。


 実はソフィアが前泊することを聞いたレオナルドが、俺も同じホテルの隣の部屋に泊まるんだと駄々をこねたが、ルイスの「ダメです!!」の一言で一蹴されているというのが裏話だ。人には言えない残念エピソードである。


 やや不本意な気分のままホテルに迎えに行ったレオナルドだったが、ロビーに降りてきたドレス姿のソフィアを見て、人生2度目のフリーズを経験することとなった。


(……妖精だ。妖精がいる)


 今日は、出掛けるのをやめてもいいよね。ここホテルだし。

 俺の女を誰の目にも触れさせたくないんだが。

 レオナルドの脳内は独占欲の塊と化していた。


 いつの間にかソフィアが目の前に立っていて、

「……よう?」

 と首をかしげるのを見て、今度は『妖精』あたりで一部声に出てしまっていたかと反省する。


「よう……い、そう、用意したドレスが似合っていて良かったと言いたかったんだ」

「はい。レオ様が用意してくださった素敵なドレスのおかげで、私のような者でも少しは見られるようになりました」

「少しは見られるなど、謙遜にも程がある。ドレスもネックレスも似合っているが、フィフィ自身の美しさにはかなわないよ」

「お世辞でも嬉しいですわ」


「そんなフィフィとデートできるのが本当にうれしい」

「デート!? そ、そうですわね。これはデート……」


 小さい声でつぶやきながらほんのり赤くなるソフィアを見て、やっぱりホテルの利用時間の延長を……


 劇場にたどり着くまでこのループは続くのだった。

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