32 男子禁制

 図書室での出来事の後、ホテルから公爵家の別邸に移動してきた男性陣はそれぞれの客室に案内されていた。

 当然ながら部屋はフロアを分けている。


 レオナルドは、同じ屋根の下にフィフィがいると思うだけで、どうにかなりそうだった。やっと誤解が解けて、想いが通じ合ったばかりなのだ。二人きりになりたくて仕方がないが我慢なのだ。


 午後は6人で、お茶会をすることになっている。

 このリゾート地は湖から遠くの山までの景観が素晴らしいため、それを見渡せる別邸の庭園内の四阿に席が設けられた。


 エドワードには、ここで初めてカチューシャをとったソフィアを紹介する。


「わっ、ソフィア嬢ですか?」

 そういうと、ソフィア、エリザベス、マリアベルの顔を順番に見て、かなり大きめな独り言をつぶやいた。

「兄上もバカだなぁ、こんなに恵まれていたのに。あ、でもおかげで僕はベスを手に入れられたんだった」


 それを聞いたエリザベスが

「エド、声が大きくてよ」

 とツンとすました声で伝えたが、その顔は照れているように見える。

「あ、ベス、ごめん。僕、ベスが僕の婚約者になってくれたことが嬉しすぎて。こうして堂々と一緒に休暇を過ごせるのも夢みたいな気分なんだ」


 こういう時のエドワードは、年下キャラ全開だ。

 金髪碧眼の彼はダミアンと同じくランドール王家の特有の見た目をしているが、エリザベスと話している時は目がキラキラしていてかわいらしいのだ。

 これが天然ではなく計算されたものだとしたら彼は侮れない存在だが、今はどちらかわからない。

 だが、この若さでさらっとエリザベスへのアピールをするあたりが末恐ろしい気もする。



 その後は、お茶とスイーツを堪能したり、手入れの行き届いた庭園内をそれぞれペアに分かれて散策したりして過ごした。


 レオナルドとソフィアが楽しそうに話すのを見たエリザベスとマリアベルは、『図書室二人きり作戦』が上手くいったことに、ほっとするのだった。




 2日目の夜は女性陣お楽しみのルームウェア会だ。

 男子禁制にしようと思っていたのだが、参加したいという猛烈なオーラの圧に女性陣が折れたため、男性陣は最初の30分だけ入室を許された。


 ちなみに一番最初に降参したのはエリザベスだ。

「僕、今までずっと遠くから見ているだけだったから、ベスのこと何でも知りたいんだ! お願い!!」

 というエドワードのお願いにあっという間に白旗をあげたのだった。



 夕食後、ルームウェア会の時間になり、ゲストルームの扉が開かれた。


 そこには、ベッドに座るルームウェア姿の美少女3人がいた。

 今年のルームウェアのテーマはアニマルだ。


 エリザベスは豹、マリアベルは水色のウサギ、ソフィアは黒猫のウェアを着ているのだ。しかも緩い感じではなく体にフィットする系のデザインで全体的にちょっと色っぽいものだった。



 偶然か故意か、自分の色のウェアをまとう彼女達を見て、ルイスは顔色を変えなかったが、レオナルドとエドワードは固まった。


 これは、エドワード殿下には刺激が強すぎないか?


 と一瞬思ったものの、レオナルドはソフィアの黒猫ウェアに釘付けだ。


 ああああ、猫耳のカチューシャは反則だ。フィフィ!



「これは……、お持ち帰りしてもいいということだよな」

「レオナルド殿下、私たちは試されているのです。今から30分間、我慢大会です」

「エドワード殿下の方がしっかりしていらっしゃる。レオ様、耐えるのです」

「ある意味、拷問だな」

 小声で話す男3人だった。


 3人は30分間の幸せ我慢タイムを堪能するため、部屋のソファーに座った。

 女子3人もベッドから降りて来てソファーに向かい合わせに座る。


「あの……、レオ様、ミールちゃんを一晩お借りしたいのですが」


 一晩というところに嫉妬心がわきつつも

「ああ、いいだろう」

 と返事をする。やせ我慢だ。


 待ってましたとばかりにミールがソフィアの膝の上に乗る。

「「きゃ~~~かわいい!」」

 エリザベスとマリアベルも、ソフィアに触れて可視化した黒猫精霊にメロメロだ。


 ミールの方は、首をこてんと傾げたしぐさで、あざとさ全開だ。

「にゃ」っと鳴いてはいるが、鳴き声はのあるものにしか聞こえないのが残念だ。


 黒猫の姿のソフィアが黒猫ミールの頭を撫でながら「今日は私たちと一緒に寝ましょうね~」などと言っている。

 レオナルドは、ただただミールが羨ましいの一言だったが顔には出さず耐えたのだった。



 ようやく落ち着いた頃、エドワードが質問をした。

「お姉さま方、今年で3回目ということは、最初の年は、どんなルームウェアだったんですか?」


 エドワード殿下、良い質問!!

 レオナルドは思った。


「テーマは、かわいい魔女ですわ」

 えっ、見たい!


「で、では、去年は?」


「……ご主人様専属メイドよ」

 !!!


 エドワードは固まってしまった。


「それはぜひ着て……」

「レオ様、落ち着いてください」


「ルイスは気にならないのか?」

「事前に見せてもらいましたから」

「まさか着てもらったわけではないよな」

「流石に今はそこまでは。僕は節度を守っていますから」


 三者三様の反応ではあったが、共通しているのは、いずれ結婚したら着てもらおうと思っていることだった。


 その後、30分ピッタリで部屋を追い出されるのはお約束ということで。

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