18 ルイスの独り言(sideルイス)

 ルイスの実家、帝国のクラーク公爵家に一通の手紙が届いていた。

 現在ランドール王国に留学中のルイスから両親に宛てたものだ。


「あの子が手紙なんて、レオナルド殿下の件かしら。早く封を開けて頂戴」

「まあまあ慌てるな。なになに?」


 二人は手紙を覗き込む。


『最短で婚約希望。手配よろしく。

 相手はランドール王国のマリアベル・モントレー伯爵令嬢。

 ルイス』


「「ええ~~~~!?」」


「えっ? あの子が婚約したい? まさか、あのあり得ない条件をクリアしたご令嬢が存在したの?」

「流石に、妥協したんじゃないのか?」

「そうよね。たしか……『伯爵位以上の令嬢で見た目は小動物系美人。ルイスが見下ろせるくらいの身長で、髪の色はピンク系、目は濃い青系。性格は自分の意思表示ができるしっかりしたタイプ。学力も魔力も高くて、楽器やダンスなども上級。バカはダメ……以下、忘れたわ……』

 などという、針の穴より狭~いあの子のストライクゾーンに入るご令嬢なんて存在するはずありませんもの」


「そんな条件を求めているうちは結婚など無理と思っていたが……。ルイスがその気になったのなら気が変わらないうちに急ぐぞ」

「ええ、あなた。お願いね。私もいろいろ準備しないと」



「それにしてもこれは手紙というより、清々しいほどの事務連絡ですわね」

「前回の手紙も似たようなものだったよな」

「あまりに短くて暗唱しているわ。『2カ国目、ミール反応なし。以降ありのみ連絡』ですもの」

「留学して成長していると思いたいが、こういうところは変わってないなぁ」




 僕はルイス・クラーク。帝国のクラーク公爵家の嫡男です。

 公爵家は王家の血筋を持つため、レオ様とは幼少期からの親友でもあります。


 僕は、レオ様にとって最初のを持つ者となりました。

 初めて遊びに皇城に行った時に、レオ様の肩に乗っているミールが目に入ったのです。


 まあ、信頼のおける側近として今日まで、そしてこれからもレオ様にお仕えしていく所存ではあります。


 さて、レオ様の妃探しの留学に付き合わされて5か国目、ミールが一切反応しないので、レオ様のテンションが底辺をさまよっている時に、僕は出会ってしまったのです。


 マリアベル・モントレー伯爵令嬢。

 彼女を紹介されたあの日、僕の理想形が存在していたことに衝撃を受けました。


 婚約の話をされるのが面倒で、思いつく限りの理想条件を親に話した記憶はありますが、まさかここまでど真ん中ストレートの令嬢がいるとは思いませんでした。


 残念なことに、彼女はこの国のダミアン殿下の婚約者候補。でなければ即アプローチしていたでしょう。


 レオ様の唯一はこの国にいない、としたら僕がこの国でなすべきことはただ一つ。


 婚約者候補から彼女を外し、僕の婚約者として帝国に連れて帰る。


 幸いなことに、女好きのダミアン殿下は婚約者候補3人に興味がなく隙だらけ。どう攻略しようか、腕が鳴ります。


 同時に彼女との接点も増やして行かないと張り合いがありません。

 サポート係の彼女には話しかけやすいですしね。

 遠慮なくいろいろサポートをお願いして話をしてみれば、会話も反応も何から何まで僕の好みであることがわかり、ますますはまっていく自分に気づきました。

 これが世に言うなのだと自覚をするのも時間の問題でした。


 余談ですが、ダンスのレッスンの時は、教師に事前提案しておいて正解でした。

『せっかくなので帝国流の振付を生徒たちに見せるのはいかがでしょう』と。

 身長差で誰と誰のペアが美しく見えるか、まで伝えましたからね。

 王子妃教育終盤の彼女たちなら、帝国の振付も知っているはずですから。


 あの時は、かわいいマリアベルを上から見つめて堪能しました。

 上目遣いの彼女を見たら、手に入れる一択しかないでしょう。



 いろいろ手をまわし始めたところで、レオ様が「唯一をみつけた~、逃げられた~」と大騒ぎしているので、面白くなってきました。

 この国は言い方は悪いけど。レオ様の言う特徴を持つ『天使な』女生徒を探す仕事もすることになりましたが、ええ、喜んでやりますよ。僕のやりたいことのに、ですが。



 そこでダミアン殿下の恋人の1人、リリアーヌという男爵令嬢に目をつけました。彼女は本当に面白い駒の一つでした。

 ダミアン殿下という恋人がいるにもかかわらず、レオ様が見つけた唯一が自分だとでも思っているのか? レオ様の周りをうろちょろしていて、僕は笑いをこらえるのに必死でした。


 レオ様の隣に立つには、王子妃教育を受けるくらいのな子がいいという話を聞かせてみましょうか?

 この女はどう行動するのでしょうか? 心理学的実験です。

 まあ、まさか王子妃教育の場に乗り込んでいくとは思っていませんでしたが、最初の一歩は順調に踏み出せたみたいです。

 ほかにもいろいろ手をまわしましたが、企業秘密なので言えません。


 そうそう、音楽祭の数日前にも「婚約者候補3人は出場するのに、あなたは音楽祭に出ないんですか?」と、手を変え品を変え耳に入るようにしてみました。

 ほぼ予想通りに動いていくのを傍から見ているのは楽しかったですね。


 えっ?占い師? それは僕ではありませんよ。役者の知り合いはいますけどね。


 それにしてもダミアン殿下の人を見る目のなさには感謝です。僕のマリアベルを婚約者候補の枠に入れてほかの男たちからガードしていたことは評価に値します。


 一つ誤算だったのは、婚約者候補の白紙撤回があのパーティーの場で行われたことです。まったく、小説じゃないんだから。

 バカのすることは斜め上から来るので困ります。


 あの時は、マリアベルの前にお誘いの行列ができて少し焦りました。いろいろ急がないとなりません。


 数日後、なんとマリアベル本人から呼び出しを受けた時は、流石の僕も緊張しました。

 でも、目の前に転がってきたチャンスは逃さないタチなので。

 その時が来たら渡そうとプレゼントを事前に用意していて正解でした。


 待ち合わせ場所は学園内でも美しく整えられた庭園。その場所を選ぶセンスまで好ましい。

 マリアベルが話そうとするところをさえぎって、自分から告白をしました。

 彼女の告白も聞きたかったけど、僕も男です。決めるところは決めたいじゃないですか。

 プレゼントのネックレスを僕がつけてあげて、言葉をさえぎったお詫びの気持ちをハグで返しました。


 ああ、かわいいなぁ。

 初デートの約束もとりつけたので、デートの再シミュレーションをしなくては。


 その日のうちに帝国の両親に向けて手紙を送るのも忘れません。


 僕って結構有能でしょう?

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