灰被り姫とその従者。

常闇の霊夜

ある二人。


「貴様には愛想が尽きた」


ある城の中、少女は唐突に婚約者から婚約破棄を告げられる。彼女が何をしたわけではない、彼氏からすれば、シンプルに結婚したくないから破棄しただけである。しかしやり方がまずかった。なんと硫酸を顔に浴びせたのである。


この時に顔に負った傷のせいで、両親から使えない奴扱いされ、蝶よ花よと育てられていた少女は、裸一貫で外に投げ出されることになった。いくら何でも、年端もいかぬ少女にする仕打ちか?と思うだろうが、貴族社会ではこのくらい辺り前にある事なのである。


捨てられ打ちひしがれたその日、少女は決意した。泥をすすりゴミを食そうが、自分を捨てた家族と元恋人に復讐すると。


それからと言うもの、彼女は生きるために何でもした。口では言えないような事も、平然と行った。そうしなければ、生きる事すらままならないからである。


「……」


そんなある日、彼女はスラム街で捨てられている少年を発見する。それは、かつて幼い頃に恋していた少年にそっくりな見た目をしていた。と言っても婚約者の方ではない。もっと昔、彼女が自由だった時の話である。


「……誰?」


「『カボネ』ですわ。それより、あなたのお名前は?」


「ないよ」


「じゃなんでいるんですの」


「親に、僕はここにいろって言われたんだ」


要は親に捨てられたと言う事である。憐れみながらも、このガキを育てればいずれ使える駒になると考えたカボネは、彼の手を掴むと家として使っている小屋に向かう。


「なんか怖そうな男の人がいるよ?」


「気にするなですわ。私の部屋は二階の一番近い部屋ですので、そこで休むといいですわ」


小屋は二階建てで、明らかにガラの悪そうな男たちがたむろしていた。ばつの悪そうにガキ……とりあえず『イコマ』と名付けた少年を自分の部屋に行かせると、男達の方へ歩き始めた。


「遅いなぁ」


「……はぁ」


カボネが部屋に入るなり、大きなため息を一つ。風呂にでも入ったのか、汗を布で適当に拭いていた。しばらくして落ち着いたところで、イコマはこれからどうするのかをカボネに聞く。


