アウェイキング・デュエル

「──ッテェな。何、だ。今のは」


 砲撃魔導から姿を現した、第二の破滅は、頭を押さえながら俺を見る。


 どう見ても、酷く不可解なものを見る目であり、普通にこいつ失礼だな、と思った。


「いや、ちげぇ。理論は分かる、引きずり出した魔導を、ただ纏ってるんだろ?」

「ん、まあね。そこは見ての通り────だけど、惜しいって言うには、ちょっと足りてない」


 もう一度、地面を足先で叩く。ただそれだけで、間にあったはずの距離を喰らい尽くした。


 迫ってきていた黒焔を置いてけぼりにして、第二の破滅の首元に指を添える。


「────ッ!」

「ほら、もう一度、良く見て行けよ?」


 回避行動を取られる前に、指先から砲撃魔導を撃ち放つ。

 闇色の瞳が大きく開かれて、第二の破滅は蒼色の閃光の中に消えていった。


 うお……これ、かなり気持ちが良いな。

 ボコボコにされて溜まっていたフラストレーションが解放されてる感覚がする。


 とは言っても、特別大きなダメージにはなっていないだろうが。


 少しだけ焼き付いた跡を残した第二の破滅が、怪訝な目で俺を見て、数瞬後に絶叫した。


「今、のは────ハァ!? 有り得ねぇ! テメェ、一度顕現させた砲撃魔導を、そのまま体内にも循環させてるのか!?」

「えっ!? うわ、マジで見ただけで分かるかよ……すげぇな、理解力イカれ過ぎだろ……」

「イカれてるのはテメェの頭だろうが! 何でそれで死んでねーんだよ!?」

「いや、敵だとしても言い方ってものがあるだろうが……! 精神攻撃に移行するのはやめろ!」


 ていうか、大本となる魔力を通す"魔力神経"があるんだから、魔導だって、流そうと思えば流せるだろ。

 それに、ただ循環させてる訳では無い。


 体外に顕現させた砲撃魔導を、身を包む衣装のように形成し直して、それから体内に流し込んで全身を循環させ、再度放出する際に、大気中の魔力を取り込み補完しながら形成し、また体内に……ということを、無限に行っているだけである。


 これによって、身体能力を大幅に向上させた上に、いつでも詠唱抜きで、砲撃魔導を撃ち出せるという訳だ。


 砲撃魔導という観点から見れば、一度詠唱することで撃ち出した砲撃魔導を、そのまま消費せずに再利用している形になるからな。


 マジでこれを思いついた瞬間、もしかしたら俺は天才なのかもしれない……と自画自賛したほどである。


「信じられねぇ……人の頭で、そこまでの演算が出来るものなのかよ。気持ち悪ぃ」

「だから! レスバに持ち込もうとするのはやめろーッ!」


 普通に俺の心が折れて終わりになるだろうが! と踏み込んだ。


 とはいえ、相手は第二の破滅である。

 星の自滅機構にして、世界を終わらせる七つの滅亡。


 たった二度の攻防だけで、俺の激変したリズムに、完璧に合わせられた。

 眼前に、銃のポーズをした指先を向けられる。


「ハッ、直線馬鹿ほど読み易いものもねぇな」

「失礼だな……俺って結構、優秀な学生なんだけど。先生の話とかも、ちゃんと聞く方なんだよな」

「あん? 何が言いてぇ」

「勉強の成果を見せるって言ってんの────あっ、それとももう、忘れちゃった? それなら、今度は俺が教えるよ」


 第二の破滅が向ける指先で、渦巻いていた黒焔が霧散する。


 ふわりと誰かに吹き消されたように、跡形もなく────そして。


 それは俺の手元で、


「展開────"第弐神焔魔導:無焔"」


 へー、これ無焔って言うんだ。最初から展開されてたから知らなかった、と解析を終え、行使してから思う。


 手元の黒焔が、見慣れた蒼色に移り変わって、第二の破滅は頬を引き攣らせた。


「魔導ってのは、より深く理解している者を、主として選ぶらしいぜ」

「なっ────」


 それにしても、主として選ぶってな……。

 単純に魔導の演算を横からパクっただけじゃねーか。


 撃ち出された蒼色の焔が、第二の破滅を呑み込み喰らい尽くす。

 絶叫すら消し潰すそれは、しかし力ずくで薙ぎ払われた。


 闇色の眼光が鋭く光る。


「ッ──クソが、良いぜ、認めてやる。特異点、テメェは確かに、この世界のイレギュラーだ。俺様を殺し得る可能性がある」

「ずっと思ってたけど、レア先輩の身体と声でクソとか俺様とか言われると、これはこれで悪くない気持ちになるな……」

「何ッなんだテメェは! 本当に頭がイカれてんのか!? ああ、クソッ! 本気で消してやる!」


 絶叫と共に、ズルリと無焔には変化が起こる。


 黒から白へ。

 魔導としての位階が上がり、先程とは全く別の演算で動くものへと変貌を遂げていく。


「遊びはしめぇだ。今から俺様は、テメェを明確な敵として、障害として認めよう────破滅を此処に。俺様こそは、滅亡を齎す世界の機構」


 白焔を手繰りながら、第二の破滅はそう告げた。

 それは俺に対する宣言であり、己に対する宣言であり、そして、星に対する宣言であった。


 感じる圧力が、目に見えて増す。

 進化したというよりは、ただ、枷を外しただけのような感覚。


 文字通り、手加減をやめたということを、言われなくても理解した。


「頼むからよ、すぐに死ぬなよな、特異点」

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