まおうオマージュ-001

「記憶喪失ねぇ……なるほど、良く分かったよ。せんせーにはどれだけ考えても答えの出せない意味不明な現象であるということが!」

「自信満々に言うこと?」


 ちょっと本部の方で話そうか、というメッセージに従いやってきた第七秘匿機関本部、その一室。


 完全に私室と化しているそこで、アテナ先生は「お手上げ~」ってな感じに笑って言った。

 肩をすくめて、少しだけ申し訳なさそうな顔をする。


「ま、ふざけてる訳じゃなくてね。実際、魔導の反動である可能性はあると思うけれど、やはり断言はできないといったところかな。少年が軽々と使うから身近に感じられるけれど、我々にとって魔導そのものは未知の技術だ。現状、唯一の使い手である少年に分からないのなら、せんせーに分かる道理はないさ」

「ま、そうですよね……」


 半ば分かっていたことではあったが、やはりガッカリが先に来る。


 どうにも俺はこの辺り、アテナ先生にはかなり期待していたところがあったらしい。というか、単純に頼れる人カテゴリに入れていたっぽい。


 まあ、作中最大の天才である黒帝と混ざっていて、なおかつ俺を一方的に叩きのめせるだけの実力を誇っているのだから、それも仕方のないことであるような気はするが。


 自身を実験台にして色々と確かめていくしかないのだろう。都合の良いことに、俺には年齢とは釣り合わないだけの記憶がある。


 記憶が飛び過ぎて廃人になったり……なんてことも早々起こりはしないはずだ。


「覚悟を決めるのが早すぎるだろう……どうしてこう、少年は自分を犠牲にする時だけ思い切りが良いんだ」

「そうは言っても、俺の問題ですし。一番頑張らなきゃいけないのは俺でしょう?」

「一理あるけれども、少年はまだ子供なんだ。そうする前に大人に頼りたまえ」

「頼った結果なんですけど……!?」


 アテナ先生に分からないのであればもう、世界中探したって分かる人はいないに決まっている。


 校長先生ですら、魔法魔術に関する造詣の深さはこの人には敵わないほどであるのだ。


「嬉しいこと言ってくれるじゃないか……うん、概ねその認識は正解だ。けれども魔導と破滅、どちらに関してもせんせーたちより詳しいやつが一人、いるだろう?」


 ピッと指を立て、不敵に笑むアテナ先生だった。参ったな、全然分かんねぇ。


 レア先輩のことではないだろう……確かに彼女はその身で魔導を扱ってはいたが、飽くまでそれは第二の破滅に憑依されていたが故だ。


 レア先輩本人が習得したという訳ではないし、魔王と違って残滓とやらが残っている訳でも──あ?


「あっ、そっか。魔王」

「はい、その通り。良く出来ました、せんせーポイント100点あげよう!」

「超いらねぇ……ちなみに何に使えるんですか?」

「1点でハグ、10点でチュー、100点で結婚、かな……」

「アテナ先生しか得してねぇ……」


 滅茶苦茶肉食系な景品だった、絶対にいらない。

 どうしてこう……隙あらば結婚! みたいな頭をしているんだこの人は。


 そのくせ、いずれ俺を刺す可能性があるのだから、恐怖レベルが一段と上がっていた。


 大体、何でいきなり結婚なんだ。

 せめて順序を踏んでくれ。


「えっ? それじゃあ……付き合っちゃう?」

「嫌でーす。ほら、さっさと行きますよ」

「あぁん、少年のそういう辛辣なところも、せんせー大好きだよ……」

「どういう性癖してんだよ……」


 どこからか聞こえてきた気のする、


「オメーーーが言うんじゃねぇよ!」


 という声を無視して俺達は部屋を出た。




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