ティーエスッ・ダンジョン!
「その、えぇっと────ど、どう? 変じゃない?」
突然現れた美少女が、目を伏せ、頬を赤らめながらそう聞いてきた。
足元まで伸びた美しい金の長髪に、青空をそのままはめ込んだように透き通っている、スカイブルーの双眸。
健康的でありながらも、どこか繊細さを感じる真っ白な肌に、線の細い身体。
だというのに出ているところは出ており、引っ込むところは引っ込んでいる、あたかも理想を描いたような女性だった。
更に言うのなら、制服が若干改造されており、どうにもパッと見、聖女のように見えてしまうのがかなりダメだった。
うっ、と唸って俺はその場に両手をつき、絞るように声を出す。
「変か変じゃないかと言えば、どう考えても変極まりないが、それはそれとしてすげぇ好みです……」
「かっ、かんかん~!?」
「よっしゃ!」
「貴方も何を喜んでいるのかしら!? 正気に戻ってちょうだい!」
金髪碧眼の美少女がガッツポーズを決めて、葛籠織とネフィリアムが驚愕の声を上げる。
何とも非難と困惑が入り混じった眼差しであり、俺としても委縮してしまうのだが、しかし、偽ることは出来ない本音であったので許してほしい。
いや、ね。
思考がすっ飛ぶくらいの異常事態であることが、本音を吐き出させるハードルを下げているというのもあるのだが、もう純粋に、見た目が好みど真ん中なのだから許してほしい。
それが
そう、俺の眼前でヒラヒラと可愛らしく手を振りながら、「ほら、そろそろ起きなよ」と声をかけて来るこの美少女は、いわゆる
驚愕の空城立華
ランクB迷宮。常識的でもなければ非常識的でもない、実に普通と言って良い立ち位置に存在する迷宮と言えども、迷宮は迷宮である。
当然のように命の危機に瀕しかねない場所ではあるし、少なくとも気を抜いて挑んで良いところではない。
それが明らかに二年生の実力を逸脱した三人と、プラス俺という四人組であっても変わることはなく、与えられた期間をフルに活用して準備を進め、ついにその日がやってきたのであった────いや、そうは言っても俺は助っ人枠であるので、大して用意を手伝うことも無く、比較的のほほんと過ごしてはいたのだが。
若干の心苦しさがあったものの、そこはもう仕方が無いだろう。
既にあからさまに贔屓されてるチームみたいになっているのだ、出来るところは公平に進めなければならない。
まあ、今更文句を言ってくるような同級生も、いないと言えばいないのだが……。
だから好き放題しても良い、ということにもならないだろう。
そういう訳で、第二の破滅についてちょっとだけピリつきつつも、無事迷宮攻略の日を迎え、意気揚々と突入したのである。
とはいえ、そのことについて、特段語るようなことは無かった。というのも、確かに無重力の空間があったり、一寸先も見えない暗闇の部屋があったり、魔獣とも魔族とも言えない、奇妙な生物に囲まれたり、言葉を話す植物に絡まれたりと、実に迷宮らしいイベントはあったものの、困ることなく順調に進むことが出来たからである。
いやもう、本当に、パパパッと解決して進む三人の後ろ姿を、呆けたように見ながらついて行くだけの時間だった。
気分は完全に観光のそれである────原作のように迷宮に入った瞬間、千手観音みたいな化物にボコボコにされるとかいうイベントが無かっただけに、安心すらしていたと言っても良い。
目に入って来る景色も、「あれこれ地獄じゃない?」みたいなおどろおどろしいものではなく、空のような何かが上には広がっているのだから、それも仕方が無いと言えるだろう。
要するに、かなりの暇人になっていた。
いや、もちろん、やることが全く無い訳では無い。こうしている今も、一応の索敵等はしている……のだが、しかし、その程度のことである。
ていうか、何かあっても基本的に対処は任せる方針だしな……。
完全にいらない子状態だった。
他のチームを遠目に確認できた時に、滅茶苦茶目を凝らして月ヶ瀬先輩か、レア先輩探すくらいしか楽しみが無い。一応、同じ迷宮にはなったのだ。
まあ、それでも結局、迷宮が広大なせいで機会が全く無いのだが……ただぼんやりとしているよりは、幾分かマシだろう、と戦闘中である三人を見ていれば、その内のひとり──ネフィリアムが、こそっと傍らに寄ってきた。
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