隠しキャラは鉄板
その晩、赤の不死鳥寮はかつてないお祭り騒ぎとなった。
なにせ各寮対抗戦初日、完膚なきまでの圧勝である──それも、あらゆる生徒、教員の期待を大きく上回る形での裏切りによって。
テンションを上げるな、と言う方が無理であろう。寮の談話室は今や、持ち込まれたお菓子や料理によって、軽いパーティ状態となっていた。
ぶっちゃけ、怖いくらいの掌返しではあるのだが、これが狙いだったので文句はどこにもない────特に、レア先輩が色んな生徒に囲まれている光景など、オタクが死ぬ前に見る夢? って感じである。
ちょっと感極まり過ぎて泣きそうだし、出来れば写真とか撮りまくりたいな、という欲望を抑えながら、端っこでまったりとする。
今日の主人公は紛れもなくレア先輩であり、俺達他のメンバーは、オマケみたいなものだ。
まあ、月ヶ瀬先輩なんかはいつも通りの人気っぷりで、当然下級生に群がられてはいるのだが……一年生組は平和なものである。
葛籠織は友達とキャイキャイしているし、立華くんは普通に自室へと戻っていた。
立華くんに関しては、そこは! 親密度を! 上げにいけよ! と叫びたくなったし、実際そのように誘導しようかとも思ったのだが、俺が月ヶ瀬先輩と話している間、あの二人はあの二人で話し込んでいたことを思えば、不要かもしれないな、という結論にいきついたのであった。
葛籠織はあんまりしつこく話しかけたりすると、グッと親密度が下がったりするからな……。
ここは”見”に徹するべきだろう……とか思っていたら、
「おやおや、こんなところで一人ぼっちかい? 少年……あんなに派手な宣戦布告をしておいて、実はそういうところが本性なのかな」
不意に、隣に腰を下ろした、泣きぼくろのある青い長髪の女性が、面白そうにそう言った。
え? は? ……え!?
「アテナ・スィーグレット……!?」
「おい、少年……仮にも教師を呼び捨てになんてするな」
「あっ……へへ、さーせん」
「謝罪が軽すぎる……まあ良いが」
嘆息してから、ふぃ~、と煙草を吸い始めたアテナ先生を、しかしマジマジと見つめてしまう──というのも、アテナ・スィーグレットとは『蒼天に咲く徒花』における
グランドエンドまで辿り着いたセーブデータを削除し、一から始めることで、運が良ければ出会えるという、超レアキャラクターである。
その馬鹿なんじゃねぇの? みたいな出現条件に加え、ランダム性があることから、都市伝説だと言われていたほどであり、かくいう俺も、動画で少ししか見たことが無いキャラクターであるのだが、これがもう、本当に凄い。
各寮対抗戦期間中に出現する彼女と出会えれば、それ以降、魔法や魔術の特別個人授業(通常の授業の三倍のスキルポイントが手に入るイカれた授業である)や、魔道具の横流しに、杖の無償メンテまでしてくれるのだ。
まあ、その一人のキャラに色々詰め込みすぎだろ、みたいな多数の役割を持っているせいか、親密度が存在せず、あまり情報の開示が行われないのだが……。
それでも、ボス戦以外にはパーティに組み込める上に、他の教員と比べてもステータスがかなり高い、幻の女である。
それが、今ここに……?
いや、そりゃあゲームじゃなくて現実なのだから、いて然るべきなのだろうが……。
何かちょっと感動してしまう俺だった。
ここまで不運に振り回されてきた俺に、ついに幸運が……!
「何だ、そんなにまじまじと見て……私の顔に、何かついてるかい?」
「あっ、いや、そういう訳じゃ無いんですけど……何でここにいるのかなって」
「何でって、そりゃあ私が、この寮の副寮監だからに決まってるだろう」
「!!!?」
「凄い驚き方するなキミ……というか、知らなかったのか……」
私、そんなに影薄いかなあ……。と、がっくり俯くアテナ先生。
あ、そういう感じのキャラなんだ……。
何か意外だな、と思いつつも、副寮監? と思う。
そんなの存在したんだな……。
「いやキミね、幾ら各寮対抗戦で忙しいからって、忘れるのはどうかと思うよ? あ~あ、私傷ついちゃったなあ」
「良い歳こいた女性が、子供を揶揄おうとしないでくれますか? 訴えますよ」
「フゥン、良い度胸してるじゃないか、少年。土下座すれば許してくれるかい?」
「思いのほかあっさりと屈したな……」
「大人はね、弱いんだよ。権力と法律と外聞に」
情けないことを堂々と言うアテナ先生だった。
ちょっと生々しさがにじみ出ていて、若干引いてしまう。
「ていうか、副寮監だからって、ここにいる理由にはなってないと思いますが……」
「ん、まあね。でも、いても不思議ではない、そうだろう……なんて言うのは卑怯かな。実を言うとね、キミらを見に来たんだ」
「……っていうと、各寮対抗戦チームですか?」
「そうそう。今日の活躍で、すっかり岸間先生──うちの寮監ね、一応──がやる気になっちゃって、私の方でサポートしてあげてって言うからさぁ」
こうして見に来たって訳さ。ま、全員とは会えなかったけど。と煙を
「ま、そういうことだから、明日からよろしくね? って伝えて欲しくて」
「俺を伝書鳩にしたかったってことですか……」
「そゆことそゆこと。ま、どうせ後二日だし、気楽に付き合いたくてさ」
それじゃ、よろしくね~と、アテナ先生は、俺の頭をぐりぐり撫でた後に、歩いて行ってしまった。
本当にそれだけだったんだ……という、若干の肩透かし感を味わいながらも、その飄々とした様子は、如何にも隠しキャラっぽいなあ、等と思う俺であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます