第8話
外に出たクリストフは予想以上の酷い光景に驚いていた。
教師の
檻から出できたモンスターと檻の中で大人しくしているモンスターを見て、クリストフはあることに気が付いた。
檻から出できたモンスターは首輪をつけており、檻の中のモンスターは首輪をつけていないのだ。
その首輪は
その違いに気が付いたクリストフは近くにいた数体の首輪を破壊する。
すると、さっきまで暴れていたのが嘘だったように、
「皆、モンスターの首輪を壊せ。そうしたら
クリストフは大声で近くにいた者たちにそのことを知らせる。
するとその話はどんどんと広がっていき、自体は無事に収束した。
「クリス。大丈夫だった?」
アリスは心配していたのか、クリストフを見つけると走り寄ってきた。
「俺は大丈夫だ。あの子はどうだった」
「腕と腹がもう少しで食いちぎられそうだったけど、大丈夫だって。処置が早かったらすぐ治るみたいだよ」
「なら良かった。だが、あの子はもう
「……そうだね」
だがヘルハウンドに指示していた学生は信頼を裏切られ、怪我を負ったのだ。
それがどういう理由であれ、モンスターのことはもう信用することは難しいだろう。
「それは?」
クリストフが手に持っている首輪を見たアリスは聞いた。
「これは
クリストフはあとのため、一部は壊すことなく首輪を取っていた。
「後で信頼できる場所にでも持っていつもりだ」
「学園祭は緊急事態のため、本日は終了です。皆様、安全に気を付けてお帰り下さい」
学園祭の終了のアナウンスが響き渡る。
それを聞いた二人は騎士候補生を見れなかったことを後悔しながら帰路に着いた。
★
その晩、クリストフはサティラの部屋を訪れていた。
「これが今日の騒動の原因なの?」
「そうだ。これには狂乱状態になる魔法がつけられていたんだ」
クリストフたちはサティラの前の机に置かれた首輪を見ながら話をしている。
「それで、これはどこから来たの」
「
「それは面倒だね。その証拠は簡単に見つかりそう」
「大丈夫だ。帝国も証拠を残すほど馬鹿じゃないようだ」
「そう。ならこれはどう処理するの。今後のこうした介入があったら、戦争が起きるかもしれないしね」
執行官は治安維持、それに加えて戦争の防止の代々行っている。
これまで執行官の活躍で戦争が事前になくなったのは両手では数え切れないほどある。
執行官は色々な場で活躍しているのだ。
「帝国のことは帝国に任せるのが一番だ。姐さんに頼んでみるさ」
クリストフは窓から使い魔を飛ばした。
★
「ん?使い魔とは珍しい」
ある塔に住んでいるが女は使い魔が窓に止まっているのに気が付いた。
そして、その足についている手紙を読む。
「これはこれは珍しい。あの子からのお願いか」
内容は王国に工作を行っているものの処刑の依頼。
こういった依頼は片側の利益の為ならばこの女は動こうとはしない。
だが今回は話が違う。
このまま行けば両国で戦争が起きるということだ。
ならば動かねばならない。
「さてと、かわいいはとこのために一肌脱ぎますか」
そう言って椅子から立ち上がった。
★
翌日の第二学園の二日目の学園祭は関係者のみで行われることになった。
アリスは今日こそは騎士候補生を見に行くと息を巻いていたが、クリストフはこれ以上後手に回ることはできないため、全神経をとがらせており、学園祭を楽しめるような状況ではなかった。
「ちょっとクリス。聞いてる」
「ん?ああ、すまん。なんだって」
「もう。今日はどうしたのよ」
お陰でアリスの話があまり耳に入らず、会話が途切れ途切れになってしまっている。
だが全神経をとがらせていたおかげで、あることに気がついた。
「アリス。先に騎士候補生のとこに行っといてくれないか」
「どうして?」
「いろいろあるんだよ」
「そうなの?じゃあ先行っとくね」
クリストフはアリスと別れ、小さな路地に入った。
「
そう唱えると、クリストフの身体が陰で包まれ、その数秒後には執行官の姿で現れた。
そして路地を縦横無尽に駆け抜けていった。
着いたのは町外れの教会。
