あいらセカンド-001


「修学旅行……? 全然知らないイベントが発生したな」

「学生失格みたいな台詞が出てきたな……」


 お前なんの為に学生してんの? みたいな顔で、立華くんがため息を吐く。珍しく男性モードだった。


 困ったことに、本気で思い出せないのだが、アルティス魔法魔術学園の三年生には修学旅行があるらしい。


 というか、三年ごとにあるのだとか。

 毎年、三年生と六年生が旅行に行く形になる訳だな。無論、行く先は違うらしいが。


 確実にこんなイベントは無かったはずなのだが、最近の俺の記憶はちょっと信用ならないので、断言できなかった。

 ていうか、絶対に事前から知らされていたはずなのだが、それすら記憶にない。


 ああ、関係ないイベントね、と割り切ったか、あるいはマジで興味がなかったかの二択だろう。


 とはいえ俺は、修学旅行と聞けばもう、それだけでワクワク出来る人間なので、恐らく前者だと思われるのだが……。


「甘楽君、貴方、修学旅行の話が出た直後に荷造りし始めたじゃない……」

「存在しない記憶を溢れさせるのはやめろ……えっ、マジで?」

「一応言っておくが、班決めだってとっくにしたからな」

「う、嘘だ……俺を騙そうとしている……」


 授業をそっちのけに狼狽え始めた俺に、逆に二人が困惑し始めた。


 どうやら本当のことらしいな。

 左隣でいつも通り、すやすや眠りこける日鞠を起こしても、きっと同じ答えが返ってくることだろう。


 それに、今思い返してみれば、俺のベッドの隣に謎のリュックが佇んでいた気がしないでもない。

 しかし、そうは言っても流石にこれを、忘れっぽいで片付けるのは無理があった。


 何かしらの記憶障害が発生していると考えるべきだろう────やっぱり、魔導か?

 気軽に扱えるようになったとはいえ、普通に脳への負担が大きいし、あまり多用しない方が良いのかもしれない。


「……本当に、覚えていないのか?」

「ん、いやいや、ちょっと忘れてただけ。ちゃんと思い出したよ。ここ最近は、色んな事が畳み掛けて来てたからな……少し抜けちゃっただけ」


 監視役とかもついちゃったしな、と付け加えれば、立華くんは納得したように頷いた。

 アイラの方は未だにジト目を飛ばしてきているが、ここは敢えてスルーさせてもらう。


 事情を話したところでどうしようもないし、そもそもそういう場面になったら、魔導は使わざるを得ない。


 禁止にするなんて言語道断だ。普通に無理だろ。

 出来れば日常的に使って、少しずつでも効率化したいまであるのだから、それもなおさらだ。


 ただ、アテナ先生や校長辺りには、話しておいた方が良いかもしれないが……まあ、その程度である。

 こういった秘密は出来れば抱えたくないのだが、余計な心配もかけさせたくなかった。


 あと単純に、全力で戦うことを他人に憂われたくない。

 俺、魔法とか魔導とか使うの、シンプルに好きなんだよ……。


「ところで、修学旅行っていつ?」

「はぁ……明日よ」


 ……マジで? 展開が早すぎない?


 この前入学式やったばっかりだったと思うんだけど、そんなに早い時期にやるんだ、とカレンダーを見れば、示されるのは五月の半ば。

 ミラとアイラと一悶着があったのが、四月の中旬だったと思うんだけど……。


 そこからの記憶が丸ごと飛んでいる訳では無いし、穴抜けという訳でも無い────単純に、修学旅行に関する記憶だけ抜けてるのか?


 何でまたそういう、変なところを……と顎に手をやれば、「やっぱり覚えてないんじゃない」と、呆れたようにアイラがため息を吐いた。





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