06 皇太子の事情(sideレオナルド)
我が国アレクシス帝国の直系の王族には特別な加護がついている。
それは、生まれた時から一人一体縁を結ぶ精霊が側にいるということだ。
姿・形はいろいろだが、その精霊はその王族と縁がある人だけが「見る」ことができる。さらに一定の条件を満たせば「触る」こともできるのだ。
側近、侍従、侍女、護衛の騎士、乳母や、さらには騎馬まで、その精霊が導いたものは、主を決して裏切らず、優秀であることが確約されている。
周囲にそういう人(馬)材がいることで、信頼関係が強固になり帝国に安定がもたらされるのだ。
そしてそれは唯一の伴侶もしかり。
唯一に出会えた歴代の皇帝たちは、その唯一を溺愛し浮気をすることもなく、生まれてくる子供たちも優秀で跡継ぎに困ることもなかったのだ。
つまり後継者争いとも無縁であるため、さらなる安定が約束されているようなものだ。
まあ、例外なく唯一様に一目ぼれしているという残念なおまけ話付きではあるのだが。
両親は精霊が導いたご縁のため、今でも目のやり場に困るくらい仲が良い。
二人が結ばれるまでのあれこれが小説になり劇になり、今でも帝国で人気の演目として公演されているが、劇中、女性達から黄色い悲鳴があがるシーンがある。
それは、時の皇太子が子犬の精霊に導かれて出会った子爵令嬢に一目ぼれ。その場で告白、いきなり壁際に追い込み情熱的に唇を奪うというものだ。
どこまで脚色されているかはわからないが。
ちなみに俺の精霊は、小さい黒猫の姿をしている。ミールという名前だ。よく肩に乗っているが重さは感じない。
ミールは猫型のせいか、気まぐれでふらっと散歩に行ったかと思うと、その見た目のかわいさを武器にして人をひき連れて来たりする。また、ある時にはミールに付いていくとそこに出会いがあったりする。そんな感じだ。
おかげで、15歳で立太子する頃には、優秀な側近や護衛騎士そして影にも恵まれていた。
余談だが、みんな無類の猫好きだ。
1年ほど前には、ミールがこっちに来いという仕草をしたため、それについていったら1人の女性がいた。いよいよ唯一の伴侶かとドキドキしたが、話に聞いていたような衝動的に欲しいという感じはしなかった。
なんと彼女は「主に恋愛感情を抱くことがなく護衛もできるスーパー侍女」だったのだ。
もう今となっては彼女なしでは、身の回りのあれこれがまわらない。
ということで今、渇望しているのが、将来の伴侶たる唯一の女性なのだ。
その唯一に出会うため、留学の形で転々と各国を訪問しているのだが、今のところミールは誰にも反応していない。
歴代の皇帝の中には、その唯一に出会えなかった者もいるため、運も必要なのかもしれない。
期待すればするほど、ダメだった時のショックが大きい。3か国目くらいから期待をしないようにしている自分がいた。
というわけで、このランドール王国へやってきた。留学先としては5か国目だ。
ランドール王国は、大陸の西部エリアでは主要国である。
この国の周辺は、小規模国や新興国であり、そもそも受け入れられるような学び先がないところもあるため、訪問はできても留学の形はとれない。実質的にランドール王国は最後の留学先とも言えた。
留学初日の昼休みに王立学園の全校生徒の前でルイスとともに紹介されたが、ミールが反応することはなかった。
この学園にもいないのかと思うとこれからの数カ月が急に色あせた気がしてしまう。
あとは王宮で開催される夜会等で出会いがなければ、この国は、言い方は悪いが俺にとっては『はずれ』ということになる。
そういう時は貴族と政治的な交流を持ったり、次世代の令息たちと縁をつないだりすることにしている。それはそれで益はあるのだが。
在籍することになったのは3年のAクラスで、そこにはこの国の第一王子ダミアンとその婚約者候補で優秀な3人の令嬢がいた。
精霊のご縁にこだわらなければ、彼女たちの中から1人婚約者になってもらうという選択肢もあるのかもしれない。
下調べで分かったことだが、この国のダミアン王子はずいぶん女性関係で奔放な人物のようなので、彼女たちがもったいない気がするのだ。いずれはそのうち2人がフリーになるのを考えて、この国の令息たちが婚約者を決めかねているのに気づいてさえいないようだ。
他国のことだから深入りする気はないが、唯一が見つからなかった場合を考えてこの3人と接点を持っておいた方がいいのだろうか。
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