カウンター・スタート
そこから、少し離れたところ。
倒れ伏す仲間たちの真ん中で、薄っすらと甘楽は目を覚ました。
戦いに起こされるという形で意識を取り戻し、その戦いに言葉を失い。
それから、抱きしめられていることを理解した────いや、ちょっと待って。
何かすげぇ柔らかいのが温もりと共に押し付けられてる気がする!!
「え? え!? なに、何……!?」
「あっ、馬鹿、動くな……!」
返ってきたのは、立華くんの声だった。
それに気づいて、少しだけ冷静になってみれば、確かに考えるまでもなく立華くんである。長い金の髪や、この小さな身体は彼女そのものだ。
……いや違う! だとしたらもっと問題じゃん!!?
だってこれ、半裸同士で抱き合ってる形になるわけだよな!?
「わー! 馬鹿馬鹿、暴れるな離れようとするなこっちを見るな!」
「無茶苦茶言うねきみ!? 無理無理無理無理! え? ほんとに何やってんの!?」
「僕だって好きでこんなことしてる訳じゃない! さっきの攻撃で服が破けちゃったんだよ……! だから、そのまま身じろぎしないで、前だけ見てて!」
今頃顔真っ赤にしてんだろうな……というか、耳まで真っ赤にして言う立華くんであった。
いや、だからといって、何で抱き着いてるんだよ……という疑問は、すぐに解消された。
身体の傷が治っていく、失われた体力が戻っていく。消費された魔力が補填されていく。
これ、回復魔法をかけてくれながら、同時に魔力の譲渡までしてくれてるのか。
「それだけじゃない……というか、それだけならここまでしてない……!」
「えぇ……じゃあ何なの……」
「君に、僕の勇者の力を貸し与えてる。その為に、こうして……その、素肌を合わせてるんだっ」
「──────」
言葉を失った。けれどもそれは、別に「何言ってんのこいつ? やば……」とドン引きしている訳ではない。
なるほど、と深く頷いてしまったのだ。
『蒼天に咲く徒花』における勇者の力とは、魔王への特攻でもあるが、それは極端に押し上げられた『悪性への特攻』と言い換えも良い代物だ。
要するに、相手の悪性が強ければ強いほど、それは効力を増す。
例えば魔王相手であれば、その攻撃力は最大で十倍にまで膨れ上がったほどである。
貸し出しとか出来るんだ……と思ったが、思い返してもみれば、原作でもキスしたヒロインには譲渡できていた。
普通に肌の接触だけで出来たのかよ。
「これで多分、もう少しまともにやり合えるだろ……それと、だ。日之守」
「まだ、何か?」
「うん……少し、聞きたいことがあるんだけど」
「ん、良いよ」
全身で感じる立華くんに、死ぬほど心臓を鳴らしながら、深呼吸と共に話を促す。
これ、俺の鼓動聞こえてないよな……?
「君、ドキドキしすぎだろ……」
「うるさいな!? そっちだって凄い心臓鳴ってるじゃん!」
「こんな状況でしない方がおかしいだろう……!」
ゔーっ、と互いに唸り合ってから、黙り込んで一拍を置く。
早く話せよ、という話であった。
「えーっと、第二の破滅って、迷宮と融合したって言ってたけど、それってつまり、
「その認識であってると思う。多分、間違いない」
「そっか、それじゃあ、もう一つ。迷宮から脱出する方法って、迷宮主を倒すだけなのか?」
「俺の知る限りは、それだけだけど……」
「迷宮を破壊とか出来たら、脱出できたりしない?」
「えぇ……随分野蛮なこと聞いてくるねきみ……いや、出来ると思うけど」
というか、正確なことを言えば、迷宮主を倒せば迷宮脱出となる訳では無いのだ。
迷宮主を倒すことで、迷宮全体が瓦解し、跡形もなくなることで、脱出となるのである。
だから、完全に破壊し尽くせば、脱出となるのはそうであった。
まあ、だから何? という話ではあるのだが……。
「いや、だってさ、迷宮で受けた影響は、迷宮から出れば元に戻るんだろう? それってつまり、迷宮を破壊して脱出すれば、レア先輩と第二の破滅は分離するってことなんじゃないのか?」
「────うお、えっ、天才?」
え? いや……いける。いけるいける! その理論なら全然いける!
ビックリするくらい蛮族じみた発想ではあるが、これまた驚くくらい隙が無い!
問題は、どうやって破壊するかだが……。
「まあ、迷宮自体は魔法魔術で破壊できるからな……俺だけでも、そこそこ壊せるとは思う」
「うん、だろうな……タイミングを合わせられれば、僕らの方でも後押しできるから、それで全壊させられると思う。ただ──」
「ん、分かってる」
言いながら、チラリと戦場へと目を向けた。
未だに変わることなく拮抗は続いているが、ネフィリアムの消費が激しい。
あのままだと、押し切られてしまうだろう────そして、それに代わるのならば、やはり俺以外にはいない。
出来るのか? と自問すれば、余裕、と自答が返ってきた。
滅茶苦茶ボコボコにされた貸しもある訳だしな、百倍にして返そう。
言ってやりたいこともあるし。と、眼をギュッと瞑って立ち上がりながら、短く息を吐いた。
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