もう使われることはなく、あとは朽ちてくだけの建物だ。
そしてそこにある祭壇の上には大量の黒い鳥がいた。
クリストフが近づいていくと鳥たちは一斉に飛び立ち、割れているステンドグラスから出ていった。
するとその祭壇の上にはさっきまでいなかった人が座っていた。
「久しぶり。ティル姐さん」
彼女の名はボルザーク・リア・ティルファ。
バーグの孫でありクリストフのはとこである。
執行官の一族としては異例の女性執行官であり、腕前は誰もが認めるほどのものだ。
「やいやい。久しぶりに連絡くれたと思ったら、かなり面倒くさいことを頼んできてさ」
そう言いながら、一枚の紙をクリストフに投げてくる。
クリストフはそれを掴んだ。
紙には帝国の手引きをしていた貴族の情報、そして雷帝の処分依頼だ。
「それは王国内で帝国に情報を渡していた貴族の名前。こっちは全部処理したから、あとは任せたよ」
「流石の仕事だな。それでこの依頼は誰からだ?」
「公爵家だよ。今代の雷帝は流石に自分勝手をし過ぎてて、手に負えないから処分してほしいって」
「シナリオは?」
「できるだけ派手に。雷帝のいる城も壊しちゃって。竜王国に攻撃されたことにするつもりだから」
「わかった。今夜実行する」
「わかった。こっちも準備しとくね」
ティルファは話が終わるとすぐに消え、帰っていった。
クリストフもアリスもとに帰っていった。
「ア〜リス」
騎士候補生のいる場所に行くとアリスの姿が見えたので、いきなり後ろから肩を叩いてやるとビクッとして驚いていた。
「クリスか。遅かったね」
驚いた様子を見せないようにしているようだが、その強がっているのが可愛いため、また驚かしてやりたくなってしまう。
「それでどんな感じなの」
「見てるだけではいまいちわかんない。模擬戦してもいいかな」
「せめてここの顧問の人に聞いてからね」
「わかった。それじゃ聞いてくるね」
アリスは壁にもたれている顧問を見つけ、そのもとに向かった。
遠くから見ていても顧問の驚いている姿と焦っている姿が見え、少し可哀想に思う。
何かをしばらく話したあと、アリスは戻ってきた。
「模擬戦してもいいって。クリスも来て」
「わかった。俺は見とくだけな」
「うん!」
クリストフは第二学園の騎士候補生を育てている顧問の先生の横でアリスの模擬戦の様子を見ていた。
「突然すみません。アリスは昔からああでして」
「よく知ってます。私はアリスの父様、剣聖のエルド様のもとにいた時期がありましたから」
話その時から庭で訓練生たちが剣聖のもとで特訓をしていると、いつも窓から参加したそうに覗いていた。
そして参加できる年齢になると訓練生の誰よりも真面目に特訓をし、その成長スピードは異常だった。
流石剣聖の娘。と言われていたようだが、それだけは片付けれないほどに強くなっていった。
そして今では剣聖の父様にしか負けないと言われているほど実力を持っている。
模擬戦では相手が可哀想になるほどボコボコにされていたが、相手も相手で次期剣聖と名高いアリスと模擬戦ができて嬉しそうにしている。
「それで、アリス様の付き添いをしている貴方様は誰なのですか」
「ああ。僕ですか」
アリスは認識阻害のアーティファクトを既に外しているため顔がわかるが、クリストフはまだつけているため、顔がぼやけて見えるのだ。
さらに言えばこれほど近づいたり、話しかけたりしないと見失いそうになってしまう。
「騒がないでくださいよ」
そう一言伝えてからクリストフはアーティファクトを外した。
すると顧問の顔が青ざめてしまった。
「すみません。皇子とは知らず無礼な真似を」
「さっきと同じでいいですよ」
「ですが…」
「さっきと同じでいいですよ」
「………わかりました」
その後、顧問は一度も口を開くことなく、気まずい空気が流れていった。
★
「いや〜。身体を動かすのは楽しいね。クリスもどう?」
何度も続けて模擬戦をし、少し疲れたアリスは汗を拭いながらクリストフのもとに帰ってきた。
「俺は見るだけって言っただろ」
