黒幕は唐突に


「さて、と。それじゃあ戻るとしよっか。いつまでも、ここにいる訳にはいかないしね」


 パンパン、と手を叩いた月ヶ瀬先輩が、リーダーらしくそう言った。

 それに応じて、葛籠織はレア先輩に背負われ。

 立華くんはフラフラ……っと見てて不安になる感じで歩き出す。


「何か……こうして見ると、意外と圧勝って感じじゃないね」

「怪我は全員、ほとんど無いんですけどね。MPが全然無い魔法使い集団みたいな」

「あははっ、言い得て妙だ」


 でも、あとちょっとだから。がんばれっ、と励まされつつ、控室へと戻る。

 そうすれば当然、特徴的な青髪を靡かせる、我らが副寮監がお出迎えしてくれたのだった。


 といっても、もちろんソファに堂々と座りながら、煙草を吸っているのだが。


「や、お疲れ様──気持ちの良い勝ちっぷりだったねぇ。せんせーも鼻が高いよ」


 ぽんぽんぽーん、と俺達の頭を軽く叩いて、


「良く出来ました。ま、箒をぶっ壊したことに関しては、今回は不問にしてあげよう」


 元々壊れる前提みたいなところあったしね、という聞き捨てならないことを言いながら、笑うアテナ先生だった。


 しかし、それで完全に気が抜けてしまったのか、立華くんはソファにぶっ倒れ、葛籠織はその隣にくったりと座ってしまう。


 こうして見ると、本当に死屍累々って感じだな……。

 レア先輩も足ガタガタいってるし、葛籠織は俺が背負った方が良かったかもしれない、なんて思う。


「おや、月ヶ瀬と日之守は平気なのかい?」

「ええ、まあ、私は空戦慣れてますし、今日は甘楽くんが頑張ったので」

「保護者みたいな面で頭撫でるのやめませんか? 恥ずかしくなってくるんですけど……」

「今更過ぎない? お姉ちゃんみたいなものでしょ」

「全然違いますけど……!?」


 これだから年上幼馴染は……。

 普通にドキドキしてしまうからやめてほしかった。


 そういうことは、俺じゃなくて立華くんの方にやってほしいんだよな。

 嬉しくないという話ではなく、単純に相手を間違えているという話である。


「フゥン……仲睦まじくて良いね。羨ましいな」

「成人女性が何言ってんですか……」

「年齢は関係ないだろう!? やれやれ、失礼な少年だな、キミは……」


 でも、とアテナ先生は言葉を続ける。


「そういうところ、好ましいな────ねぇ、少年。日之守甘楽くん」

「はい? えっ、何ですか急に……」

「キミ、せんせーの肉体モノになってみない?」

「は?」

魔装展開・・・・


 つい先日、聞いたような詠唱が、耳朶を叩く。


 そう認識した瞬間、吹き荒れる魔力に俺を含めた全員が、その場に押し付けられた──え?

 

「之なるは、光を呑みし始まりの闇」


 控室が──いや、世界が。暗闇に呑まれて消えていく。

 抵抗は不可能だった──ただ、驚愕と困惑で、混乱することしか出来ない。

 

「讃え、敬い、しかして恐怖せよ」


 知らない詠唱だった。見覚えのない魔装だった。

 少なくとも、俺の知識には一切存在しない、先天性魔術属性。


「我が身に宿りし闇は《深淵》」


 いや、いいや。

 違う、それどころではない。そんな程度の話じゃない!


 まず、アテナ先生が────アテナ・スィーグレットが敵になるだなんて、聞き覚えの一つもない!


 はぁ!? 隠しキャラなのにこんなことしてくんの!?


「おっと、まずは最初に、こう言っておくべきだったかな────我が名は、ノエル・ヴァルトリク・リスタリア・・・・・。キミらが言うところの、黒帝・・さ」


 魔装は完成し、魔力は再度解き放たれた。


 レア先輩のそれとは、完成度が桁違いのそれが発する圧は、破壊を伴っていて。

 吹き荒れる闇に、意識はあっさりと────







 




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