きっと全部彼のせい


 良く混同されがちであるのだが、『蒼天に咲く徒花』における「魔法」と「魔術」は、全くの別物である。


 前提として、大きく分けるのであれば、魔法はつまるところ「超科学」であり、魔術とは正しく「ファンタジー」であるのだ。


 人間であれば、誰しもが生まれ持つ魔力を媒介に、杖(正式名称:精密Terminale魔力 Operativo操作 Magico di端末Precisione。頭文字をとってT.O.M.Pなんて言う人もいるが、大体みんな「杖」と呼ぶ)を通すことで起こすことが出来る、多種多様に渡る現象・・


 発達した科学によって魔力を解析し、設定されたプログラムに魔力を通すことで、発動する現代の超常現象──それが、俺達が言うところの「魔法」であり、これを主に用いる人間を「魔法使い」と呼ぶ。


 それに反して魔術とは、先天性魔術属性という、生まれながらにして持ち得た才能を駆使し、これほどまでに発達した科学でも解析できないプロセスにより、引き起こされる超常現象を指す。


 杖を必要とせず、やろうと思えば無手でも属性に沿って起こすことが出来る超常現象──それが、俺達が言うところの「魔術」であり、これを主に用いる人間を「魔術師」と呼ぶ。


 要するに、魔法は万人が使える手段であり、魔術は選ばれし者のみが使える手段、という訳だ。

 あるいは、凡人と天才の差、と言っても良いのかもしれないのだが。


 魔術師が大昔からいたことに比べ、魔法とは、ここ百年程度で確立されたばかりのものである────即ち魔法とは、魔術師に対抗するために、才能に恵まれ無かった凡人が辿り着いた境地である、という訳だ。


 これにより、魔術師と非魔術師との間に、大きな隔たりはなくなった、が、しかし。

 それでも極まった魔法使いと、極まった魔術師では、やはり魔術師が勝つというのが通説である。


 というのも、魔法とは違い魔術には、極致とでも呼ぶべき真髄があるからだ。

 これには幾つかの種類が存在するが、最もスタンダードと言われるのが『魔装』である。


 自らの属性を理解し、自身を属性と同期させることで出力を大幅に上げ、同時にそれを基に、一定の領域を完全に支配する、魔術の深奥。


 その形はそれぞれではあるが、しかし、習得するのはそう簡単ではない──いや、いいや。

 こういった言い方は誤解を招きそうだから、断言しておくのだが、多くの魔術師は一生涯かけても習得することはできない。


 魔術とは、それ自体が才能ではあるが、それを使いこなすにも、当然ながら才能がいる。

 そのような稀少な人間の、更に一握りの人間がやっとの思いで辿り着けるが故に、魔術の極致と呼ばれるのだから────黒帝が、世紀の大天才と謳われ、ただ一人の企みで魔法魔術界をひっくり返す、その一歩手前まで迫れたのも、ここが関係している。


 彼女は人にしては、あまりにも魔術への造詣が深かった……あるいは、深すぎた。それこそ、憑依したばかりの肉体で、即座に魔装を展開できるほどには。


 実際、ゲーム上でレア先輩に憑依した際は、《炎熱》の魔装を展開したし、概要しか開示されていない『百鬼夜行』では、精神操作した魔術師を、強制的に魔装展開させたほどであると言う。


 転生前から「やべー女だな……」とは思っていたが、こうして自分の目で、初めて魔装を見ると「は? 黒帝、化物とか言うレベルの話ではないですが……」となるのだった。


 まあ、冷静に考えたら、それをボコボコに叩きのめした校長がガチで強すぎるだろ……という気持ちが湧き上がるのだが。

 それはそれとして、《神焔》とか言い始めたレア先輩が巻き起こす、紅炎を見ながら一息吐く。


(いや知らん知らん知らん知らん知らん知らんなになになになになに!!!?!?!??)


 マジで知らなかった。聞き覚えが一ミリもない。

 何だよ《神焔》って。《炎熱》はどこ行った。 

 ちょっとグレードアップしました☆ みたいなノリで、魔術属性を進化させないで欲しい。


 何か神々しさが増しちゃってるじゃん。

 ていうか、その、本当に何……?


 魔装展開した時点で、既に目ん玉が飛び出そうだったのに、ダメ押しとばかりに、全く知らない情報を叩きこんでくるのはやめて欲しい。

 いや、確かにレア先輩は黒帝の件が無ければ、在学中に魔装に至れるのでは、みたいな考察を見たことはあるし、俺だってしたことはあるのだが……。


 何かもう、色々と滅茶苦茶だった。

 流石にこれに関しては俺は悪くないだろ、と絶叫させてもらいたい。


「あ~、レアちゃん、結構無理してるねぇ……」

「無理?」

「うん、無茶って言い換えても良いかもしれないけどね──ほら、良く見て、甘楽くん。色々と、安定してないでしょ?」


 隣に並んでいた月ヶ瀬先輩に優しく促され、目を凝らす。

 会場は、紅の焔……要するに、レア先輩の魔力で満たされていた。

 さながら異界の如く、そこはレア先輩だけの世界であり、しかし──


「あ、ほつれてる」


 思わず漏れた一言に、月ヶ瀬先輩が「でしょ?」と頷いた。

 そう、言葉通り、解れてる。

 もしくは、完全ではない、と言っても良いだろう。


 レア先輩の出力は安定しておらず、魔力は乱れ、纏った魔装は崩れては再生を繰り返し、地を舐め尽くす紅焔は制御しきれていないのか、気ままに暴れていた。


 あれでは、如何に大量の魔力を持つレア先輩でも、五分と保たないだろう。

 もう少しよく観察すれば、早くも肩で息をしているのが見て取れる。


 まあ、だからと言って、別に凄さが薄れる訳では無いのだが……。

 一分だろうが三十秒だろうが、疲れていようがいまいが、展開出来てる時点で、既に偉業だ。


「まあ、それはね。そもそもレアちゃんが魔装を習得したのも、ついこの前だった訳だし」

「へぇ……そうなんですか。何かきっかけがあったり?」

「ん~、あったにはあったけど……」

「……? え? 何ですか、その目は」


 突然、呆れ切ったような……端的に言って、クソ失礼な眼を向けて来る月ヶ瀬先輩だった。

 急にそういうことをされると、俺が悪いみたいな気分になってしまうのでやめて欲しい。


 え? 原因俺じゃないよね? 特に何か関与してる訳じゃないよね?

 心当たりが無さすぎるのだが、普通に不安になってしまう。

 

「……本当に、分からないの?」

「分かってたらこんな問答しませんが……」

「はぁ……あのね、レアちゃんはあの・・黒帝と同調したんだよ? 影響が・・・出ない訳ないよね・・・・・・・・?」

「……? ??? ……!!!?」


 は?

 え? つまり、それは。


 黒帝と同調した際に、まず黒帝が、レア先輩の魔術属性を理解して。

 その上で、レア先輩は黒帝と自我を共有したから、魔装へと至った……ってコト!?


 …………じゃ、じゃあ、俺のせいじゃん。

 本当に、一から十まで俺のせいじゃねぇーーーか!!?


 レア先輩に関するイベントが、悉く俺のやらかしで滅茶苦茶になっている!!!

 なーにが「俺は悪くないだろ、と絶叫させてもらいたい(キリッ)」だよ。ふざけとんのか。

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