そう、といったアリスは椅子に腰がけ、タオルを顔に乗せて休み始めた。
そんな彼女の横に座った顧問はアリスと小声で話しかけていた。
すると突然アリスは吹き出し、盛大に笑い始めた。
「どうしたんだ」
気になったクリストフはどうしたのかを聞く。
「いや。王族って知ってから不敬罪で殺されるんじゃないかってビクビクしてたみたいでね。流石におかしくって」
アリスはまだケラケラと笑い、お腹を抑えている。
その横にはばつを悪そうに顧問が座っている。
「それで満足したのか」
「大満足。学園祭のときは部活もできないから、ここで身体を動かせたのは嬉しいよ。それに、ここの騎士候補生達も強かったし。この国の将来は安泰だね」
「そうか。あとは行きたい場所はあるか」
「もう私はないかな。クリスは」
「少し魔法師を見てみたいな。どんな感じなのか見ときたいな」
「なら行こう。確かあっちだよね」
そう言いながら指を指しているが、そこには魔法師のいる場所ではない。
魔法師たちが訓練している場所はアリスの指す方向と真逆だ。
「逆だ。そっちじゃないぞ」
「あれ。そうだっけ」
アリスはすぐに反対を向き、俺を引っ張って行った。
★
クリストフとアリスが見に行ったのは第二学園の魔法師生徒たちが大勢所属しているクラブだ。
室内ということもあり、使われている魔法は強くても中位魔法。
模擬戦に関して言えば怪我を考慮して殺傷能力の高い魔法は禁止されている。
だが至る所で魔法を使用しているため、室内には音が鳴り響いていた。
「流石は魔法師の卵たちだな。実践レベルに達している者が大勢いるな」
「騎士候補生たちも凄かったけど、魔法師候補生の人たちも凄いね」
「そうだな」
第二学園は魔法という分野に力を注いでいる学校だ。
そのため、様々な魔法を使う者たちが教師としており、結果、
「これは、第一学園の生徒の方ですか」
訓練をしている学生のことを眺めていると、聞き覚えるのある声の人物に後ろから声をかけられた。
「はじめまして。
「久しいな。シュルト」
「おや。これはアリス様にクリストフ様ではないですか」
シュルト、と名乗った男の正体はこの国の数少ない宮廷魔法師のシュルト・ワルトウィール。
宮廷魔法師にも関わらず、宮廷にいることはほとんどなく、自由気ままにやりたいことをして生きている人間だ。
クリストフ自身も交流があり、何度も話したことがある。
そしてアリスは数回話したことがある。
「今日は宮廷にいなくていいのか?」
「宮廷にいても暇なので、こうして教師なんかをしてるんですよ。有事の際はそっちの仕事もしっかりするので安心してください」
「有事なんてもんは起こらないほうがいいんだがな」
「その通りですな」
二人で少し話していると、アリスも会話に入ってきた。
「こんにちは。久しぶりですね」
「こんにちは。数年ぶりですね。前にあったときより随分と強くなってるようですな」
「そりゃそうですよ。どれだけ前だと思ってるんですか」
アリスは昔話に花を咲かせ、シュルトとしばらく話していた。
「それで今日はどういった件で」
「お前が教えていると聞いて、その実力を見てみたかっただけだ」
「そうですか。ならもっと近くで見ませんか」
「ならそうさせてもらおうか」
クリストフとアリスはシュルトに連れられ、階段を降りていく。
シュルトが降りてきたのに気がついた生徒たちは魔法の行使をやめ、全員がこっちにやってきた。
生徒の皆からコーチと声をかけられており、シュルトの人気度と信頼度の高さがわかる。
「そちらの二人は?」
「こちらの二人はVIPだ」
「俺はアーノルド・リーズ・クリストフだ。今は第一学園の生徒としてここには来ているため、敬語は不要だ」
「私はカリア・リガルラルド・アリス。剣聖の娘って言えばわかるかな」
二人はペンダント型の認識阻害アーティファクトを外し、自己紹介をする。
二人の自己紹介を聞いた生徒たちは驚いた様子だったが、VIPという言葉に納得したようだ。
「それで。お二人はどうしてこちらに?」
「第二学園は魔法に力を入れていると聞いてな。その実力をこの目で見てみたかったんだ」
