初めてのデート

烏川 ハル

第1話

   

 廊下を歩くと、金属鎧や武闘服、魔法士のローブを着た者たちとすれ違う。彼らは皆、こちらへ奇異の視線を向けてきた。

 ここは冒険者組合ギルドの寮だから、冒険者が闊歩するのは当然だ。僕も寮で暮らす冒険者の一人であり、いつもならば注目を浴びるはずもなかった。

 しかし今日は普段の皮鎧ではなく、おしゃれなスーツで身を固めている。ボサボサ頭も整髪料で撫でつけており、どう見ても冒険者らしくない格好だ。目立つのも仕方ないだろう。

 いや、格好だけではない。僕を取り巻く空気も特別に違いない。なにしろ今夜は、可愛いあの子との初デートなのだから!


 彼女の名前はリリィ。僕の行きつけの酒場で働く女給仕だ。冒険者組合ギルドよりもメシが美味いので毎日のようにかよっていたら、自然と顔馴染みになり……。

 いつの間にか、僕の中に「もっとリリィと仲良くなりたい」という気持ちが生まれていた。自覚して一週間くらいは悶々としていたけれど、思い切ってデートに誘ってみたら、簡単にOKしてもらえたのだ。


 ウキウキした気分で寮を出る。

 とっくの昔に太陽は沈んでいるが、街灯として設置された魔法灯のおかげで、夜の街は十分に明るい。

 すっかり通い慣れた道を歩いていると、酒場の手前にある店の前で、声をかけられた。

「お兄さん、今日はビシッと決まってるねえ。デートかい?」

 花屋の女主人だ。名前は知らないが、いつも店番をしているので、顔は覚えてしまった。彼女の方でも同じなのだろう。

 無視するのも悪いので、足を止めて適当に挨拶する。

「ああ、うん。まあ、そんな感じかな」

「若者はいいねえ。あたしも若い頃は色々あったけど、今じゃすっかりオバサンさ」

 花屋はニッコリと笑顔を浮かべた。僕の幸せを、まるで我が事のように喜んでくれている。

「お兄さん、ひとつアドバイスしてあげるよ。女性を口説く上で大切なのは、ムードとプレゼントだからね」

「プレゼント……?」

 リリィがいる酒場はすぐ近くだ。今さらプレゼントを買いに行く暇なんてないのだが……。

「花束もプレゼントには最適だよ。どうだい、ひとつ?」

「ああ、なるほど。だったら、お願いしようかな。花には詳しくないから、花の種類はお任せで、予算はこれくらいで」

「まいどありー!」

 リリィの喜ぶさまを思い浮かべながら、ちょっと奮発して、大きな花束を購入。真っ赤な薔薇の良い香りと共に、僕は再び酒場へと歩き出した。

   

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