先輩系ヒロインは定番
前回までのあらすじ!
主人公の幼馴染ヒロインと行動することになってしまったぞ!
当面の俺の目的は、死なないことを主軸に誰にも死んでもらわず、主人公とヒロイン達に世界を救ってもらうことだぞ!
因みにうっかり主人公(引くほど弱い)の見せ場を奪ってしまったので、主人公にはバチクソに嫌われてしまってるぞ!
馬鹿かよ。
何でやりたいことと、やってることが矛盾してんだ。
俺はこんなに頑張っているというのに……。
「まあ、それが全部空振ってるからなんだけど……」
寮の個室で一人、朝陽を浴びながら今日の予定を組み立てる。今日は入学して初めての休日なのだ──と言っても、やることなんて考えるまでもなく、決まっているようなものであるのだが。
もちろん、
つーかぶっちゃけ、そこはもう大体分かってる。というのも、『蒼天に咲く徒花』は一年で一章進む形式であり、章ごとにボスが用意されているのだ。
一~四年。つまり、一~四章のメイン敵は魔法を用いた犯罪者集団、通称:堕ち人と、そいつらの王である『
五~八年。つまり、五~八章のメイン敵は魔獣どもと、それを率いる『魔王』。
そして九~十章で、その二つを纏めて相手することになっている。
そう考えればまあ、一章ボスの仕業だろうなあ、という結論に至るのは、道理であるというものであった。
黒帝は、つい二十年ほど前に世界を大きく揺るがした、史上最悪の魔法使いである。
多くの魔法使いを血祭りにあげたという『百鬼夜行』を主導し、その末に、我が校の校長によってぶちのめされた大魔女。
しかしながら、殺すことも、捕らえることも出来ず、今も彼女はどこかに潜伏しているという──のだが、実を言うとこいつ、
かつて、死ぬ直前まで追い詰められた黒帝は、肉体を捨て魂だけの存在となることで、校長への憎しみを募らせつつも、自分にとって最上の
で、その肉体に選ばれ一章ボスとなるのが、俺達の三つ上の先輩であり、黒帝と血の繋がりがある少女なのである。
なので多分、今からその子をぶっ叩きに行けば、目下の障害は排除出来そうなものであるのだが、しかしイレギュラー塗れな現状を見る限り、安易にそんな判断は下せなかった。
そもそも、普通にボコされる可能性もあるし……。
それにほら、また俺の知らないイベントが起こっても嫌だし……。
仮に上手くいったとしても、二章が早回しで始まりでもしたら最悪である。
俺がどうこう、というより多分、立華くん含めて大勢の生徒が確定で死ぬ。
二章は大分ハードだからな……。
ちなみに俺の実力であるのだが、ここ数日検証したところ、"良く分からない"という結論に達してしまっていた。
あるいは測定不能、と言い換えても良いかもしれない。
いや、何か……魔力測定機とか使っても、エラーが吐き出されるんだよな。
これが俺の魔力が凄すぎて! とかだったら夢があるのだが、触れた瞬間エラーになるので何かもう、世界に否定された気分を味わってしまっていた。
とはいえ、体感と記憶を擦り合わせた感じ、相当なレベルであるのは確かである。
これで俺の死因が、大体の場合において超高レベルの魔獣の群れか、魔王であることを除けば一安心だったんだけどな。
現実はそう上手くいかないようだった。
「やっほー、甘楽くん。相変わらず死人みたいな目してるねぇ」
「開口一番から悪口!?」
「朝陽が似合わない人って、わたし、甘楽くんだけだと思う」
「俺の罵倒大会を急に始めるのはやめましょうね。俺が可哀想なだけなので」
ちょっと見惚れちゃうくらい可憐な笑顔であるにも関わらず、ビックリするくらい失礼なことを言い始めたのは、当然ながら月ヶ瀬先輩だった。
アルティス魔法魔術学園の寮は、学年と男女で分かれているのだが、普通に行き来することが出来るし、男子が女子寮に行くのは禁止されている反面、その逆は許されているのだった。
まあ、だからと言って、月ヶ瀬先輩がここにいる理由には全くなっていなんだけど。
は? 何か流れで受け容れちゃったけど、本当に何でここにいるんだよ、この人。
「んー、暇だったから……とか?」
「フットワークが軽すぎるんだよな。しかも疑問形だし」
マジで何しに来たんだろう。
明らかにはぐらかされた感じであるのだが、仕方ないのでお茶でも淹れることにした。
ふぅ、と一息ついてから、まあこれはこれで、悪くない展開ではあるな、と思う。
一章ボスと月ヶ瀬先輩は同級生かつ、親友だ。
情報を得るには、これ以上ないキャラクターである。
本来であれば、立華くんにこの辺の探求をして欲しいのだが、色々とそんな場合じゃないんだよな……。
彼にはレベリングと親密度上げに専念してもらい、情報は全て俺が集める──というのが理想的な流れだろう。
ギャルゲーに良くいる、やたらとヒロインのことを知ってる親友キャラの如く、必要な場面で必要な情報をペラペラを明かし、スムーズに動いてもらうという訳だ。
問題があるとすれば、俺がハチャメチャに嫌われているということであるのだが……。
まあ、何とかなるんじゃねぇかな。その時の俺が何とかしてくれると思う。
「甘楽くんのそういう、未来の自分に対する根拠のない信頼が大きいところ、わたし嫌いじゃないよ」
「奇遇ですね、俺も自分のこういうところ、大好きなんですよ」
「甘楽くんは基本的に、自分のこと全部大好きじゃん……」
「そりゃ、誰だって自分が一番好きに決まってるでしょう」
「そんなんだから友達の一人も出来ないんだよ?」
「余計なお世話すぎる……」
大体、自分のことだけでも手いっぱいなのに、立華くんのことまで考えなければならない状態に陥っているのだ。
友達作りとかしてる場合かよ──いや、仮に何もなくとも、俺に友達が作れるとは思えないのだが……。
前の世界で友達の一人もいなかった俺であることに加え、今は踏み台な
は? 葛籠織? あれはただの協力者だから。
「さて、そんな甘楽くんに、わたしから良いお知らせです」
「えぇ……」
「露骨に嫌な顔をした!?」
もうちょっと期待とかしてよ~、としょんぼりする月ヶ瀬先輩だった。
立華くんのヒロインだから、あんまりそういう目で見るのは良くないよな……という俺の自衛フィルターを貫通して来る可愛さである。
ふとした拍子に惚れそうになっちゃうからやめて欲しい。
ただでさえ、月ヶ瀬ひかりという女性のことは、キャラクターとして見たら滅茶苦茶好きなのだ。
依存癖のあるお姉さんとか嫌いになれって方が無理だろ。
「それで、良いニュースってのは?」
「あ、気になりはするんだ」
「ここまでチラつかされて、気にするなって方が無理でしょうが……!」
お嬢様である月ヶ瀬先輩を相手に、台パンするのは品が無さすぎると思ったので、代わりに滅茶苦茶拳を握りしめることにした。
そんな俺を見ながら、月ヶ瀬先輩はニコニコと笑って、「そろそろだよ」と意味深に言う。
は? 何が?
「ふふ、実はね──今日は、わたしの親友を紹介しようと思って来たんだ」
「は?」
待て! と思うより先に、控えめなノックが響き、扉が開かれる。
そこから姿を現したのは、如何にもお嬢様みたいな風格を放つ、紅髪の女性──レア・ヴァナルガンド・リスタリアであった。
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