第3話
あまりに気になったので、翌日、始発電車の少女に声をかけてみた。
「すいません。ちょっとお尋ねしたいのですが……」
どうやら最悪のタイミングだったらしい。
自分自身の体で隠すようにしながら、彼女は恍惚とした表情で、電車の手すりに頬ずりしていたのだ。
「はい……? 何でしょう?」
恥ずかしがったり悪びれたりせず、彼女は平然と振り返る。
私の方が動揺してしまい「どうして学校と反対の電車に?」と聞くつもりだったのに、口から出たのは違う言葉だった。
「何をしているのです?」
「幼馴染とのスキンシップですの」
「電車の手すりが幼馴染……?」
「あら、違いますわ。手すりだけじゃなくて、この車両全体ですの」
にっこりと彼女は笑い、私はますます混乱する。
電車が幼馴染とは、どういう意味なのか。彼女は車両工場の娘で、この車両と一緒に生まれ育ったのだろうか。
「ほら、ドラマや小説で扱われるでしょう? 頭がごっつんこして魂が入れ替わる……。あれですわ」
この先のカーブを越えた辺りに、線路を跨ぐ歩道橋が設置されている。彼女の幼馴染がそこから落ちて、始発電車に衝突したのだという。
「ああ、それは……」
ご愁傷様です、と言いかけて私は言葉を飲み込んだ。彼女から見れば、幼馴染は死んでいない。彼の魂はこの車両に宿っているのだ。
「彼は昔から私のヒーローで、よく私のことを助けてくれましたの」
幼稚園でハンカチを忘れたら貸してくれたとか、転んで膝を擦りむいたら絆創膏を貼ってくれたとか、落ちてきた鉢植えから守ってくれたとか、次々と語っていく。
「私だけでなく誰にでも優しいのが、唯一の欠点でしたけど……。電車になっちゃったら、もう彼に言い寄る子も出てこないでしょうね。ふふふ……」
最愛の幼馴染を失って頭がおかしくなったのであれば、なんとも可哀想な話だ。
私はそう思ったのだが……。
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