第6話


 …昔からこうだ。

 何故かこの男は、おかしなものばかり引き寄せる。まるで強力な磁場を伴った電磁石のように、片っ端から対極の女を引き寄せる。


「わたしはミルカ。数千万年前から、この神殿を守り続けていた守護者。そして、かの有名なオキシドール博士により作られた、少女兵器の5体のうちの1体です」


 なんだその二酸化マンガンぶち込みたくなる名前。


「オキシドール博士って、あ、あの有名な!?かつて世界の大改変をもたらしたっつー、伝説の発明家のことかよ!?」


 意外なことに、一番大きな反応を見せたリッドにミルカは艶然と微笑えむと、長い金髪を揺らして両手をアヤトの腕に絡ませた。


「ええ。その通りです。そしてつい先ほど、神の落とし子であるアヤト様によって、数千万年の眠りから解き放たれたのです。言い換えれば、私を封印から救ってくださった救世主様なのです」

「ちょっと、どういう事なのアヤト!?それでどうしてこの女があんたのしもべになってるの?一体何が起きたのよ!!」


 そう言って取り乱すネロは、今にもアヤトに掴みかからん形相だ。凄まじい勢いでアヤトに肉薄し、迫り寄った。


「えーと、これはですねその、色々とありまして…」

「色々じゃわかんないのよ!何、そんなに人に言えないことをやったの!?」

「そうなのです。彼は封印が解けたばかりの、意識の朦朧とした、裸で無抵抗の私にあんなことやこんなことを…」

「ちょーっとあんたは黙ろうか」

「ふふ、承知しました。けれど、先ほど言った言葉は嘘ではありませんよ?全裸の私の体を弄ったことは…」


 あくまで笑みも供述も崩さないミルカに、途端に場に寂寞のとばりが降りてくる。

 長い間の後、皆がじーっと物言いたげな目線でアヤトを見やった。

 全員に非難と軽蔑の紛錯する視線を当てられて、アヤトは慌てて顔を紅潮させながら手を振って見せる。


「ちっ、違うんだ。ほら、見ての通りミルカさんって肌とか真っ白だしさ、もしかしたら死んでいるのかもって思って、それで呼吸とか心音を確認しようとしただけで…け、決してやましい気持ちは無いというか…」

「ふふふ、そうでしたね。確認と称して体を隅々まで舐るように触り倒したこと、ちゃんと覚えていますよ」

「ハァア!?」

「わーーー!だから違うって!」


 そんなくだらない会話を聞き流しながら、私は静かに思考を馳せていた。

 さて、どうしようか。

 …一見隙だらけだが、先ほど少女は自分のことを少女兵器と言っていた。

 なら動体視力や反射神経にも優れているかもしれない。警戒したほうが良さそうだ。

 さて、どこから開こうか。

 お腹をかっさばこうとも思ったが、鋼鉄かなんらかの武器仕込まれてる可能性もある。となるとやっぱり狙うのは首だろうか。

 だが、首だと確実に頸動脈を仕留めなければならない上、出血量が多くて処理が大変だ。それに、証拠隠滅のために、地面に埋めた際、バレてしまうかもしれない。

 いや待てよ…兵器なら、そもそも生身の体ではない可能性も否めない。つまり、全身が機械やそれ専用の部品で出来ている可能性もある。ということは、生半可な武器では傷一つつけられないということだ。

 なら、いっそ爆裂系統の魔法で木っ端微塵にするか。それなら地面に埋める必要もない。

 いやいや…兵器は魔法に強い耐性があると聞くから、うーん、どうしようか。


「おい。おい、テセラ」


 やっぱり電気ショックが一番効くのかしらん。


「なんなの、リッド」

「おい、テセラ。…お前さんがなァに考えてるか、当ててやろうか」

「…今晩の夕食にはネジが入るかもしれないけれど、許してもらえると嬉しいの」

「やっぱりなァ!そんなことだろうと思ったよ!やめろ!やめろ!」

「あっでも機械油とか浮きそうね…いろんな意味で嫌だしやっぱり粒子レベルまで分解して塵も残さず抹消した方が良いの。ねえ、リッド?」

「逆に何故そこで話を俺に振る?っつーか、 お前さんもお前さんでそんな調子だから、今でもアヤトと微妙な距離感なんだよ!」


 決めた。今夜の晩飯はリッドの八つ裂き味噌煮込みだ。

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