「私は付き添い。だったけど、みんな強そうだから模擬戦してみたいな」
「模擬戦ですか。それなら場所が空いていれば外で出来ますよ。誰か見てきて」
シュルトはそう言い、生徒の一人に確認に行かせた。
「一番デカい場所が空いてます。ただ魔法師と剣士となると、場所が大きいと有利不利ができるので、平等な戦いはできないですが」
「戦場ではそんなことも行ってられないから、それくらいはどうでもいいよ」
「では準備してきます。5分ほど待ってください」
お前ら行くぞ、と先程場所の確認を取った生徒が声をかけると、クリストフたちの周りにいた生徒たちが一斉に準備をするために走っていった。
「皆、なかなかの魔力だな」
ここにいた生徒たちの魔力を見ていたクリストフはシュルトに話しかける。
「魔力は成長期に一番伸びますからね。今の時期に適した練習をさせておけば、ああなりますよ。まあ、それを使いこなせるかは別の話なのですが」
「だが、皆上手いこと使えているじゃないか」
「ええ。ですが数人はできていません。そしてその中のひとりが特に問題なのです」
「それはなぜだ?」
「その人物は闇魔法を使うのですが、私とて闇魔法は使えないので、どう教えたら良いのか……」
「闇魔法は他の属性とは全くの別物だ。普通の魔法は一定の魔力を注ぐことで使用でき、そして一定以上の魔力を注ぐとその魔法の威力が上がっていく。だが闇魔法はその魔法にあった丁度の魔力しか注いではならん。それ以上注いでしまうと、他の魔法とは違い、魔法陣が暴走をし始める。魔力の注ぐ量が少なければ魔法は発動せず、多すぎると暴走する。これが闇魔法の基本であり、そのために闇魔法は難しいとされている」
「へぇ。そうなんですか」
「これは闇魔法の使い手があまりいないために知られていないからな。それにその調整さえ覚えることができれば闇魔法は他の魔法を寄せ付けない最強の魔法になるはずだ」
「その情報は誰から聞いたんです?」
「元最高位冒険者、龍殺し《ドラゴンキラー》の二つ名を持つバーグだ。バーグは剣士として知られているが、闇魔法の使い手でもある。まあ、魔法はよっぽどなことが無ければ使わないんだがな」
「それは意外な一面ですね。あの御仁が魔法を使うなど、聞いたことがなかったですよ」
「それを知っているのはひと握りの者だけだからな」
クリストフとシュルトと話していると、知らない間にアリスはいなくなっていた。
どうやら早く身体を動かしたくなったようで、第二学園の生徒たちに任せるだけでなく、自らも手伝いに行ったようだ。
「クリス。シュルトさん。準備できたよ〜」
二人でしばらく話していると、アリスが迎えに来た。
「では、行きましょうか」
「ああ」
呼ばれた二人は模擬戦のできる場所に歩いて行った。
★
ついた場所は大きな闘技場だ。
作りは第一学園の受験の際に使った場所によく似ている。
同じ系列の学園であるため、設備はよく似ている場所が多いようだ。
「かなり広いな」
「ここは一番大きい場所ですから。加えて第一学園とは違い、簡単には壊れないよう対魔法の付与を強くされてますね」
第一学園の設備は対魔法、対物理の付与が半々。
第二学園は魔法中心の教育方針ということで、対魔法を強くしている。
そして第三学園は対物理を強くしておるらしい。
「観客も何人がいるな」
「噂を聞いてやってきたのでしょう」
客席にはぽつぽつと第二学園の生徒がいる。
そしてその人数は今も増え続けていた。
「アリス。審判はシュルトがする」
「了解。いつでも初めていいですよ」
「コーチ。私も準備完了です」
「それではこれより、第一学園所属、カリア・リガルラルド・アリスと第二学園魔法科、ルフラスとの模擬戦を執り行う。ルールはあいてを降参もしくは戦闘不能にすれば勝利。ただし危険行為、殺傷能力の高い魔法は禁止だ。そういったことがあった場合は私が止める。以上」
ルールの説明の終わったシュルトは片手を上に上げる。
「それでは………」
シュルトは思い切り手を振り下ろす。
