学園一のカッコいい系女子が僕の前でだけすごく可愛い

瀧岡くるじ

第1話 プロローグ

「先輩……好きです。付き合ってください!」


 高校生活も二年目に突入したある日のこと。


 羽月澪里はねつき みおりが体育館裏の通路を歩いていたときのことだ。


(うわっ。なんか凄い所に遭遇してしまった……)


 なんと告白シーンに出くわしてしまった。


「好きです」と叫んだ方は一年生だろう。身に纏う制服や靴が真新しい。

 緊張のあまり身体が震えているが、その様子すら初々しくて可愛らしい女子だった。


「ありがとう。とっても嬉しいよ。でも……君の思いには応えられない」

「……っ!?」


 一方、告白を受けた側の女子は、真剣に。やさしく。しかしきっぱりとその告白を断った。


 そう。


 告白を受けている側も女子だった。


 彼女の名は夢咲一羽ゆめさき いちは


 中性的な顔の造形と高い身長に長い手足。

 そしてショートカット気味の髪の黒髪のせいか、とてもボーイッシュに見える。

 そのためか男子よりも女子にモテる、ファンクラブも存在するこの学園でもトップクラスの人気者。


 そんな夢咲一羽にとって、女子に告白されるなど日常茶飯事なのだろう。


 入学前から憧れていたという後輩の心を傷つけないようにフォローしつつ、この場を収めようとしていた。


「あ、あの……本当にすみませんでした」


「どうして謝るんだい? 人を好きになるのは、別にいけないことじゃない。私は、とても嬉しかったから。だから申し訳なく思うのはやめて欲しいかな」


 と、イケメンのみに許される台詞を言い放つ。


「はわっ~ありがとうございますぅ。と、ところで先輩は……彼氏とかはいらっしゃるんですか?」

「ううん。実は片思い中なんだ」

「ええ~!? 先輩ほどのお方が!?」

「あはは。上手くいかないよね、世の中」


(か、片思い中!? あの夢咲が!?)


 男子より女子にモテる……とは言っても、男子に全く人気がないわけじゃない。


 夢咲なら是非彼女にしたい! と思う男子は大勢いるだろう。


(っていうか……俺だって)


 かくいう澪里も夢咲一羽に絶賛片思い中だった。


(夢咲に片思いされるなんて……そんな幸せな男子が居るんだな……)


 無情な世の中よなぁと澪里が思っている間に、二人の話に決着がついたようだった。


「ありがとうね」


「は、はわ~!! そ、それじゃあ失礼します~!」


 後輩女子はペコペコ頭を下げると、パタパタと走り去っていった。

 動いたら確実に見つかる位置に居た澪里は、結局隠れて見ていることしかできなかった。

 

(さて、どうやってここから撤退するかだが……やっぱり夢咲が立ち去るのを大人しく待つべきか)


「あれ、誰かいるの? 覗き見とは趣味が悪いね」


(まずい……見つかった)


 隠れている者がいることに気がついた一羽が近づいてくる。そのまま見つかってもみっともないと思い、澪里は大人しく姿を現した。


「わ、悪い。覗くつもりはなかったんだ。たまたま通り掛かっただけで」


「ははは……は、羽月くん!? ええ!? い、いつから見てたの!?」


「ごめん。最初から……全部」


「全部……そう。全部か」


「ホント、マジでスマン!」


 このことは誰にも言わないからと頭を下げる澪里。

 そんな澪里の謝罪は聞こえなかったのか、少し震える声で一羽が口を開いた。


「ねぇ。誰だと思う?」


「は?」


「私の片思いの相手だよ。誰だと思う?」


「なんで……」


 何でそんなことを自分に聞くのだろう。からかっているのかと一羽の顔を見る。


 すると、後輩からの告白を上手くいなしていた時の余裕の表情とはうって変わり。


 顔を赤く染め、どこか夢心地なとろんとした目で澪里を見据えている。


(な、なんだこの空気。え、もしかして? こんな質問してくるってことは!? もしかしてがあるのか……?)


 彼女の片思いの相手とは自分なのか? 実は俺たち両思いだったりするのか?

そんな期待が膨らんでいく。


「えっと、夢咲? もしかしてそれって――」


「ご、ごめんっ。変なこと言ったね。本当にごめん」


 空気に耐えかねたのか、澪里の言葉を遮るように一羽が叫ぶ。

 そして言い終わると、ダッシュで走り去っていった。


「な……なんだったんだよ」


 未だに鳴り止まぬ心臓の鼓動を感じながら、澪里は一羽の背を見送った。


「よくわかんなかったけど……まぁ、可愛かったからいいか!」


 いいものが見れたと満足した澪里は教室へ向かう。



***


***


***


 その日の夜の夢咲一羽。


「ぐああああああ何を言っているんだ私はあああああああ! 絶対変なヤツだと思われたああああああああ」

 

 昼間に澪里に言った訳のわからない台詞を思い出し身悶える。


 カッコいいと女子から大人気の夢咲一羽。

 そんな彼女の片思いの相手とは、何を隠そうこの羽月澪里なのだった。

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