「これからどうするの?」


「とりあえず金稼ぎですわ。食う分は確保できていますし、武器が欲しいところですわ」


割れて窓として機能していない窓にもたれかかると、タバコを吸いながら街を見る。今日も暴力と性欲が支配する街であった。スラムの掟はただ一つ、力こそ正義である。


一か月後、働けど働けど、金は得られず、どうしようもなくなっていた。そこでカボネは、一冊の本を読みながらイコマに問う。


「あなた、内蔵はありますか?」


「あるよお嬢様。売ってくればいいの!?」


「それは最終手段ですわ。それに、あなたの体は最大限無傷にしたいですわ」


イコマはもう心からカボネに心酔していた。それこそ、死ねと言われれば平気で死ぬくらいにである。


カボネはそれを諫めるように、イコマに言葉を返す。せっかく作った大切な駒を、こんなところで使い潰したく無いと言う考えである。


「資金を稼ぐ手段は……、あー。ちょっと二三日、私部屋を留守にしますわ。その間……ここを守っててくださいまし」


カボネは手っ取り早く稼げる手段を見つけ、それを行うために家から出ていく。それから四日程経った後、ようやくカボネが帰ってくる。背中には大量の武器を手にして。


「……一か月後、奴らの家を襲撃しに行きますわ」


「今すぐじゃないの?」


「おおよそ一か月後に、私の復讐したい全ての人間が集まるパーティーが、とある家で開催されるんですわ。ですので、そこを一網打尽にします」


そういうとイコマに指示を飛ばすカボネ。どこでやるかが分かっていると言う事は、先手を打つ事が出来ると言う事。手渡したのはなんと爆弾。


「これを仕掛けて来いですわ」


「わかったよお嬢様!」


イコマは屈託のない笑顔で、爆弾を家に仕掛けに行く。爆発すればまず全員巻き込む事が出来るように、綿密に考えられて仕掛けていった。その間、カボネは武器を磨いていた。


そして一か月後、ついにパーティーが開催される。人が何人も集まる大規模なパーティーである。そして全員が家に入ったところで、いきなりイコマがやってくる。


「なんだこのガキ?ここはお前みたいな奴が入れる場所じゃねぇんだよ」


当然のように門前払いしようとするが、手に持った物を見て愕然とする。なんといってもそれはダイナマイト。しかも凶悪な威力を誇る物であった。


「おま、お前!?」


「僕の命令はここで死ぬこと。じゃあねお嬢様」


イコマは自爆した。入り口の部分が大きく破壊されたと同時に、カボネがやってくる。両手に銃を持ち、ここに来た奴全てを殺す気である。しかし本当の狙いはただ一人。


「なっなんだ!?」


「おいどうなってんだこれは!?」


パニックになる中、カボネは冷静に一人の命だけを狙いに来た。狙いは当然ただ一人。


「お会いしたかったですわ……。クソ野郎」


「か……、カボネ!」


それはただ一人。かつて自分に硫酸を浴びせた彼氏ただ一人である。カボネは銃弾を彼氏の両足に浴びせ、腕をへし折る。それ以外の奴らは、全て脳天に銃弾を浴びせて終了である。


「わ……悪かった!助けて!助けてくれよ!」


「うるせぇですわ。私の顔に……この傷をつけた事、忘れていないですわよね?」


何とか助けを求める彼氏だが、どんな言葉も彼女には届かない。そもそも初めから許す気など一つもないのだから。


「この館は数分後に爆発しますわ。他の皆様は部屋に閉じこもっているようですが、あのままでは爆発に巻き込まれ死にますわね」


「金か!?地位か!?何が欲しい!?」


「あなたの命ですわ」


そういいながら、部屋を後にするカボネ。そして館から少し離れた場所に座ると、館が爆発する光景を最後まで見ていた。


その後、火が消えた後に館の前に座るカボネ。復讐を終えたはずなのに、一切すっきりしない。タバコをくわえ火を探す。普段はイコマに火をつけるよう言っていたので、ライターも持っていない。


「はぁ」


「とんでもないことになったね」


その隣に、なぜかいるイコマの姿が。確かに体が粉々になって、普通なら治せないくらいの怪我を負ったはずなのに、それでも平気な顔をして生きていた。


「ねぇ。僕を『生きる屍ゾンビ』にしたのって……僕を死なせないため?」


「あなたと言う駒を失いたくないだけですわ」


一か月前、イコマはゾンビ化の秘術を使われ生きる屍となった。だが思考力もあるし、太陽の元にいても死ぬことは無い。特別製のゾンビなのである。


「本当は僕を失いたくなかったんじゃないのぉ~?」


「うるさいですわ。ところで火をくださいまし」


「うん、ちょっと待って……。あっごめん右腕無くしちゃってライター付けられないや」


「これ右腕。さっさと取り付けなさいですわ」


持っていた右腕をイコマに投げ、それを針で縫うと、イコマは早速カボネの咥えているタバコに火をつける。そして自らもタバコを吸うと、これからどうするかと、初めて出会った時のように問う。


「ねぇ」


「なに」


「これからどうしようか?」


「知らねぇですわ。……そうですわね、こうなってしまえばいずれ私たちは指名手配、間違いなく追われるでしょうねぇ……」


「僕はどこにでも付いていくよ!」


「まぁ。どうでもいいですわ。勝手に付いてきなさい。では行きますわよイコマ」


「うん!」


そう言うと未だ煙が燻る館を背に、二人は歩き出す。すっかり夜も明け、太陽が二人を照らす。


この二人がこの後どうなったか?その辺は誰も知る由がない。だが話によれば、彼女らは武器商人となり、ある戦争に関わることになるのだが……。所詮は噂話である。


真相は誰にも分らない。

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灰被り姫とその従者。 常闇の霊夜 @kakinatireiya

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