「始め!!!」
★
シュルトの合図と同時に両者ともに行動に移った。
アリスは地面が凹むほど強く飛び出し、まるで弾丸のような速さで今まであった間合いを詰め、距離をなかったものにする。
ルフラはその速さに驚いていたものの、すぐさま使うな魔法式を変更し、アリスの素早さにうまく対応している。
流石は第二学園の魔法科最高学年。
即座にその場にあった魔法を使うことができている。
そして、それについていくことのできるアリスは一年生としてはやはり飛び抜けて戦闘センスが高い。
一進一退の攻防が続いている。
どちらも決め手に欠けているため勝負を仕掛けることができないのだ。
そんなとき、今までは迎撃ばかりだったルフラが戦闘形式を変えた。
ルフラ自身から攻撃を突然仕掛けたのだ。
身体強化魔法でアリスに飛びかかり、右手に作った魔力の塊で自身の移動スピードを乗せた強力な一撃を腹を目掛け加えた。
「!?」
アリスはその攻撃に気付くことはできていたが、時すでに遅し。
その時にはルフラの攻撃と自分との間は数センチしかなかった。
「ガハッ」
アリスは唾を吐きながら思い切り飛ばされ、闘技場の壁に当たる。
かと思われたが、壁に当たることはなかった。
シュルトが壁に当たる直前に空気で作られたクッションを作ったのだ。
闘技場の真ん中には勝利したはずなのに顔を真っ青にしたルフラがいた。
「大丈夫ですか!!!」
顔を真っ青にしたままルフラは急いでアリスのもとに向かっていった。
クリストフとシュルトも客席から飛び降り、アリスのもとに向かった。
他の生徒たちは客席で立ち尽くしていた。
三人がアリスのもとに到着しても下を向いたまま動かず心配になっていると、アリスは突然空を見上げ、大声を上げた。
「身体は大丈夫なのか?」
心配になったクリストフが声をかける。
「大丈夫じゃないよ全然。あ~~~、もうくやしいぃ〜。それよりも負けたほうがいやだよ」
「歩けはするか?」
「無理。正直めちゃくちゃ痛い」
それを聞いたシュルトは無言で治癒魔法をかけた。
アリスの周囲がひかり、傷が消えていく。
「ありがとシュルトさん」
「大したことじゃない。それよりもあの魔弾は模擬戦では威力過剰だ。正直ヒヤリとしたぞ」
「すみません。ただ手加減できない相手だったので」
「今後、こういったことはするな」
「すみません……」
ルフラは下を向いてしょんぼりしている。
「アリス様、クリストフ様。私の生徒がすみません」
「大丈夫ですよ、シュルト。それに手加減できない相手って言われたのは嬉しいしね」
アリスは笑みを浮かべながら言う。
「アリスがこう言っているから、俺は大丈夫だ。それに模擬戦と言っても戦いは戦いだ。怪我をして文句を言うほど馬鹿じゃないぞ」
「ありがとうございます」
シュルトは深くお辞儀をする。
「クリス。手ぇ貸して」
クリストフはアリスに右手を出す。
それを掴み、アリスは立ち上がったが、まだフラフラしている。
「治癒魔法と言っても瞬時に治ることはありませんので、今日は休んでください」
「わかった。帰ろうかアリス」
「うん」
アリスは歩いて帰ろうとしたが、その前にクリストフがしゃがんで背を見せてくる。
「おんぶしてもらわなくても帰れるけど……」
アリスはその対応に不満げな顔をしている
「その震えた足でか?」
アリスの足をよく見ると小刻みに震えている。
強がっていたが、まだ痛みはあるのだ。
「それに早く乗ってくれないと恥ずかしいんだがな……」
今のクリストフは闘技場の隅でアリスの前でしゃがみ、後ろに手を伸ばした状態だ。
周りから見れば変なやつに見えてもおかしくない。
「わかったよ」
アリスは顔を真っ赤にしながらクリストフの背中に抱きつき、それを確認したクリストフは立ち上がる。
「じゃあなシュルト。それに模擬戦をしてくれてありがとう。ルフラ」
クリストフは最後にそう言い、アリスをおんぶしながらその場を去った。
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