第4話

   

 街を出て一時間ほど歩くと、東の森が見えてくる。

 昼間は最下級のゴブリンくらいしか現れない、初心者向けのダンジョンだ。

 僕も頻繁に訪れている森なのだが……。

「これが……あの東の森?」

 携帯用の小型魔法灯で照らし出された緑の木々は、いつもより鬱蒼として、暗い雰囲気が濃く漂っていた。森全体のスケールも大きく感じられる。

 ここに入るのは危険ではないか。本能的に足が止まりそうになるけれど、その気持ちを振り切って、中へ入っていく。

 森の小道を十五分ほど進むとルートが三つに分岐するのだが、その『十五分』も、普段より長く感じた。

 左右の木々がまばらになり視界が開ける場所でも、いつもとは異なり、あまり遠くまで見渡せない。

「これでは……。最弱のゴブリンに襲われても、すぐに対応できないかも」

 既に腰のショートソードは抜いており、左手で魔法灯を持ちながら、右手で武器を構えていた。とはいえ、左の魔法灯を相手に向けながら右手だけで剣を振るう、というのも難しそうだ。いざ敵が出てきたら、どうしたらいいのだろう?

「いちいち魔法灯で照らす余裕がないなら……。目で見て位置を確認するというより、相手の殺気を感じて戦うべきかな?」

 僕だって少しくらいならばモンスターの気配を読み取れるが、あくまでも少しだけ。それ以上の自信はなかった。

 なるほど、こんな環境でモンスターと戦えば、すごい経験になりそうだ。


 そんなことを考えながら、森の中を進んでいく。

 幸か不幸か、一匹のモンスターとも出くわさないまま、少し開けた場所まで辿り着いて……。

「えっ!?」

 そこで僕は、大声を上げてしまった。

 ちょっとした広場の一番大きな木の陰に、人間が一人、倒れていたのだ!


 魔法灯の光を向けて観察すると、若い娘だった。背中を向けているので顔はよく見えないが、おそらく僕と同じくらいの年頃だろう。

 白いブラウスに、ふんわりした緑色のスカート。頭には赤いスカーフを巻いている。腰のベルトには茶色のポーチがぶら下がっており、これが唯一のおしゃれ小物という感じだ。

 格好から判断するに、普通の街娘だが……。いったい何故、夜の森で倒れているのだろう?

「お嬢さん! 大丈夫ですか?」

 慌てて駆け寄った僕は、彼女の体を揺する。触れた途端、生き物のあたたかさが伝わってきて、少なくとも死体ではないとホッとする。

 しかし、その直後。

 ガバッと顔を上げた彼女は、恐ろしい形相を向けて……。

 右の拳を、僕の腹に叩き込んできたのだ!

   

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