19 校外学習
この学園で音楽祭と並ぶくらい生徒に人気なのが、校外学習の一環で行われるグループワーク、別名『謎解きイベント』だ。
班ごとに王都近くの神殿に行き、お守りとなる護符を手に入れてくる日帰りイベントである。
ただし、神殿に向かう道中、班のメンバーで協力してミッションをこなし、謎を解く必要があるのだ。その謎の答えをゴールの神殿で伝えると護符がもらえるというシステムである。
王都近くの神殿は3つ。そのうち1つの神殿に行くのだが、生徒が同じ神殿に集中してしまうと混雑してしまうので、班ごとにスタート地点、スタート時間及び行き先の神殿が分かれるように指定されているのだ。
班は、各学年から男女一人ずつ、男3人、女3人の6人で構成される。
というのがイベントの決まり事であるが、その目的は、学年をまたいでグループ活動をすることにより協調性を育んだり、親交を深めたりするものである。
なので謎自体も協力すれば解けるレベルのものだ。
知恵を出し合って謎を解くことで、学校では見られない新たな一面をアピールすることができる。実際「ひらめき力」を発揮されると、男女問わずかっこよく見えたりするものだ。
フリーの生徒たちにとっては新たな出会いの場という認識のようだ。
実際、このイベントを境に学園内にカップルが増えるのである。
班を決めるのはくじ引きだ。
各学年男女別に抽選箱の中からカードを1枚引いて、同じ数字を引いた6人が同じ班となる。
今日は班の抽選日、学園の講堂に全校生徒が集まっている。
ソフィアは3年女子用の抽選箱から7番のカードを引いた。
たまたま近くにいた男子が自分は7番だと言っているのを聞いて、レオナルドとは違う班なんだと思うと残念な気持ちになっていた。
一体この気持ちは何だろう。
結果、ソフィアと同じ7番のカードを持つメンバーは
1年生男子は侯爵家三男ジャスティン。
1年生女子は、まさかのリリアーヌ。
2年生の男子は、音楽祭でトリを務めたイーサン。
2年生女子は伯爵家長女のジェシカ。
3年生はソフィアと、なぜかレオナルドだった。
レオナルドがソフィアに尋ねて来る。
「このイベントでは、班の番号カードの交換は普通に行われるものなのか?」
「はい。お互いが納得していれば先生は目をつぶってくれますわ」
「実はルイスから無理やりこのカードを渡されてね」
「そうなのですね。ルイス様のことですから、何か意味があるのでしょうか?」
おそらくルイスはマリアベルと同じ班になっているに違いない。
そういうソフィアも、結果レオナルドが同じ班になったことが分かり、嬉しい気分になっていた。さっきまでの残念な気持ちから急上昇だ。
でもリリアーヌ嬢が同じ班というのが嫌な……
いけない、いけない。声に出してしまうとまたフラグが……となってしまうので、もう何も言わないことにする。
「しかし、あのリリアーヌ嬢が一緒とはな。何事もなく済めばいいんだが……」
あああ……レオ様、フラグが……
とソフィアは思ったが、もう遅いのかもしれない。
リリアーヌが7班のカードを手に入れた経緯には裏がある。
数日前の同じクラスの男子生徒との会話がこれだ。
「リリアーヌ嬢は、ダミアン殿下とレオナルド殿下、なるとしたらどちらと同じ班になりたいの?」
「せっかくだからレオ様がいいわ」
「それじゃあ、僕がそのプラチナカードを手に入れてやるよ」
「ほんとう? うれしい」
なぜその生徒がリリアーヌに良くしてくれたのかわからないが、たぶん自分のファンなのだろうとリリアーヌは解釈した。
結果、その生徒から当日渡された1年女子の班分けカードが7番だったのだ。
やっとレオ様にアピールするチャンスを手に入れたわ。
リリアーヌは悪だくみを思いついたような笑みを浮かべていた。
7班のほかの女は、婚約者候補だった例のパッとしない3年生と普通顔の2年生だ。リリアーヌの引き立て役にちょうどいい。
そして、レオ様は、探している美少女が私だったって気づくのよ。
王子妃候補の教育を受けていた私は、レオ様からもすぐに認められてプロポーズされるの。
そして帝国皇太子の婚約者としてお披露目されるのよ。
皇太子妃になったら今まで私を見下していた連中がペコペコするところを見るのが楽しみだわ。
帝国はこの王国より大きくてお金持ちだから、最新のドレスに珍しい宝石…たくさん買ってもらって贅沢三昧!
きっと夜もレオ様を虜にできるわ。これだけ経験を積んでいるのよ。
「君はすべてが最高だ」なんて言われちゃったりして。うふふ。
これがリリアーヌの脳内ストーリーだった。
「ルイス、俺と同じ班にあの台風の目のリリアーヌ嬢がいるんだが、どういうことだ?」
「ああ、それはご褒美的な?」
「ご褒美?」
「彼女のおかげで僕がほしいものが手に入ったので。だから1回だけ彼女が希望する人と同じ班になるようにしてあげてもいいかなって。面白そうですし?」
「どこが面白そうなんだ? 俺は嫌な予感しかしない」
「本当はダミアン殿下を指名すると思っていたんですがね。ま、仕方ないです。レオ様、頑張って」
「はぁ?」
納得できないレオナルドだった。
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